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音楽家、高野寛が観る映画。〜高野寛さんinterview〜

ソロデビューから30年以上、音楽業界の最前線で活躍している高野寛さん。コンスタントにアルバムや楽曲を発表し続け、プロデュースやコラボレーションで音楽の幅を広げ続ける。2013年から京都精華大学ポピュラーカルチャー学部・音楽コース特任教授、2018年から客員教授に就任。

そんな音楽家としての高い評価を受ける高野寛さん。音楽以外の面からも探りたい!知りたい!ということで、趣味である映画鑑賞とカメラについてインタビュー形式でお話をお聞きしました。

第一弾として、映画についてのインタビュー記事を公開します。

(インタビュー/西村・丸橋、写真/藤原)

高野寛おすすめ映画5選

『2001年宇宙の旅』/スタンリー・キューブリック監督/1968年

『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』/ロバート・ゼメキス/1989年

『マグノリア』/ポール・トーマス・アンダーソン/1999年

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『バッファロー66‘』/ヴィンセント・ギャロ/1999年

『どですかでん』/黒澤明/1970年

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──どうしてこの5本を挙げられたのですか?

高野寛:やっぱり音楽が強烈に自分の中に焼きついてるものが1番話しやすいなと思ったことと、抽象的すぎない映画であることを意識しました。

──いつ頃見られたんですか。

高野:『バックトゥザフューチャー』だけリアルタイムで見たけど、他は90年代から2000年代初頭にかけてってことになるのかな。『どですかでん』はだいぶ前の映画だけど、大人になってから見ましたね。

──映画は普段どのような手段で鑑賞されますか?

高野:以前はよくレンタルしていました。サブスクでいくらでも見られてしまう環境ではなかったので、DVDやビデオを1枚ずつ選んで。しかもすぐに見切れないから1度に借りるビデオは多くて5本とかに絞らなきゃいけない。だからやっぱり集中力が増しますよね。不便な時代だったけど、作品を受け止めるっていう意味では大事なことなのかもしれない。

 今でも劇場で見るのは好きで時々行きますね。吉祥寺のバウスシアターっていうところが好きだったんだけど無くなってしまいました。そのような単館系の映画館が好きです。

──まず『2001年宇宙の旅』の魅力をお伺いしたいです。

高野:まず映像美がすごいですよね。1ミリの隙きもないっていうか。CGのない時代にあの映像を撮影してたことを考えると、本当に気の遠くなるような作業ですよね。それをやり遂げて作ってるからこその緊張感みたいなのがあると思います。

 この映画には、AIの悲劇みたいなことがテーマとしてあるじゃないですか。リアルにAIの時代になった今見ると、より恐ろしさも感じるし、本当に深い映画だなと思います。今年はAIが臨界点を超えた年なんですよ。ステーブル・ディフュージョンとか、ミッドジャーニーとか聞いたことあるかな?絵を書いてくれるAIがもう完全に実用レベルに達しています。前々からAIが人の仕事を奪うって話はよく言われていて、今後いくつかの仕事が、AIに取って代わられる危機が来ていますよね。

──『2001年宇宙の旅』以降に、現代のCG技術を使ったS Fとかもたくさん生まれてるじゃないですか。現代のSFと比較してもやっぱり2001年宇宙の旅がすごいなと。

高野:すごく思いますね。想像力が試されるわけでしょ。どんなジャンルにも、古典的名作でも古びてしまうものと現代でも古びないものっていうのがあると思います。現代でも古びてないっていう意味では、SFの中で『2001年宇宙の旅』が1番すごいんじゃないかな。公開から55年経ってAIがリアルなものとして立ち上がってきている今だから感じられる物語の深みがあると思いますね。 

 最近の作品では、CGの技術力の高さにだけ目がいってしまう作品もありますね。ブレードランナーの続編『ブレードランナー2049』を見て、CGは凄かったけど僕的にはオリジナルのインパクトは超えられなかった。本当にいい映画には、何か残るものがあるんでしょうけどね。

──『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』についても魅力を教えてください。

高野:「なんで2?」と思ったでしょう。2は未来の話で、ビフっていういじめっ子が大統領になっている悪夢の並行世界に迷い込むんだけど、実は製作者が、当時トランプタワーでブイブイ言わせてたトランプをモデルにビフを作ったんですって。その頃はトランプが大統領になるなんて誰も思ってないわけ。そう考えると、今の我々の世界は実は並行世界なんじゃないかって思いたくなるような、フィクションなのにそこだけリアルな不思議な話だなと思って。あれで描かれてるのが2015年なんですよね。

 さっきの『2001年宇宙の旅』の話と繋がってくるんですけど、映画で描かれた未来が、現実とリンクしたりしなかったりして、時間が経つと見え方が変わるところが面白いなと思いますね。

──予言めいていて不思議ですよね。映画のストーリーや内容についても魅力を感じますか?

