人と人をつなぐための場所、人と人をつなぐことで生まれる場所/大下大介さん(執筆:松吉美紀)


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「ソーシャルデザイン」と聞いて難しく考える人も多いだろう。私はソーシャルデザインとは、「人とつながる場やきっかけ」のようなものではないか、と考えている。そこで今回、「人脈がすごい」とよく耳にする京都精華大学ポピュラーカルチャー学部の学部共通教員である大下大介さんに、彼の考える「人のつながり」についてインタビューを行った。

■人と人とをつなぐ

学生の頃から、それぞれにおもしろい得意分野を持っている友人たちを見て、「もしもこの二人が出会っていたら絶対にわくわくするおもしろいことをやってくれるだろうな…」と感じることが度々あったという大下さん。自分がいて、友達がいて、この二人はまだ、たまたま出会っていないだけで、僕が少し後押しをすることでなにかおもしろいことが生まれるのではないか?とよく考えていたそうだ。

そのきっかけとなったのは、2000年頃の出来事だった。とあるミュージシャンと、とある俳優であり映画監督である友人を持つ大下さんは、全然接点のない二人だが、二人が出会うと何かおもしろいことが起きる予感を感じたという。そこで大下さんは、「おもしろそうだから一度会ってみましょうよ!」と双方に声を掛けて、おもしろいアイデアの浮かぶような場所や時間帯を選び、ご飯を食べる機会をセッティングした。そしていざ、食事をしてみると、二人はすぐに意気投合。ミュージシャンの友人がその場で歌った曲が、監督の友人がその頃に製作に取り掛かっていた映画のイメージにピッタリ当てはまり、「主題歌に起用しよう!」「その曲のタイトルを映画のタイトルにしよう!」などとその場でどんどん話がふくらんでいったという。そこで大下さんは、自分のセッティングした場所で二人が意気投合していき、商業的ではなく、サークルのように自分たちのすきなことを楽しみながらつくっていく映画のかたちを目にした。このことが大下さんにとって、人と人をつなぐことで「場所」を作るということのおもしろさに目覚めるきっかけとなり、その日を境に、「人と人のつながり」や「場所をつくる」ということを意識して過ごしているという。

ではそれを踏まえて、現在大下さんはどういった仕事をされているのだろうか。

人と人をつなぐことで、場所をつくる

ポピュラーカルチャー学部が新設されるまでの間、大下さんはデザイン学部にて教員をされていた。そこで疑問に思ったことがあったという。それは、せっかくデザインの勉強をして、授業で作品を作っているのに、なぜお金を稼ぐためにコンビニでアルバイトをしたり、居酒屋で働かなくてはいけないのだろう、ということだ。学生の頃から、製作会社やデザイン事務所にて「働くこと」をしてきた大下さんにとって、そのように働くことができる場所がないことにすごく疑問を感じていたという。

そこで大下さんは3年生を対象にしたゼミで「アートのある場所を作ろう」というテーマのセレクトショップ「zuurich」を開催した。この店のコンセプトは、少しずれたアート。絵を飾ったりする習慣があまりないなど、生活の中にアートが根付いていない日本人に、気軽な気持ちでアートを楽しんでもらうことのできる「場所」を自分たちで作って発信していくことで、人の生活を少しでも変えることができるのではないかと考えたという。

「zuurich」(http://zuurich.jp)では、いろいろな学部に行っていろいろな人や作品に出会い、直接スカウトして、商品にした。そのショップではアートを額縁に入った絵として売るのではなく、布にプリントしてカバンにしたり、ポーチにしたり、平面上で終わりにするのではなく、「商品」として形を変えた。そうすることによって、zuurichはアートを根付かせることだけではなく、学生たちにとって、自分の作品がお金になることを実感することのできる場所になったのだ。期間限定ショップだとなかなか振り返りができないと考えた大下さんは、烏丸御池にある複合商業施設 新風館の中庭で一年間、ワゴンを立てて年中無休で店を営業した。

