読書の秋と共に、ストーリーを綴る音楽を。
This is LAST「アイムアイ」〜音楽をことばとして聴く①〜
自身の恋愛体験を元に紡がれた楽曲の歌詞に対して、聴き手の痛い記憶にも触れられるような共感や、浮かび上がる情景の切なさに哀愁を感じる人は多いだろう。しかし私は、この詞のまるで小説のようなプロットの組み立てや、日本語の奥ゆかしい美しさが垣間見える文学的センスにうっとりせずには居られない。「もう一度聴きたい」と同時に「もう一度読みたい」と思わせられる、This is LAST の「アイムアイ」を今回は言葉として堪能したい。
※ 以下、歌詞は This is LAST 公式 YouTube チャンネル 「アイムアイ」MUSIC VIDEO より引用
(作詞作曲:菊池陽報)
灯りが眠ってる僕の瞼に差し込んでいた
目が覚めて粧し込んだ赤いコート着た君を覚えている
あの日に二人で隠した関係と今の彼のことは
まるで気にもしてないみたいに映った
冬隣のこと
→ 目を瞑っていても瞼に受ける光には敏感なもので、光で目が覚めてしまった先には隣で寝ていたはずの彼女が、勝負色である赤を纏って身支度をしている。場所、時間、状況、そして平穏ではないと察しがつく空気感。無駄な語りがなく的確な情景描写と、少しの違和感を残して興味を唆る導入が完璧だと思った。
君だけで満たされてた日々に水を差したのは
情によって繋いだ糸を手繰った元彼の影
「会わないし、戻ることなんてもう絶対にないから」
疑心を隠せず情けなく泣いた記念日の夜のこと
→ 導入で仄めかした違和感の正体が、彼女と元恋人の関係性であることが明らかになる。ナレーション的な語りの部分になりそうなところが、彼女のセリフの取り入れ方が絶妙で一気にストーリーの現実味がここで感じられる。自分に共感出来るかどうかで歌詞を見るのではなく、僕の目線でこの恋を追体験するような感覚にさせられるのだ。
過去はしだいに白くなって綺麗に見えるから
きっと僕はいつまでも勝てないまま
過ぎていった 二人の思い出が白く染まるまで
待ってるね?
待ってるね…
→ 「二人の思い出が白く染まるまで」過去は次第に白くなるものだから、彼女と元恋人の思い出が完全に過去のものとして白く染まり切って終わりますようにという、奥手で強く出れない僕の人間性も読み取れる。「待ってるね?」の問いかけに続く「待ってるね…」の語尾の余白に残る嫌な予感。どうなるの！？と早く次のページを捲りたくなるような展開の仕方が、小説を読んでいる時と同じ衝動を掻き立てる。
「どうして、ねぇどうして…?」 って君を問い詰めても
フラれて捨てられる瞬間がよぎるから
夢見て街に降り積もる粉雪踊る中で
真っ白に染まった二人と雪化粧
→ 起承転結の転、音楽と歌詞の中のストーリーの1番の盛り上がりを同時にサビでぶつける。完璧にここを頂点に持ってくるための今までの流れだったことに気付く。サビの完成度で前半の全ての構成を肯定出来るほど最高。とは言え、「どうして、ねぇどうして…?」と疑問形のセリフで迎えることによって、あくまでここは転換点であり、ここからさらに物語が盛り上がっていくことの勢いを衰えさせない。
「どうして、どうして…」 って自分に問いかけても
答えは異常な愛と歪んでる依存ばかり
このまま心に降り積もる溶けない阨の中で
ただ二人真っ黑に染まっていこう
→ そして 2番サビ、同じ「どうして、どうして…」だけどこっちは自問自答で、もう彼女が自分から離れてしまった後であるという対比になっている。楽曲の1番では、「過去はしだいに白くなって」「二人の思い出が白く染まるまで」「真っ白に染まった二人と雪化粧 」と白を強調した表現が多用されているのに対して、2番では何色にも負けない黒で「ただ二人真っ黒に染まっていこう」という表現。色彩の持つイメージで心理描写をするのも美しい。
ただ自身の体験や悲しみを力任せに歌っているわけではなく、緻密に組み立てられた文章 の構成やその展開のさせ方、グッと聴き手を同じ目線に引っ張る言葉選び、あえてストレー トに言わず濁すところ。そして頂点で盛り上げて終わらず、ハッピーエンドにならなかった 結末までを歌って幕を閉じる締め方に、私は小説を読み切った時と同じ類の余韻に浸った。これがフィクションで一から練り上げた世界観ではなく、当時の古傷を呼び起こして書かれたものだと改めて考えると、どこまで深く頭に、心に刻み込まれている痛みなのだろうと、また私はこの楽曲に愛着が湧くのだ。
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