二次創作とメジャーシーンの両方で活躍するクリエイターへのインタビュー

二次創作とメジャーシーン、両方面で活躍する
「豚乙女」のコンプ氏にせまる。

東方projectという弾幕系シューティングゲームの楽曲をアレンジする「東方アレンジ」。ニコニコ動画を中心に今も根強い人気を誇っているその東方アレンジの同人サークルとして人気を博し、2017年3月15日に1stミニアルバム「フルボッコ」でメジャーデビューも果たした今注目の音楽グループ「豚乙女」。
そのメインコンポーザーであるコンプ氏へインタビューをおこなった。音楽における二次創作、特に同人音楽、東方アレンジにフォーカスを当て語ってもらった。同人サークルでもあり、プロとしてメジャーシーンでも活動をし、クリエイターであり、東方projectの1ファンであるコンプ氏だからこその様々な視点で語ってくれた。
同人とは何だ?と思っている人にも同人の魅力が伝わるような、同人シーンのこれまでやこれから、コンプ氏の「同人観」にせまるインタビューとなっている。


豚乙女
飲み仲間であった4生物が『何か楽しいことをやろう!』というコンセプトの元に 2009年秋に結成。1人(人間)、1頭(シロクマ)、1匹(ネコ)、1羽(ウサギ)という構成。東方Projectの二次創作やオリジナルCDの制作、ライブ活動など楽しく勢力的に行っている。

 

東方との出会いはメンバーから

まず、コンプ氏と音楽としての二次創作、今回は東方との出会いのきっかけは「豚乙女」のメンバーである「ランコの姉」氏に原作を教えてもらったことだという。コンプ氏が東方アレンジの存在を知った当時、特にニコニコ動画が盛んな時期で、ビートまりお氏の曲を聴き、他にない熱量や何もフィルターがない状態で自由にやっているところに心惹かれたそうだ。確かにニコニコ動画は独自のCCライセンス、ニコニ・コモンズを採用しており、クリエイターの自由度が高く、熱量も直に伝わりやすい。二次創作の良さが顕著に表れる場所の代表的な場の一つとしてニコニコ動画はあげられるだろう。

 

二次創作は自由だ

自由な面とは別に東方アレンジ等を始め、二次創作としての音楽には原曲があり、原作がある。そして原作、原曲ファンのレスポンスがどうしてもつきまとうものだ。そこに否定的な意見も少なくはないだろう。二次創作だからこそ生まれるオーディエンスの意見をコンプ氏はどう思っているのだろうか。

仕方ないことだと思います。二次創作に限ることではないですがイメージはそれぞれのものですから。二次創作、同人は(原作に対する)自分のイメージを自由に表現するものだから、合う人、合わない人がいるのは当然のことだと思います。

ここでキーワードに上がっている「自由」はコンプ氏が二次創作に魅力を感じたところの一つであり、クリエイターもオーディエンスも「自由」に楽しんでいるからこそ賞賛や否定的な意見が盛んに飛び交っている。そのことが、二次創作の「自由」の証明と言ってもいいかもしれない。

 

二次創作をする側からされる側へ

愛を持った東方projectの1ファンである一方、同人音楽、特に東方アレンジシーンで絶大な人気を博し、メジャーデビューも果たした「豚乙女」の楽曲はたくさんのファンを持つようになり、弾いてみた、歌ってみた等の二次創作活動の対象になった。二次創作をする側からされる側になったこの状況についてどう思っているのだろうか。

まず嬉しいです。嬉しいというのを大前提として、とても自然なことだとも思います。同人の良さである規制がない、自由な部分からこういったものが生まれている。そういった面でも自然だし嬉しいことです。

二次創作から二次創作が生まれる。本人の知らないところでも二次創作は拡がっていく。これが二次創作の特性であり、数多くの人に愛される文化になった要因の一つだと考えられる。だからこそコンプ氏も自然であり、嬉しいことだと言ったのだろう。

 

同人もメジャーも変わらないスタンスで

同人シーンだけでなくメジャーフィールドでも活動していくことにより、二次創作、同人作品への考え方や思いは何か変わるのかと疑問を私は持っていた。それについて聞いてみると、「特に変わりはない。」とコンプ氏は言った。

