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俺はTAROMANを知らない 〜展覧会岡本太郎を観て 


「芸術は、爆発だ!」というインパクトのある言葉、太陽の塔その他にも様々な物を残した岡本太郎を知らない人、名前は知らなくても作品のことも全く知らない。という人はあまり存在しないのではないだろうか。大阪に最近できたばかりの中之島美術館にて、その岡本太郎の展覧会が開催されていた。

展覧会は希少な岡本太郎の初期作品から晩年までを年代毎に展示しており、岡本太郎がどのような芸術を、人生を送ってきたのか。ということがわかる展示になっている。絵画以外にも、椅子等のプロダクト寄りの物から、岡本太郎が出演したCMやTV番組等まで幅広く展示されており。岡本太郎の一生と、人生を賭けた芸術活動。その思想を知れる大規模な展覧会だ。(現在は東京にて開催中。期間は10/18〜12/28まで、また今後愛知にて2023年 1/14〜3/14巡回予定)


さて、私は岡本太郎のことをよく知らずに今回の展覧会を訪れた。もちろん岡本太郎という名前や著名なフレーズや、太陽の塔については知っていた。それに偶然展覧会を見にいく直前の深夜にNHKで制作された「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」も視聴した(NHKで制作されているウルトラマンを岡本太郎氏の作品でパロディしたような作品、岡本太郎の作品のキャッチーさや氏の発言を使ったこの作品もとても面白かった)。だが岡本太郎の他の作品、ネクタイや椅子、その他多種多様な多くのプロダクトデザインを手掛けていることや、ピカソの影響を受けているといったことについてはまるで知らなかった。

岡本太郎の作品は、絵画作品においては初期の作品から後年の作品まで、その殆どが大きな油絵で占められている。初期の少しダークな印象を受ける絵から、中期の大きなキャンバスに鮮やかな、でもまだどこかに仄かな暗さを感じさせる絵は、キャラクターめいたデフォルメがなされているからか、その構図なのか、どこか漫画チックにも写る。そして奇妙だがどこか可愛らしい、ホラーとして捉えることもマスコット的に捉えることもできそうな彫刻群達等。数多くの作品はどれもこれもインパクトのあるものばかりだ。

私は岡本太郎の作品を見て、その圧倒的な色彩やキャラクターのパワーに圧倒されながらも、どこか馴染み深く感じるようなところがあった。それは書かれている内容は不可解であっても、モチーフが、キャラクターが何なのか判別がしやすいところにあるだろう。突き放すようで、親しみ深い。親しみ深いようで、突き放してくる。そんな印象をより強めたのが、数多くのプロダクト作品だ。

岡本太郎のプロダクト作品にはネクタイやシャツといった衣料品から、椅子、ティーカップ等様々なものが存在している。だがこの展覧会で展示されていたものは、どれをとっても日常使いには不向きそうな、共通した不便性を感じさせる見た目をしていた。とはいえ、実際使ってみたら変わるのかもしれないということも言えなくはないだろう、だがそれには「座ることを拒否する椅子」という大変座りにくそうな、目のついた展示品の椅子に座ってみることが証左になるだろう。(案外いけるかも?)と一瞬思ったものの、全然座りにくかった。

「座ることを拒否する椅子」そもそも座れそうにない

日常使いの物を制作しているはずなのに、人の利便性を考えない見た目。それ等がそのように制作されたのは、岡本太郎の芸術観、思想、人生観が色濃く反映されたからなのではないだろうか。

岡本太郎は挑戦の人である。という事が展覧会には度々書かれていた。それは、岡本太郎が新しいことに挑戦し続けていた点も含めてそうなのだろう。だが新しいもの以外、既存の価値観や当時の現代。というものに対しても非常に挑戦的であったのではないだろうか。

岡本太郎は段々と楽になっていく物や事に、全てがわかりやすくあること、そうなっていく事に、このままで良いのかという強い思い。そして当時のライフスタイルを拒否するような、今のままで良いのか。という感情がインタビューや発言、そして作品に現れていたように思う。全身全霊でぶつかり、全身全霊で進み続けるという気持ち。そしてそれらを表すために、作品の中で目や手がよく使われたのではないだろうか。目や手は恐怖と愛情という根源的で、強い感情を想起させる、表しやすい部位だと思う。それ等を使うことによって、人の感情を呼び覚まし、また表してきたのではないだろうか。

私自身は彼が様々な経験を経ながらも、だが彼自身はやはりブルジョワではないのか?ブルジョアだからこそ、今そう思えて、こういった活動ができているのではないのか?という思いが拭えず、「楽をするべきではない。」等の発言においては、多少懐疑的な気持ちがあった。だが「芸術は大衆のものであるべき」や「美しくあってはならない」そしてその徹底した闘争、反骨の人である様に強い憧憬を覚えた。氏の言葉は当時の日本や芸術に向けられた言葉であり、今の日本でそのまま受け止めることは不可能であるし、それは誠実ではないだろう。だがそう思い、懐疑的になりながらも強く惹かれる何かが存在する。影響を隠さずそのままだし、気持ちを口にし、反骨の徒である純真さと挑戦する心のある岡本太郎。

そんな人間からの、今に満足せず、今を疑い。表現していけ。という強いエネルギーを岡本太郎の作品からは受けるような気がした。

そんな岡本太郎展。残念ながら大阪では終わってしまったが。都市部のみではあるが、今後の巡回の予定もある。岡本太郎の作品群を一挙にみれ、彼の思想に触れる機会でもある展覧会。一度足を運んでみてはいかがだろうか。

巡回

岡本太郎展公式HP(東京都美術館にて2022年10月18日(火)~12月28日(水)まで。愛知県美術館にて2023年1月14日(土)~3月14日(火)まで)

(文/丸橋)