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フランス映画は面白い?

 先日、9月13日にジャンリュックゴダール監督が亡くなった。映画界の巨匠である監督の突然の死には、衝撃を受けた人も多かっただろう。そこで、フランス映画に関する記事を書き留めておこうと考えた。

 フランス映画と聞いた時なにを思うだろうか。ヌーヴェル・ヴァーグ? ゴダール? トリュフォー? それともお洒落? いや、難解だから苦手…がほとんどだろうか。ここでは、フランス映画を観たいと考えている人がフランス映画を嫌いにならないための映画の見方を紹介したい。フランス映画の特徴を、おすすめ映画と共に紹介する。

『気狂いピエロ』にみるワードセンス

 まずはジャンリュックゴダール監督の『気狂いピエロ』を元に紹介する。『気狂いピエロ』は、偶然出会って恋に落ちたフェルディナンとマリアンヌが事件から逃れるため、逃避行をする物語だ。

 フランス映画の中で発されるユニークな言葉に魅了される。日本人が使わない言葉の言い回しが多く使われ、日本語字幕で見るとさらに違和感を感じる。最初は馴染みのなさを感じるが、映画のストーリ上、この場面にはこの言葉が必要だったと感じてしまうほど、映画と言葉の違和感が調和している。独特な言葉と言い回しを見聞きするという楽しみ方もあるのではないか。

マリアンヌ「あなたは言葉で語る 私は感情で見つめているのに」

フェルディナン「君とは話にならない 思想がない 感情だけだ」

マリアンヌ「違うわ 思想は感情にあるのよ」

フェルディナン「それじゃ本気で話してみよう 君の好きなこと したいことは? 僕も言うよ 君からだ」

マリアンヌ「花 動物 空の青 音楽 わからない全部よ! あなたは?」

フェルディナン「野望 希望 ものの動き 偶然 わからない全部だ!」

マリアンヌ「あなたは言葉で語る 私は感情で見つめているのに」

フェルディナン「君とは話にならない 思想がない 感情だけだ」

マリアンヌ「違うわ 思想は感情にあるのよ」

フェルディナン「それじゃ本気で話してみよう 君の好きなこと したいことは? 僕も言うよ 君からだ」

マリアンヌ「花 動物 空の青 音楽 わからない全部よ! あなたは?」

フェルディナン「野望 希望 ものの動き 偶然 わからない全部だ!」

『気狂いピエロ』Jean-Luc Godard

 これは、男と女、フェルディナンとマリアンヌの思考の違いが顕著に現れている会話だ。詩人のフェルディナンは難しいことを考えるのが嫌いなマリアンヌを常に小馬鹿にしている。そんな2人は永遠を信じることなく愛を育み、一緒に逃亡する。フェルディナンの知性は、花と空の青が好きだと言うマリアンヌとの恋愛でどのように作用していくのか。このような美しい詩的なセリフによって、ゴダール、そしてフランス映画に魅了されるのだ。

『緑の光線』にみるクライマックスの無さ

 次に、エリック・ロメール監督の『緑の光線』を元に紹介する。フランス映画では、いかにもクライマックスという盛り上がりが存在しないことが多い。スーパーマンになったり、大きい事件が起こったりしない日常を映画に撮る。『緑の光線』を観て、私も憂鬱という感情とこんなにも向き合うことができたらなと感じた。平坦な日常を過ごす中で起こるこの憂鬱は、ほんの些細な感情の機微によるものだ。平坦な日常の中に見出す美しさほど美しいものはないと感じる。『緑の光線』は、終始ずっと憂鬱で最後に夕陽を眺めて終わる。

一つのシーンで長い会話劇が生まれる『ボーイ・ミーツ・ガール』

 次に、レオス・カラックス監督の『ボーイミーツガール』を元に紹介する。お互いに重い過去の恋愛を抱えている、アレックスとミレーユが突然恋に落ちる物語だ。

 ただ狭い部屋で約17分にも及ぶ会話が続くシーンがある。2人のこれまでの恋愛と、これから一緒にいたいということを話す重要なシーンだ。フランス映画を観ていると、シーンの代わり映えのなさと、一対一の対話の長さを感じることが多い。しかし、全く退屈せずに観ることができてしまうところに、レオス・カラックスの鬼才ぶりが現れている。むしろ言葉ひとつひとつに集中して見てしまうシーンだ。

