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「サイコゴアマン」暴力!血飛沫!PG!〜破壊の使者は果たして何をもたらすのか。

サイコゴアマン、略して……PG!

サイコゴアマンとは、2021年の7月に公開されていた、カナダのアストロン6(1980年台の低予算映画のオマージュに満ちた低予算ホラーコメディを主に制作している)に所属しているスティーブン・コスタンキン監督のS Fコメディ特撮スプラッター映画だ。(2022年11月25日現在、U-NEXTamazon primeにてレンタル可能)

最高のスポーツ、クレイジーボール(面白くなさそうで、あまりルールがわからないボール当て)をいつも通り遊んでいた兄妹のミミとルークは、ちょっとした拍子に太古より庭に埋められていた残虐宇宙人の封印を解いてしまう。今まで通り宇宙を破壊していく予定だった残虐宇宙人は、ひょんなことから極悪な妹ミミに自分を操ることができる宝石を奪われてしまった。サイコゴアマンと名付けられた彼は、ミミに大変な仕打ちを受けることになってしまう……。


本作は、ある日人間の理解の範疇から出る世界から来た生物と出会って、親交を深めるという。ここだけを聞くとE.T.やターミネーターを彷彿とさせるようなストーリーだ。

果たしてそれはどの様な生物なのか、無事に親交を深めることができるのか──だが当然といえば当然、サイコゴアマンは我々がそんな出会いから想像する者とは(サイコゴアマンと聞いて優しい生命体を想起する者も居ないとは思うが)まるで違い、全てに対して暴虐の限りを尽くしていく。

キン肉マンの残虐超人も意外とちゃんと残虐超人ではあるが、サイコゴアマンはそれを遥かに超えた残虐振りを見せてくれる。自らを操る宝石がなくなればすぐ周りの人間(勿論ミミも、というかミミを)暴れ殺そうとするし、兄妹の幼馴染を脳味噌の様な肉塊にしたりと好き勝手だ。

何よりゴアマンの能力はただただ暴虐と殺戮に特化している。知能はあるしコミュニケーションも取れるが、話してくれるのは大体が自分の星でどのように殺戮し、自分が強いかという話ばかりをする。友人としても嫌な存在だろう。

だが、サイコゴアマンと同じか、それ以上にミミと主人公家族の様子もおかしい。一見ちょっとミミがおかしいだけの普通の家庭と思って見始めると、ミミとルークは人の死体を見てもあまり驚かないし、ミミのせいで幼馴染が肉塊に変えられ時も大きなショックは受けない。

その他にもナイーブでやる気がなく、ただひたすら怠けようとする父親。ミミがサイコゴアマンと外出するのを許し、その拍子にゴアマンが人を殺したりしていても楽しくショッピングができる母親等。あまり、まともな倫理観をしているとは言い難い家族なのだ。そしてそんな家族とゴアマンが接触し、当然の如く周りではめちゃくちゃなことが起こる(とはいえ家族に何か起きるわけではなく、楽しそうに暴虐ライフを謳歌していく)

サイコゴアマンは暴虐の使者であり、現在の倫理観から考えると到底許されない行為ばかりを行う。そしてそれに出会うミミ達は、その価値観を内包していたり許容したりと(兄と母は最初多少の抵抗はするが)今の社会では生きづらい人なのかもしれない。そしてその生きづらい世界を、サイコゴアマンは粉々に破壊し、変革していく。こんな生き辛い世界は壊れて、私の思うままの世界になれば良いのに。というミミの幼い願望を叶えるかのように。

ここまでの破壊はもちろん見るだけでも爽快だ。大量の血飛沫、ある程度チープだからこそなんでもありな人体破壊(もちろんチープでなく、なんでもありな場合もあるが、それだとコメディにはなり得ないだろう)

だがそれと同時に、ミミの幼い願望に共感してしまうような感覚もある。

E.T.がもしかしたら異星人がいるかものという夢を与え、ターミネーターが未来に対する想像を掻き立て、それぞれが今の世界のルールを壊して、夢を与えて去っていったように。サイコゴアマンは全てを暴力と血で破壊して、変革して去っていく。今の世界が生き辛い人間の、仄暗い欲望を満たすように。

暴力を持ってして変わった世界は決して良いものではないだろう。だがそれでも今を生き辛い人間が、そう夢想するのを咎めることも出来はしないのではないだろうか。

ちなみに、サイコゴアマンやそれ以外の怪人のスーツの造形がどれをとっても非常に素晴らしいので、それだけでも是非みて見てほしい。

サイコゴアマン公式サイト

(文 / 丸橋)