そして、「僕の中で音楽や漫画、同人小説等はどれも初期衝動は同じでただ面白い、かっこいいものを作りたいといったようなナチュラルな気持ちからできていると思っています。メジャーは会社がそれを元にしてビジネスをしてるだけなので。今でも変わるものはないしどちらも同じだと思っています。」とも語ってくれた。

同人もメジャーも変わらない。両方のシーン、何より、音楽に愛を持ってひたすらまっすぐ進み続けているコンプ氏だから言える言葉だろう。それは「豚乙女」の活動を見ていてもそのことが感じられる。純粋な「熱」が絶え間なく存在し続けているのだ。

 

変わるものと変わらないもの

変わらない初期衝動で今も第一線で走り続けているコンプ氏から見て昔と今の二次創作文化全体の変わったところはあるのだろうか。

変わったことは、20年前くらいからツールが発達し、同人がやりやすくなっていることです。音楽だと制作ツールが誰の手にも届く価格になり、同人誌は印刷がしやすくなっています。デジタルの発達により、デジタルだけの発行もある。音楽も今後デジタルでの配信という形が主流になっていく可能性もあると思います。しかし、現物主義の人が多いという同人の特色からそれもまた一概には言えないことですね。

デジタルの波が同人シーンにも押し寄せてきてはいるが、現物主義の人が今も多くいる理由の一つとして、独自に発展してきた文化であり、即売会という人と人が実際に会ってその場で作品のやり取りをする場がいまだに盛んだということがあげられるだろう。

その一方、「逆に誰にでもやりやすくなった反面、特徴を出すことが難しくなっているとは思います。」とも語ってくれた。発達が必ずしも発展だけにつながるというわけではないのだ。

こうして色々と変わっていった同人シーンに今も変わらずあるものは何かと聞くと、「二次創作、一次創作のどちらにも言えることですが、こういうことがしたいという熱量や気持ちは今も変わらないものです。」と答えてくれた。

こういった熱量や気持ちが充満し、消えることなく漂い続けている。技術が変わろうが気持ちや熱量が根本で支え続けている。これは決して揺るがない、揺らいではならないものだろう。

 

二次創作を長くみんなが遊べる場に

ここまで過去や現在について聞いてきたが、二次創作、特に活躍されている東方同人はコンプ氏からみて、今後どうあって欲しいものなのだろうか。

まず、zun(東方原作者)さんにできるだけ続けて欲しいです。その上で長くみんなが遊べる場であり続けるために、みんながみんな手と手を取り合う必要はないが音楽サークル、絵師、同人小説作家等がコラボをしたり、なるべくやっている方達が東方を盛り上げていけたらいいかなとは思っています。

これからも愛される遊び場であり続けられるように、どの分野も関係なくクリエイター達の熱量がこれまでも、そしてこれからも必要だと分かっているコンプ氏らしい答えだ。

最後にこう語ってくれた。

即売会などでサークル参加、一般参加と言われるように、売り手も買い手も同じように楽しめるのが同人ですので、これからもそれは変わらず続いて欲しいです。

コンプ氏が本当に愛を持って楽しんでいることがわかる。メジャーフィールドでも活躍されているコンプ氏が熱量や愛を今も変わらず、肌身離さず持ち歩き続けていることがこれからも様々なクリエイター達の道しるべとなり、二次創作の可能性を拡げ続けるのだろうと確信した。

こういったクリエイターが第一線を走り続けている限り、価値観が多様化しても、二次創作という楽しい遊び場は決してなくならない愛される場所としてあり続けるだろう。

 

 

東方アレンジ、ボーカロイド、商業音楽、全ては「地続き」
様々な音楽の場で活躍する烏屋氏の活動の強みは二次創作にあった

東方アレンジから活動をスタートをさせた後、ボーカロイドを使った楽曲の投稿を始め、数々の殿堂入り楽曲を持つ人気ボカロPとなり、アイドルマスターやけものフレンズ、VALKYRIE DRIVE -MERMAID-、NEW GAME!等のアニメ関連の作品も手がけている烏屋茶房氏にインタビューを行った。烏屋氏がなぜ様々な音楽の場で活躍し、人気を得ているのか。様々な人を惹きつける力の一端が垣間見えたインタビューとなった。その鍵は二次創作にあった。


