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「新しき世界」暴力とBL。二人は何を選び、どこへ征く。

あの「新しき世界」が12/9からhuluで配信が開始される。と言われても、ピンとこない方は多いかもしれない。

「新しき世界」とは、2013年に公開されたパク・フンジョン監督の韓国ノワール映画だ。

韓国最大の犯罪組織、ゴールドムーン。そこの会長が事故で急死する。潜入捜査官でゴールドムーンの理事であるイ・ジャソン(イ・ジョンジェ)はその後継者争いと、それを好機と捉えたカン課長(チェ・ミンシク)等警察の組織壊滅作戦「新世界プロジェクト」に巻き込まれながら、ヤクザの兄貴分チョン・チョン(ファン・ジョンミン)と警察の使命の間で苦悩していく。


「新しき世界」は「インファナル・アフェア」や「ゴッドファーザー」を彷彿とさせる作品だ。潜入捜査官の警察内部以外に正体を明かせない、そしてヤクザとどんどん親しくなり、どんどん大成していく苦悩。組織と自らの間の葛藤。そういった今までのヤクザ、ノワール映画の名作を意識しながら、新しいヤクザ、潜入捜査官物の傑作を見せてくれる。

新しき世界」の魅力の一つは、ドライな暴力描写だろう。個人的に韓国映画の暴力はあまり湿っぽくない印象が強いが「新しき世界」でもそれは健在だ。

「HiGH&LOW THE MOVIE 3 FINAL MISSION」でもオマージュされた生コンを飲まされるシーン(「HiGH&LOW」は死ななかったが、こっちは死ぬ。死体の重みを増すために生コンを飲ませているだけだからだ)そしてその人が詰められたドラム缶が海に捨てられたところから始まるOPはめちゃくちゃカッコいい。

その後も数自体が多いというわけではないが、とても印象的に描かれる。

そして大体角材、トンカチ、バット、包丁とかリアルに痛みが想像できるものばかりなので、とても痛々しいアクションや暴力描写等が続いていく。そしてそれは情感たっぷりというよりかは極めてアッサリとドライに終わらされていく。そんなアクション、暴力描写はそれに憧れが想起されることはない。ロマンチックでもなんでもなく、人が痛そうに、惨たらしく死んでいく暴力描写は、構図であったりまたそのドライなところが格好良く、魅力的に映る。

そしてもう一つの大きな魅力は、やはりジャソンとチョン・チョンの義兄弟関係だろう。ヤクザ映画というのはホモソーシャルな男性中心社会が描かれるということもあり、密接な男性関係が描かれることがままある。そしてそれは極めて同性愛的、BL的に捉えられるものでありつつも、そこで描かれる社会の影響で、始まりから悲劇的でもあるだろう。それは決して成就されず、または認識すらされない愛の話になる。

そういった中で、ジャソンとチョン・チョンは華僑という出自を同じにして、詳しくは語られないが圧倒的なお互いに対する信頼と、仲の良さを端端の描写から伺わせる。お調子者でイケイケなチョン・チョンと冷静なイ・ジャソン。趣味バラバラ、ノリチグハグ、性格真逆な二人の凸凹コンビ。薄暗く寒々しい空の下、二人の関係だけだ熱を持って描かれていく。

もう長いこと過ごしてきた本当の兄貴のようなチョン・チョンか、警察か。の間で激しく苦悩するジャソン。そこには、彼がいなければ今の私はいない。とでもいうような強い親愛や執着が読み取れるのではないだろうか。

そうして苦悩していたジャソンが一体何を選び取るのか、彼はヤクザとして生きるのか、それとも警察として生きるのか。是非見てみて欲しい。

ちなみに、今回配信が話題になっているのは「新しき世界」のBDが廃盤になった後、ずっと配信されていなかった(イカゲームが話題になっていた頃も何もなかった)というのもある。私はBDを持っているから問題なかったが、所持していない方はこの機会に是非鑑賞してみてはいかがだろうか。

新しき世界 公式サイト

新しき世界 hulu

新しき世界 amazon prime

(今調べたらamazon primeはk channelに入れば見れるみたいです)

(文 / 丸橋)