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音楽家、高野寛が撮る世界。〜高野寛さん interview〜

ソロデビューから30年以上、音楽業界の最前線で活躍している高野寛さん。コンスタントにアルバムや楽曲を発表し続け、プロデュースやコラボレーションで音楽の幅を広げ続ける。2013年から京都精華大学ポピュラーカルチャー学部・音楽コース特任教授、2018年から客員教授に就任。

そんな音楽家としての高い評価を受ける高野寛さん。音楽以外の面からも探りたい!知りたい!ということで、趣味である映画鑑賞とカメラについてインタビュー形式でお話をお聞きしました。

第二弾として、カメラについてのインタビュー記事を公開します。

 (インタビュー/西村・丸橋、写真/藤原)


 ──普段どのようなカメラを使って写真を撮っておられるんですか?

高野寛:今一番よく使っているのは「SIGMA fpL」です。ここ3年ほど、インスタにあげているのはSIGMAで撮った写真が多いです。

SIGMA fpL:https://www.sigma-global.com/jp/special/fp-series/

  次によく使うのがコンパクトデジタルカメラです。少し前の型ですが、3台位持っていますね。最近のスマホと比べて解像度が高いわけではないんだけど、起動が早くて、片手で持ててシャッターボタンを押せて、光学ズームが付いてるのが、圧倒的にシャッターチャンスを逃さないですね。なんせ僕のスマホはiPhone 6sなので暗闇に弱くて。ヘッドフォンジャックが付いてる最後の機種なので、6sを意地で使い続けてます。

 「Canon」のフィルムカメラも使っています。45年前、中学1年生のときにお年玉で初めて買ったカメラです。今だに使えてるので、たまに撮りますね。写りがすごく良いわけではないけれど、光が良ければかなり綺麗に撮れます。

 ──写真撮影のコツを教えてください。

高野:「SIGMA」は使いこなしにコツがいるから、うまく撮るための練習と勉強をいっぱいしたんですよ。本も買ったりして。写真の基本と使いこなしがわかるようになると、スマホやコンパクトデジタルカメラでも結構いい写真が撮れることを知りました。

 やっぱりカメラは光を捕らえる物だから、光に対して敏感になりましたね。同じシチュエーションでもこっちから見た方が綺麗だとか、時間帯によってどう撮れば良いかなど、いろいろわかってくる。

 ──どのような観点でカメラを選んでおられますか?

高野:コンパクトな道具を工夫して使っていくのが好きです。いいカメラがないと綺麗な写真が撮れないと言われたりするんだけど、僕は割と写真は出会いだと思っていて、画の美しさと同じくらいシャッターチャンスが重要だと思っています。ツアーに行く機会も多いので、その道すがらに面白いものを切り取って残しておきたい。だから、いつもかばんに入れておけるような、小さくて機動力があるカメラが好きですね。 

 ──インスタグラムを拝見した中で、白黒の写真がありました。カラーで撮影してから後で加工するんですか?

高野:後から変えることが多いですね。写真は情報量を絞り込むことですごく見え方が変わります。インスタって基本大画面で見るものではないので、写真のテーマとか主題をちゃんと決めてトリミングしたり、情報量を減らす効果を狙ってモノクロにすることが多いですね。

 例えばこの前スカイツリーの写真を載せたんですけど、スカイツリーと手前の昭和の街並みの対比がSFみたいで、モノクロの方が時代を超越した雰囲気が出るなと思いました。白黒で撮影した写真は、インスタで「#monochrome_tokio」というタグを作ってそれを付けて投稿しています。その名の通り、東京をモノクロで撮るのをシリーズ化していて、貯まったら写真集にしたいなと思っています。

スカイツリー

https://www.instagram.com/p/ClGYxmHLtu8/?utm_source=ig_web_copy_link

 ──影響を受けた写真家や、お好きな写真家はいますか?

高野:エルンスト・ハースっていう人が好きで、僕のオフィシャルサイトを「HAAS」っていう名前にしたんです。エルンスト・ハースは色々な作風があって、報道写真やファッションフォトも撮ってるし、地球の壮大な自然を撮ったかと思えば、ユーモアのある都市の風景もいい味を出しています。ミクロからマクロまで、いろんな解像度で捉える目線が手塚治虫っぽいなと思ってね。

 写真に興味を持ち始めた頃、最初に影響を受けたのは、リー・フリードランダー

 あと、ソールライターも好きですね。

高野寛オフィシャルサイト:https://www.haas.jp/

 ──音楽と写真との関わりとかはあるんですか?