烏屋茶房
1990年生まれ。宮崎県宮崎市出身。12歳の頃よりギターをはじめ、しばらくしてMTRで音源作成なども始める。このころより友人の勧めで同人音楽活動をはじめ、初期は東方のアレンジを中心に活動。2010年、Vocaloidを利用した楽曲の制作を開始する。現在までに7作の殿堂入り作品(10万再生以上)を制作。ネット上での関連動画再生数は1000万再生を超える。(※1)
2014年”goodnight,wonderend”でdueよりメジャーデビュー。今までのボーカロイド音楽ではなく、完全書き下ろしの音楽とイラストで勝負をし業界に一石を投じた。また、自身のアルバム”文学少女インセイン”の小説をPHP研究所より出版。原案を担当した。PVも自作するなど、マルチな才能を持つクリエイター。

(※1)歌ってみたや派生動画含、youtubeとニコニコ動画の1万再生以上の動画を合算

 

ネット上で活動するようになったきっかけ

まず、烏屋氏はなぜ東方アレンジ、ボーカロイドなどのネット上で同人音楽活動を始めたのだろうか。

バンドなどではなく、気楽にやれて自分一人でも完結するような、思ったようにやれる形態が欲しかった」というのがネット上で活動を始める動機の一つだったそうだ。

東方アレンジを主に活動の場としていた烏屋氏だったが、ボーカロイドを使った楽曲の発表を活動の中心に据えるようになった。その理由は東方アレンジと違った魅力を感じたからだという。

最初はボーカロイドも東方アレンジも二次創作的な、キャラクター性に対してアプローチしていくっていうような土壌でしたが、だんだんとボーカロイドの方は曲に主体が移っていったと思います。自分がより主体的にやれる場はボーカロイドだと感じ、力を入れていくようになりました。

 

ボーカロイドは終わったのか?

ボーカロイドは、二次創作がとても盛んな場の一つだと言える。数々の楽曲が人気を博し、人気ボカロPとなった烏屋氏の目にボーカロイド文化はどう映っているのだろうか。昨年の大きなトピックとして『砂の惑星』という楽曲が様々な議論を呼び、話題になった。その中の一つ、というよりここ何年も言われてきた、ボカロは終わったという意見。

これに対して「変わってはいるけど、終わってはいないと思っています。変わっていった結果、受け取り方も変わり、そういう風に見えているのかなと思います。でも、本質的には楽しいとかやってみたいっていう意思に支えられた場が同人音楽であり、流行の移り変わりはあっても本質的な部分は変わっていないと思っています。」と話してくれた。

 

同人音楽に正解はなかった

二次創作、同人音楽、そして商業音楽と幅広く活躍する烏屋氏。だが、商業作品を手がけるようになる直前は、ボーカロイド界隈での商業的な行いとそれによる一連の流れのようなものに怒りを感じていたという。しかし、実際に携わるようになり、その考えが変わったそうだ。

いわゆる媚びるということに対しての考え方が変わったというのが一番大きいと思います。媚びるって同人音楽に限らず色んな音楽でマイナス的なイメージで言われることが多かったと思うのですが、媚びるっていうのは何を求めているのかというものの総体のようなもので、人気がでるということはつまり求められているということ。同人音楽をやっていた時より、聞く人は何を求めているのかとか、聞き手、受け取る側に対して思いを巡らすことが多くなりました。

その後、同人音楽とは何だともう一度考え直した時に、熱意を持って物事に取り組む人たちの集まりに対して正解があると考えていたのは間違いだったなと思いました。色んな音楽の場に関わらせていただくことによってある意味相対化したというか、考え方が広くなったと思います。

実際に見てきたから分かる事がある。色々な音楽の場に関わってきた烏屋氏だからこそ、人々を魅了し続けるものを言い表すための『正解がない』というある意味正解の一つにたどり着いたのだと思えた。

 

二次創作が活動の強みになっている

烏屋氏は商業音楽の場で特に作詞での参加が多く見られる。その求められる理由は何なのだろうか。

仮に求められているとしましょうという前提の元で話をさせてもらいます。今はアニメ関連の作詞をさせていただく機会が多いのですが、偶然東方アレンジをやっていたということは一つの要因として考えられると思います。東方アレンジでは、技の名前やキャラクターの背景、元になったキャラクターの説話等を作品に落とし込む事が歌モノだと特に多いです。その時にやっていた事はあるテーマに基づき、資料を元に掘り下げる。それを言葉に表すといったようなアニメ作品に携わる時にしている作業に近いことでした。自分の詞は関連したことが並んだ時にそこから生まれる一つのキャラクターや歌の世界を面白がってもらっているのかなという気がしていますが、その源流は東方アレンジの時にしていた作詞の方法にありますね。これは本当に実感としてあります。

