サウンドの中で漂う言葉の、行く先を見つめて
Chilli Beans. / Vacance
音楽に惹かれているはずだけど、音楽が流れると共に自分の体をふわっと持ち上げるような浮遊感や、この音楽が流れている空間まるごと中毒にさせられる。Chilli Beans.の世界観に誘わせるサウンドメイク、ボーカルの声音、楽器の音作りなど秀逸な工夫は掘り下げれば次から次に挙げられるだろうが、またしても私は言葉の扱い方に注目したくなってしまう。どこか曖昧でふんわり漂っている言葉ひとつひとつの響きが、このバンドのサウンドが持つ魅惑とリンクしているのが面白くて美しい。意味を汲み取ろうとして歌詞を深読みしようものなら、言葉の向かう先の自由さに迷いこんでしまう。
「君のことよく知らない」「妄想やめられない」とあるように、この歌詞の視点となる人物と想い人の間にはまだ距離があって、相手にこの気持ちを届かせようと歌うことは出来ない。でも自分ひとりでは飼い慣らせない膨らむ感情を、吐きだすようにサウンドに閉じ込めている。だから曖昧でいい。チグハグでいい。あたらしく感情が揺れるたび、その気持ちに名前をつけて心の中にしまっておくような、鍵付きの日記帳の中身を覗いたようにピュアで本能的で、Chilliと入るバンド名とはギャップがあるほど、もどかしく甘い。
音無しで歌詞を読んでもウットリしてしまう「キュートなムードに溺れる」「白く曇ったいじわるな窓が 君に出会えなくさせる」などポエジーな1節の存在感も絶妙。これからのことも、君のことも、自分の気持ちさえも分からないままぐらいが丁度いいこともある。あなたもこのVacanceに身を任せて、得体の知れない心地よさに連れ出されてほしい。
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