高野:僕は単純に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』自体大好きです。実は僕自身が子供のとき、エジソンが大好きで発明家になりたかったんですね。音楽も発明の一種だと思っていて、形のないものだけど、新しい音楽作品を発明したいなって気持ちがずっとあるんですよ。現代の尺度で言えば、あそこに出てくる人たちみんな発達障害って言われかねない。そういう突き抜けた人たちこそが世の中を動かすんだなと。好きな映画です。

──『マグノリア』についてもお聞きしたいです。 

高野:『マグノリア』を観たとき大号泣しましたね。監督がAimee Mannの歌を活かすために作った、そんな特殊な成り立ちの映画ですね。僕は特に『WISE UP』という曲が大好きになってしまって。 あの曲を物語のピークに持ってきた監督の策略にまんまとハマって、本当に意味なくあそこで泣いたな。

Spotify:

Apple Music:

https://music.apple.com/jp/album/magnolia-music-from-the-motion-picture/331242067?l=en

──高野さんも映画を見て音楽を作られたとか、映画にインスピレーション受けて音楽を作られたことはあるんですか。

高野:ありますね。ジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』の中で、トムウェイツとイギー・ポップが話しているシーンがありました(*予告編0:57のシーン)。「最近どう?」みたいな返しに、「everything is good」っていうセリフがあったんですよ。関西弁でいうところの「ぼちぼちでんな」だよね。そこがすごい好きで『everything is good』っていう曲を作りましたね。映画のストーリーからっていうわけではなくて、セリフに影響を受けたんです。あと、サビに「コーヒーを一杯飲もう」っていうフレーズを入れました。

──映画音楽を作られたことはありますか?

高野:何度かありますね。ハナレグミが以前SUPER BUTTER DOGというバンドの在籍中にリリースした『サヨナラCOLOR』という曲を、竹中直人さんがものすごく気に入って、『サヨナラCOLOR』という映画を作ったんですね。さっきの『マグノリア』の話にちょっと似てるんだけど。『サヨナラCOLOR』という曲は、元々僕がプロデュースしてたので、その流れで映画のサントラをやることになりました。僕がやってるNathalie Wiseっていうバンドと、ハナレグミとクラムボンの3組でサントラと『サヨナラCOLOR』の新バージョンを作って欲しいという監督の依頼があって。ちなみに映画にはミュージシャンたちがモブでたくさん出演してるんですが、僕も病院の先生の役で出たりしてるんですよ。

 普通映画音楽って映像に合わせて音楽の尺を変えてくれみたいな注文を受けながらやることが多いんですね。ここのシーンが4分だから4分の曲を作ってくれとか。でもその時は、映像をスタジオのモニターに映しながらその場でテンポ感と時間を合わせて録音しました。昔ながらのアナログな時間合わせのやり方で、貴重な経験でしたね。

 2001年には、Nathalie Wiseでもう1本、台湾のインディーズ映画の音楽をやったことがあります。チェン・ヨウジェ監督の『石碇的夏天』、日本タイトルが『シーディンの夏』。インディーズのショートフィルムなんだけど、台湾金馬奨のインディーズ部門で金賞をもらって受賞式にも行きました。その後、Nathalie Wiseのミュージックビデオもチェン・ヨウジェ監督に撮ってもらいました。チェン・ヨウジェ監督は、去年日本でも『親愛なる君へ』が上映されていました。

──『バッファロー66‘』の魅力を教えてください。

高野:かっこいい映画ですよね!これは、やっぱり音楽と映像のマッチングがすごく良い。古典的なロックの名曲をここで使うのか!というミスマッチも含めたセンスがすごく良くて驚かされますね。サブカル好きな人はみんな大絶賛してました。当時のオルタナティブな映画シーンの代表的な作品の一つですね。監督自身もアルバムを出していて、すごく繊細なアルバムでした。

Spotify:

Apple Music:

https://music.apple.com/jp/artist/vincent-gallo/74788809?l=en

──監督のヴィンセント・ギャロは、音楽家や映画監督、俳優としても活躍されています。そのように、様々な芸術をまたいで製作することに対して、何か影響はありますか?