二次創作、同人音楽、元となるコンテンツがあるというバンドやシンガーソングライターとは違った文化の中で楽曲を発表し続けてきた烏屋氏。そこでいわゆる作家性のような感覚が磨かれていたという事だろう。

ただある時期まできっとボーカロイドみたいな音楽は作家性みたいなところと結びついてはいないはずだと思っていた時期があったのですが、文脈としてそっち側だったというのを今再確認しました。そういう文脈にいた人間の強みのようなものが商業音楽活動に生かされているのかなという気がしています。

さらにコンテンツと紐づく商業音楽についてこう語ってくれた。

キャラクターソングは言ってしまえば限りなく二次創作に近い一次創作、キャラクターの表現の延長ということになる。それが歌詞になるとその意味合いがより強くなると思います。キャラクターソングやアニメソングに関して言えばあながち一次創作と二次創作の違いってないのかなと思ったりします。

二次創作、同人活動と商業活動が全て繋がって今の烏屋氏になっているのだ。

 

『面白い』や『尖っている』を優先したがる事務所『TOKYO LOGIC』

体験や技術だけではなく、人間関係でも二次創作や同人活動をしていたことが今の活動に繋がっているのだろうか。

今の事務所の方に声をかけてもらったきっかけも自分のボーカロイド楽曲であったりするので、本当に地続きの出来事としておこっているような感覚を味わっています。

烏屋氏が所属している事務所TOKYO LOGIC。その作品、活動、クリエイターの経歴からいわゆる一般的な作家事務所とは違ったもの感じる。実際に参加している烏屋氏に他とは違うものの正体について語ってもらった。

目に見えるところとしてはインターネット発や、同人音楽出身の人が多いというのが特徴の一つになるかと思います。後はアクの強いものでも面白いと思えばやるというような風土があると感じています。『面白い』や『尖っている』みたいな部分を何より優先したがると言いますか。代表がそういうことが大好きなので。

それはクリエイターにネット発や同人音楽シーン出身が多いという事にも繋がっているのだろう。

TOKYO LOGICの代表がいつも強調しているのが作家ではなく、アーティストであれと言っていまして。つまり今までの活動の延長として新しい表現の追求、『面白い』に熱を持って取り組むということを目指している事務所だと思っています。

TOKYO LOGIC所属クリエイターの活躍が近年めざましいものとなっている。それは二次創作、同人音楽で培われた技術だけでなく、その姿勢や意識が各々にあるということが一つの要因となっているのだ。

 

全て「地続き」これまでも、きっとこれからも

二次創作や同人音楽で培われてきたものが体験や技術だけでなく人間関係も全て繋がってきている「地続き」であるという事。たくさんの音楽の場で活躍している烏屋氏だからこそ全てが地続きである事を理解し、実感できるのだろう。二次創作、同人音楽、商業音楽活動で得た事がお互いに影響し合っている。だからこそどの活動、作品にも深みが付加されたものとなっているのだ。

今は音楽とは別としての物語に興味があるそうだ。また、ボーカロイド音楽についても自分とは何だ、というのを再確認したいと思い、曲を作っているそうで、これからも数曲投稿する予定とのことだ。これからの活動もこれまでに培われたものがそっと支える「地続き」な活動になるのだろう。それが楽しみで仕方ない。そう思わせてしまうのがたくさんの人を惹きつける烏屋茶房というアーティストであり続ける所以なのだと確信した。

 

 

「IOSYS」はいかにして新しく面白いものを生み出し続け、幅広く認められるようになったのか。
その秘密を「IOSYS」のクリエイターでありプロデューサーでもある夕野ヨシミ氏から解き明かす。

東方アレンジ楽曲、PCゲーム、アニメ関連の楽曲等、二次創作、商業音楽と様々な方面で活躍する音楽制作グループ「IOSYS」。東方アレンジの場で電波ソングを多くの人に認知させた先駆けのような存在でもある。その「IOSYS」の仕掛け人である夕野ヨシミ氏にインタビューを行った。「IOSYS」が音楽シーンでこれほど活躍する事になった理由。そこにはゲーム、コメディ、ラジオといった音楽だけではないものから生まれるクリエイティブな要素が関係していた。