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その場所で繰り広げられるコミュニケーションもすごくおもしろいもので、zuurich自体も出会いの場にもなったという。そしてそのメンバーだった2人が現在、四条河原町にあるCOCON KARASUMA3階の京都精華大学の学外サテライトスペースkara-sにて、精華大学の在学生や卒業生による作品を取り扱うショップを運営しているそうだ。

「人と人とを出会わせて、その変化を自分の遊び場にしたいんです。教師になった今、何かを教えるというよりも自分も一緒になって、なにかを作り上げていきたいというようなスタンスでやっています」
では、そんな大下さんが最近、心がけていることはなんだろうか。

■毎日1人、新しい人に出会おう

「1日に一人、新しい人と出会って話をすること」
これは大下さんの学生の頃からの毎日の目標である。もともと人が好きで、人と会うことや話をすることがとても好きだという大下さん。常にいろいろな人と出会い、刺激や情報を得たり、その人を知りたいという欲望があり、学生時代から始めたこの目標は今でも毎日続けているそうだ。新しい人に出会えない日には、自分が今どのような人と出会いたいのかを考え、本屋さんに行って今おもしろい人のリサーチをしたり、ライブハウスのフライヤー置き場に行き、「今どういう人がどんなことをしているのだろう?」と調べてみたり、常に人との新しい出会いを求めている。というのも、現在の大下さんの仕事や生活の軸になっているのは「人に会う事」だからである。
「仕事として意識しているかというとそうでもなかったりして。ご飯を食べるとかと同じような感じで常に自分の軸になっています。ただ単にその人たちと出会って終わりではなく、その人たちをどのように編集していけばおもしろいことが生まれるかな、ということを常に考えなから日々を過ごしています」と語る大下さん。常におもしろいことを求めている大下さんは人と出会い、またその出会いから人と人を編集することで、「場所」を作っている。

■今後の活動

今後の活動としては、「人と人のつながりで生まれてくる化学変化の幅を広げたい」と大下さんは話した。最近、京都市北区に住むおもしろい仕事をする20~30人が集まる「北区部」という名の会を作り上げたという。もともとは家の近所に住む商いをしている人たちと飲んでいたことがきっかけだったが、今では北区に住み、おもしろい仕事をやっている人を条件にどんどん部員が増えていっているそうだ。
「そこで、北区部のメンバーの誰もが想像していないなにかが起こるのを今はすごくたのしみにしているんです。もちろん自分でなにかすることも考えてはいますが、あまりイメージをしたりしないようにしていて。突発的にやってくるおもしろさを大事にしたい」と語る大下さんはとても楽しそうだった。

今回インタビューをし始める際に、急に鞄からぼんたんを出してきてむきはじめた大下さん。実はこの行為も彼なりの「場作り」であったと、インタビュー後に話してくれた。
「場のデザインってアイデアがでやすいように座る位置を少し変えてみるとか、間にちょっと変な話をしてみるとか、そういう小さなことがすごく大事だと思うんです。今日はどんな雰囲気なのかな、と思って実はインタビュー前にこの場所に下見しにきて少し、片付けておいたんですよ。あとは机をどういう風にセッティングするのかな、というのを任せようと思って。これから話をするときにどういう空間だったら話しやすいだろうと松吉さんなりに考えて机を動かしてくれたのだろうと思うのですが、これも立派な「場づくり」だったり、「デザイン」だと僕は思っていて。これをきっかけにしたら話しやすくなるかな、なんか面白くなるかな、と思ってぼんたんを持ってきたんです。」

人と人をつなぐための場所。人と人とがつながることで生まれる場所。誰もが簡単に自分の作品や考えを発信することができるようになった現在にこそ、人と人との関わりこそがよりおもしろいことを生み出してくれるのではないか、と今回の取材を踏まえて私は考えた。

関連サイト:http://zuurich.jp(zuurich)