ミレーユ

「知ってる? あなたが発ってから何度も昼と夜とが過ぎた。あなたは言った“最後の旅”と 私の心には最後の難破 あなたは言った“春には戻る”と “夢を語るのにいい季節” “花の咲いた公園で会おう” “パリの通りを歩こう”と。あなたをいくら愛しても あなた1人を愛しても 戻っては来ないなら 愛を美しい思い出にして 私も世界へ旅立つわ。陽のあたる場所もある 悲しみで死んだりしない。船乗りの妻にはなれない私。

彼に会ったのは 私の父が亡くなったすぐ後だったの。私といると安らぐと・・・。今 彼はよく私を責めるけど 私にはわからない 彼には全部が大事なの 私の過去も未来も現在も そして死も。父ならどう思ったかしら 彼のこと 今の私のことも 私は私、あるがままね。」

アレックス

「君とこうしていると夢みたいだ 非常に深い夢 深い眠りから生まれる夢だ こうしてそばにいると永遠のようだ。君を見た瞬間 君を愛す運命にあると悟った。一度だけ君に言いたい。何よりも君を愛してる 愛し合おう 無意識に何も言わず・・・ミレーユ 決して後悔しない愛 嫌な歌に邪魔されない 愛だ 君が来いと言えば行く 君が望むだけ一緒に寝よう 君と仕事をしたい 最強のチームを組もう 星座が違おうが構わない フロランスも僕らに共鳴するかもしれない 君とフロランスとぼく ぼくが愛の使者だ とても感動的だよ 両方に行くんだ 君1人ではぼくを殻から出せないよ 一緒なら変われる パリからもフランスからも離れよう。アレックス 愛の力で 自己破壊から逃げるんだ 血の温もりや穏やかな自分を尊重しろ 明晰な感性 暖かい心を・・・その情熱がみんなの暗さを溶かす。逃れたい モノローグや言葉の奔流から 苦悩を音楽にしたくない 恋人を言葉で殺したくない でも黙れば彼女が自殺する。」

『ボーイミーツガール 』レオス・カラックス

 17分の会話と聞くと長すぎると感じるが、同じ部屋で話していることを忘れてしまうようなカメラワークと、退屈させないテンポ感があるシーンだ。暗転、人物以外のカット、様々な角度から人物を撮影するなどの画面作りがされており、まるで演劇を見ているような新鮮さがある。また、会話のテンポ感があることは、モノクロームで静かすぎる場面に反して、急きたてられる印象が与えられる。特に、アレックスの告白は、ミレーユに対する愛の言葉がこぼれてしまっているといったテンポ感が心地よい。

『パリ、テキサス』にみるファッションセンス

 最後にヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス 』を元に紹介する。トラヴィスは、ナスターシャ・キンスキーが演じる生き別れした妻ジェーンを探す物語だ。

 フランス映画では、パリジェンヌらしいファッションや、赤と青を差したフランスらしい派手な色使いが印象的だ。しかし、そのイメージから少し距離を置き、新鮮で忘れられなかった女性はヴィム・ヴェンダースが撮ったナスターシャ・キンスキーだった。ボブでワンレングスの、輝くブロンドヘアに目を奪われる。彼女が少し俯くのと共に揺れる髪の表情にも、陰りが存在している。ショッキングピンクのモヘアのセーターは、背中がU字に大きく開いていて、滑らかな背中が見える。主人公のトラヴィスは、カジュアルスーツのセットアップに原色の真っ赤なキャップを被っている。キャップは、ツバが曲がって浅めのベースボールキャップで、カジュアルスーツがよく合っている。

 

 4つの映画を通して、フランス映画の特徴と魅了が伝われば嬉しいです。芸術の秋に、ぜひフランス映画に触れてみてください。

(文/西村)