夕野ヨシミ
作詞家・プロデューサー・ディレクター・エンジニア。これまでに企画プロデュースしたCDタイトルは60以上、作詞した楽曲数は350曲を超える。サークル「IOSYS」の設立者。個人サークル「ユウノウミ」を主催。音楽ユニット「アルバトロシクス」には「Countess YOUNO」名義で参加。配信開始から12周年を迎えたウェブラジオ「ぬるぽ放送局」に毎週出演中。

IOSYS(イオシス)
札幌の音楽制作団体。1998年10月10日に活動を開始し、350以上の自主制作CDをリリース、「あっちこっち」「ゆるゆり」「えとたま」「アイドルマスターシンデレラガールズ」「ロボットガールズZ」などのアニメ作品にも楽曲提供を行なっている。東方アレンジなどの二次創作音楽も手がけ、ジャンルでは電波ソングの制作に定評があり、「チルノのパーフェクトさんすう教室」が人気。「BEMANIシリーズ」、「maimai」「CHUNITHM」、「グルーヴコースター」、「太鼓の達人」などの音楽ゲームに楽曲提供もしている。このほかインターネット生放送、ウェブラジオ、トークイベント、DJイベント、ライブ出演なども行っている。

 

パソコン研究会から始まった「IOSYS」

CDの販売を行ない始めた当初から、IOSYSではオリジナル音楽および二次創作音楽(ファミコン等のBGMのアレンジ)の両方を制作していたという。その後、IOSYS内で東方ブームが起こり、2006年から東方アレンジCDの制作も行なうようになったそうだ。二次創作を行うきっかけとしては、IOSYSのメンバーの元になっている人達に元々ゲームが好きだったという共通点があったようで、高校生の頃にパソコン研究会に所属し、その頃から色々なゲームのBGM等を遊びでアレンジしていたそうだ。

 

影響を受けたのはコメディ

IOSYSの活動を進めるにあたって、特にモデルにしたものや、誰かのようなという意識は無かったという事だが、夕野氏個人として表現を行うにあたって影響を受けた人物はいたのだろうか。

活動を始めた当初、私はコメディのラジオドラマのCDをよく作っていました。そのコントとかコメディの面で影響を受けたのが爆笑問題さん。あと、ちょっと古いですが、イギリスでコメディをやっているモンティ・パイソンという人達ですね。彼らの作品のDVD等が出ているのですが、そういう映像とかをたくさん見ていて影響を受けた気がしています。

IOSYSの楽曲にはキャラクターを面白おかしく表現したものも多くあり、とても人気が高い。その源流はまさにコメディにあったという事だ。

 

決して平坦ではなかった電波ソング大成への道のり

IOSYSの電波ソングといわれるような萌え要素を含んだ中毒性の高い楽曲は今でこそ人気を確立しているが、発表した当時はかなりエポックメイキングな試みだったはず。二次創作ゆえの多くのレスポンスがあったと思われるが、その中に否定的なものもあっただろう。それに対しどう思っていたのだろうか。

特に電波ソングは批判されたり叩かれたりすることも多かったのですが、逆に好意的な感想も非常にたくさん頂いてきました。リスナー個人の好き嫌い、年齢層や時代性、そして楽曲自体の真面目さ・不真面目さの微妙なバランスなどによって、楽曲への感想は様々に変化するものだと思います。最終的に、より多くの方たちに楽曲を楽しんでもらうことができればそれで良いと考えています。ですので、否定的な感想もそのまま受け止めてきましたし、批判意見といえどもそれで盛り上がってくれているのは嬉しいことでした。別に叩かれるのが好きでやっているわけではなく、どうやったら皆が楽しんでくれるかなということを突き詰めて考えて曲を作ったその結果、叩かれてしまうこともあって、こんなの絶対おかしいよ、という心境になったこともありましたけどね。

やはり新しいことをするということは批判を伴うものであり、それが認められるかどうかは批判の捉え方、活動の真摯さが大切なのだろう。当初から活動のスタイルにモデルを持たず、他の何でもない「IOSYS」として活動していたということも、エポックメイキングなことを成し遂げることのできた要因の一つだろうと活動の背景からも思える。

IOSYSって一体何ですかと聞かれた時に当時その説明が難しかったですね。今は、同人音楽サークルです、とかアニメとかゲームの曲を作っている音楽制作集団って言えるのですが、当時は何々みたいな団体です。というのが元々なかったので。そうですね、道無き道になったというか、好きなことやってきた結果がこうなったという感じですね。