高野:憧れるけど、自分は映像を撮ろうって思ったことはないですね。そのようなマルチな監督兼アーティストはきっと音にも映像にも同じビジョンが見えているのでしょうね。自分はそこまで映像的なイメージではなくて、音そのもので表現している感覚です。音楽にも映像的な音楽と、そうでない音楽はあるとは思いますけどね。

 特にJ-⁠POPの場合は、歌詞が映像的なイメージを担う曲が多い気がします。聞き手も、歌詞から情景を想像しながら聴いている人は多いですよね。僕は歌詞だけではなくてサウンドとか、音楽全体で表現したいと思うタイプなので、インストも好きです。そういう意味では、自分で映像を作るわけじゃないけど、映像を見てそこに音楽をつけるという作業はすごく好きです。自然にできるし、映像からインスパイアされるイメージがたくさんあるので。

──『どですかでん』はどういうところが好きですか? 

高野:『どですかでん』は大きな出来事は何も起らない映画なんだけど、登場人物のやり取りとか、シーンが妙に焼きついています。多分2回ぐらいしか見てないはずなんだけど、僕の場合、色んなディテールを覚えてる映画っていうのはそれほど多くないんですよね。

 ちょっと知的障害のある電車オタクの主人公、僕はあの人に自分を投影しちゃうところもあるんだよね。自分が本当に音楽のことしか考えてない時期があったから、社会的にはダメ人間なんだろうなと思って、シンパシーを感じていました。ああいう風に本当好きなことだけをずっと考えて、生きていられたらどんなに幸せなんだろうと思ったりして。

 そしてあの集落。みんなはみ出し者というか、1人1人が超個性的で。それでもお互いを尊重して助け合いながら、なんとか生きていく感じが愛おしい。僕は昭和39年生まれなんですけど、作中のような戦後の名残がまだ町に残っていた場所もあったんですよね。だから身近に感じられるところもあるのかもしれない。

──あげていただいた5本以外にお好きな映画はありますか?

高野:抽象的な映画とか、B級物も観ますね。大学時代にたくさん観ていました。僕は大阪芸術大学に行ってたんですけど、映画を観ると単位がもらえる授業で、黒沢清の『ドレミファ娘の血は騒ぐ』っていう作品を観たのが印象に残っています。ポルノ映画を作ろうとして、途中で計画が変わって、普通の映画として発表したという経緯があったらしいんですが。

 あとはサンケイホール(当時)で観た、タルコフスキーの『ノスタルジア』はやっぱり映像の夢みたいな感じがすごい印象に残りました。

──カルト映画のタイトル伺っても良いですか。

高野:『バスケットケース』、『ピンク・フラミンゴ』、『エレファント・マン』とかですね。『エレファント・マン』はデビッド・リンチ監督だし、大ヒットしたのでカルトとは言えないかな。去年観た『Meshes of the afternoon』という40年代のモノクロ映画も良かった。

──高野さんの楽曲はある意味ポップで、歌詞があってみんなに届くような楽曲を作っておられるイメージがあります。挙げて頂いた映画は、暗めな場末感や、普段は片隅にいるような人々をテーマにしているものでした。その違いがすごく気になりました。

高野:今回はわかりやすい映画作品を選んだつもりなんですよね。僕の曲って、J-⁠POPの王道みたいに捉えてる人が多いんですけど、全然明るくない曲もいっぱいあるし、希望は捨てたくないんだけど、何も結末を言わないみたいなこともあるしね。だから、映画を選んでいて自分の作品の傾向に似てるなと改めて思ったんですよね。でも難解な作品じゃない。モヤモヤする気持ちは残らず、すっきり見れるものだと思う。それが自分にとって「ポップ」ということだと思うんだけど、ただ甘いだけのポップスではなくて、どこか引っかかりが欲しいなといつも思っています。受け取る自分もそうだし、自分が作るものに関しても捻りが欲しくなっちゃう。シチュエーションが突拍子もないような、非現実の世界に連れて行ってくれるものは好きです。今世の中あんまり明るくないじゃないですか。それこそ“ビフの並行世界”みたいにね…。


 高野寛さんが大学時代からこよなく愛す趣味である、映画鑑賞についてお聞きしました。私が5本の映画を鑑賞した時に受けた印象と、高野さんの持っておられる印象は異なる部分も多かったことから、人を通して映画を再考することの面白さを感じています。また、音楽家である高野さんだからこそ受けた影響、高野さんの鋭い目線が感じられるインタビューになりました。

 第二弾は、趣味のカメラについてのインタビュー記事を公開します。道具に対してのこだわりや、写真撮影のテーマについてもお話しいただいています。次もぜひご覧ください。

(文/西村、文字起こし/西村・丸橋)


高野寛ライブ情報
○1/14(土)「2023・AKEBONO 京都編」

会場:京都府庁旧本館・旧議場(重要文化財)

14:15 OPEN / 14:30 START

前売御予約¥4,500

○1/20(金)「2023・AKEBONO 東京編」

会場:渋谷7thFLOOR

18:30 OPEN / 19:30 START

前売り¥5,000/当日¥5,500

詳しくはこちらから! https://www.haas.jp/live