高野:若い時からよくCDのブックレットに自分の写真を使ってもらったりしていました。写真を撮りながら、ジャケットやアートワークを意識してるときもありますね。最初に音楽にのめりこんだ十代の頃は、まだMVはテレビのごく限られた番組でしか観ることができなかったので、アナログ盤のジャケットを眺めながら、音を聴いて想像を膨らませていました。多感な時期にアナログ盤をたくさん聴いた経験は、今振り返るとすごく大きかったと思います。

 写真っていうのは、本当に瞬間のものじゃないですか。音楽は継続する時間のアートだから、そこは違うものなのかもしれないですね。ビジュアルイメージが合致することはあるかもしれないけど、音を作ってる時と、写真を撮ってる時の気持ちはちょっと違うと思います。もともと音楽以外の趣味があるといいなと思って写真を撮り始めたというのも理由の一つなんですが、結局音楽作品のアートワークに使うことも多いので、音楽制作の一部にもなってしまっていますね。

 ──インスタグラムでイラストも見かけましたが、描かれることもあるんですね!

高野:あまり発表はしないんですけど、たまに描いてます。インスタに、無限に続く動画をこの前UPしましたね。これは「endless paper」っていうアプリを使ってiPadで描いたもの。ファイルが1個しかないから、永遠にここに描き続けるしかないという。

「endless paper」で作成した動画

https://www.instagram.com/tv/Ck7RbzxAfIh/?utm_source=ig_web_copy_link

 最初に宇宙っぽいのを描いて、地球を拡大していって、その中に木を描いたり火を描いたりしていったのを、逆再生しています。実はそれでミュージックビデオも作っていて、即興で作ったアンビエントに映像をつけてみました。

https://www.instagram.com/tv/Ck3TiZCgudT/?utm_source=ig_embed&utm_campaign=loading

 他にも自分で書いたアニメーションのMVもあります。

オリジナルアニメーションMV 『もう、いいかい』

 

──高野さんのお話を聞いていて、多才で色々なことをしていらっしゃる中で、ずっと音楽をやり続けてらっしゃる理由や、根源みたいなものってありますか?

高野: 幸い、向いてたんでしょうね。 大学に入った時は、ミュージシャンになるつもりはなくて、自分の才能に自信を持てなかったんです。大阪芸大の芸術計画学科・音響コースで音響的なことを学んで、エンジニアとか、楽器メーカーで楽器の開発をしたいと思っていました。「ギタリストになりたい」という憧れはあったけど、まさか自分がシンガーになるなんて、夢にも思っていなかった。デビューして10年ぐらいは自分の声が好きになれなかったし、経験値が浅いまま一年に一枚アルバムを量産しなければいけなかったので、納得行くまで作り込めないこともありました。でも自分の曲をちゃんと聞き続けてくださるファンがいて、ずっと作り続ける興味も失われていないということは、この仕事が向いてたんだろうなって思います。

 一方で、僕は純粋に100%アーティストだとも思ってなくて。山下達郎さんが同じようなことを仰っていたけど、アーティストと職人の間の人を指す、「artisan」(アルチザン)っていう言葉があるんですよ。アーティストとしてずっと続けるためには、自分のメッセージを世の中にどう発信していくかっていうこととずっと戦い続けなきゃいけなくて、それは結構しんどいことなんだよね。僕は手を動かして物を作ることが単純に好きなので、音以外にイラストを書いたり写真を撮ったりするのが気分転換にもなります。他のアーティストのサポートやプロデュースワークで関わるのも好きですし、そんなふうに「artisan」という立ち位置で音楽と関わっていくことを意識していますね。いい音の鳴る現場にいて、作ることに携わるのが楽しいんです。だから楽器屋に行くのが今でも大好きだし、どこかアマチュアの頃の感覚が抜けきらないのかもしれない。そんな自分のことを必要としてくれる方がいるんだから、幸せだなと思います。


高野さんが撮る写真からは、陽が沈み終わる絶妙な色や、不思議な雲の形など、その季節のその瞬間しか存在しない美しさを感じます。道具へのこだわりや写真撮影のテーマについてお聞きし、写真の美しさにとても納得しました。カメラが捉える意味を考えさせられた、貴重なインタビューでした。

高野さんの写真を見ることができるので、Instagramもチェックしてみてください。

興味から様々なカルチャーを配信し、ヲタクのように好奇心を持つことテーマとしたwebメディア「御草怱」では、音楽以外の目線から高野さんを探ってみました。趣味やこだわりについてしていただけたらありがたいです。第一弾の映画鑑賞についてのインタビューも公開済みですので、ぜひご覧ください。

(文/西村、文字起こし/西村・丸橋)


高野寛ライブ情報
○1/14(土)「2023・AKEBONO 京都編」

会場:京都府庁旧本館・旧議場(重要文化財)

14:15 OPEN / 14:30 START

前売御予約¥4,500

○1/20(金)「2023・AKEBONO 東京編」

会場:渋谷7thFLOOR

18:30 OPEN / 19:30 START

前売り¥5,000/当日¥5,500

詳しくはこちらから! https://www.haas.jp/live