道なき道から始まり、今では様々なシーンで人気を誇るIOSYS。まさに同人音楽の草分け的存在だと言えるだろう。

 

電波ソングができるまで

同人シーンだけでなく、幅広い人気を誇っているIOSYSの楽曲。その中でも先ほど話題にも上げた電波ソングはどのようにして生み出されているのか。IOSYSの作詞家、そしてサウンドプロデューサーとして楽曲制作の舵取りを行う夕野氏に制作の裏側を語ってもらった。

電波ソングの場合は、最初にどういう内容にするか、どういうところで面白さを作るかっていうアイデアを一生懸命練るところが何より大切だと思っています。そこでもうほぼ決まっちゃうと思うんですよね。曲の方向性とか。なので、それがちゃんとできてない小手先の歌詞とか音で面白くしようとしても難しいですね。きっとこれは漫画や小説、映画を作る時にも当てはまると思います。だから作曲とか作詞とかの前に、まずそういうネタ出しとか打ち合わせみたいな場でちゃんとアイデアを作り上げる。こういうネタでいこうみたいな。その後、曲とか歌詞にそれをしっかり落とし込んでいくという流れになります。
あとは電波ソングにもいろんな種類があると思っていまして、すごく面白いものだったり、可愛いものだったり、あと僕らはたまにこういう言い方をするのですが、憚られるネタみたいなもの。要は親とかに聞かれるとなんかまずいみたいな(笑)
それらの要素を組み合わせることもあって。面白くてかわいいとか色々ありますが、その要素のバランスを考えながらやる事が大切ですね。もちろんただ可愛いだけの曲もありだと思います。だから電波ソングはどこまで作りこむかによりますけど、いわゆる普通の曲を作るより十倍ぐらい大変ですね(笑)

二次創作の原作となるゲームやコンテンツへの愛がある限り時間が許す限り、これからも二次創作をずっと続けていきたいとも語ってくれた夕野氏。それゆえのこだわりから惜しみない時間と労力を注がれてできているIOSYSの電波ソング。綿密に練られたものだからこそ、数多くの人たちに愛されるものになっているのだ。

 

海外からの反響

日本だけでなく海外からの反響もあったそうだ。IOSYSの東方アレンジ楽曲の一つに『チルノのパーフェクトさんすう教室』という曲がある。その曲をおどってみたという動画がアジア圏を始め、欧米でもYoutubeやニコニコ動画に多数アップロードされていたそうだ。

コンテンツに紐づいた楽曲、作品は海外によく輸出されている。いわゆる普通の楽曲にない拡散力があるのだろう。二次創作から二次創作という広がりの可能性に驚く。

 

「なんでもあり」だから面白い

今はまだ言えないが色々とまた面白いものを作ろうと計画しているそうだ。東方アレンジ等の同人活動を続け、今は商業音楽の場でも面白いことをやりたい、誰もやってないけど面白そうだからやる、というフロンティアスピリットを持って活躍しているIOSYS。コメディにルーツを持ち、コメディのラジオドラマを作る、という一見音楽とは関係ない事にも取り組み続け成功している事も、音楽シーンで新しく面白いものを作り出せている秘訣なのかもしれない。

元々音楽をやろうというよりIOSYSはゲームを作るサークルだったので、ゲームをみんなでこれからも作っていこうぜって集まったんです。結果的に今音楽がメインではあるのですが。だからゲームとか音楽とかに関わらず面白いもの、それはコンテンツじゃないかもしれない、コミュニティかもしれない。色々な形をとると思いますが、面白い何かを作りたいっていうのがあって。確かに出発点が音楽をやるぞではなかったので元々もっと広いのかもしれません。なんでもありみたいな。

様々なものからクリエイティブな要素を吸収しているからこそ、聴き手が新鮮さを覚える作品が作られているのだろう。二次創作もオリジナルも関係なく、音楽と離れたところでも活動を続けてきたIOSYSだからこそ、常に新しいものを結びつけ、そこに「面白い」を作れるのだ。これまでIOSYSが面白いものを作るために活動してきた後ろには確かな道ができ、今では数々のクリエイターが歩いてる。しかし、いい意味で裏切る。自分の作った道を踏み外しながら新たな道を作っていく。そういった存在であり続けるだろう。