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サンリオ展〜可愛い、可愛いは何を成す?〜

“可愛い”とはなんなのだろうか。愛おしいもの、愛おしく感じるもの。人によるとも言ってしまえるだろう。竹久夢二や中原淳一が作ったとされる、その少女文化の中にあった”可愛い”文化は、時代時代によって変節しながら、「きも可愛い」や「ぶさ可愛い」等、その時代時代に様々な可愛い観を打ち出している。

なら、今の可愛いとはなんなのだろうか?”可愛い”の意味は大きく広がり、様々なものが内包されていっている。そして少女文化の中にあった”可愛い”はそこから飛び出して、少女だけでない、老若男女が愛するものになっているのではないだろうか。

そんな今、”可愛い”を掲げるサンリオの展覧会が京都で開かれていた。(札幌にて2023年2月11日(土) 〜 2023年4月2日(日)巡回予定、その後山口県等各地巡回予定)

サンリオ展〜ニッポンのカワイイ文化60年史〜はサンリオの前身、山梨シルクセンターとサンリオグリーティングの時代からサンリオが今に至るまで。そしてサンリオの取り組みを知れる展覧会となっている。


サンリオの前身山梨シルクセンターは起業後、物に満たされ始めた戦後、物だけでない、余暇として人に感動を与えるための物を作り出す。

そしてその感動を与える、というところで可愛いに着目し、いちごシリーズや内藤ルネ、やなせたかしを起用したシリーズ。他にもリリカやサンリオSF文庫等。可愛いというところに着目し主軸にしながら、様々なジャンルに挑戦していった今のサンリオの源流が伺える。

そこから商品を展開しやすいオリジナルデザインに着目していき、山梨シルクセンターとサンリオグリーティングが合併。パティ&ジミーやハローキティ、マイメロディ等サンリオを代表する様々なキャラクターが生まれてきた。

そのサンリオを代表する多様なキャラクター達は、強く時代を反映させながら生まれてきている。

戦後のアメリカ文化への憧れから生まれたパティ&ジミー、一見可愛いだけではないハンギョドン。パステルカラーで男の子のシナモンロール。近年だとアグレッシブ烈子、ぐでたま等も懐かしいのではないだろうか。これ等のキャラクターは確かに可愛い、だが同じ可愛さではない。

その時代に合わせ、時には時代を先取りするように打ち出されてきたキャラクター達だ。

なら、今の可愛いとはなんなのだろうか?勿論、サンリオにも新キャラクターは大勢いるし、今も「NEXT KAWAII PROJECT」が進行中だ。

だが可愛いという意味はとても拡大し、カジュアルに使われている。

それは様々なものが”可愛い”の対象になり得るということではないのだろうか?

猫や犬は勿論可愛く、服も車も靴も可愛い。ゴスもストリートもトラッドも可愛くなりうる。

何にでも可愛いと言えて、その一言で終わってしまうのは何らかを損失しているような気もする。

だがその可愛いが広がり、カジュアルになることによって新しい光が浴びるものもあるだろう。例えば、近年サンリオキャクター大賞で人気のあるポムポムプリンは、1996年にデビューしたキャラクターだ。サンリオのキャラクターは歴史の長いキャラが多いので、特別ポムポムプリンが長いということはない。だが彼の人気が再燃したのはここ最近、象徴的なのは2015年の2度目の大賞だろう。それまでは2003〜2010年までトップ5にも入ることができなかった。

勿論セーラームーンにもあるように、ファン層の年齢層が上がってきたことも一因としてはあるだろう。だがその間に可愛いが拡張され、誰もが親しめる、またどんな物でも可愛いになっていたことにも大きな要因があるのではないだろうか。

ポムポムプリンの大きな特徴はお尻の穴だ。お尻の穴が可愛くない。とまで言い切る気もない(ペットのお尻の穴が可愛いかどうかは人によるところも大きいだろうし、キャラクターとなると尚更そうではないだろうか)だが今それがまた可愛いとされてまた人気を生んでいる。そして、5位以内に近年ポチャッコも入ってきている。これは多種多様な可愛いが同時代に受け止められている、社会が様々な物の価値を認めようとしている流れとリンクしているとも考えられるのではないだろうか。

ではサンリオはその時代を映すような可愛いで何をなしてきたのか?

サンリオと言われると。理想的で逃避できるような、オアシスのような世界を提供してくれる印象がある。それはあながち間違いではないのでないと思っている。

サンリオピューロランドに行ったことがあるだろうか?そこは特別アトラクションが多いわけではない、だがピューロランドは室内で、誰かが乗れない、見られないものというのはなかったはずだ。

ユニバーサルスタジオジャパンやディズニーランド&シーもとても楽しいテーマパークだ、だが屋外、そして乗れないアトラクションというのはどうしようもなく存在する(特にユニバーサルスタジオジャパンは対象年齢層が高いので、結構ある)

だがサンリオピューロランドはその性質上、誰もが遊べて、誰もが楽しめる。そんな空間になっている。

だがそんな理想的な空間と同様に、重要な要素となってきたのがいちご新聞ではないだろうか。サンリオいちご新聞は1975年にスヌーピーを表紙にして創刊されたサンリオが発行する機関紙だ。現在も発行されているので、名前を知っている人も多いのではないだろうか?本展覧会にはそのいちご新聞が大きく展示されている。

いちご新聞には特集として様々な事柄が組まれているが、それは異性、両親、恋愛、いじめ等重めの題材が多い。

それは可愛いという受け入れられやすく、普遍的でもある概念を軸に、様々なことを考える、そして繋がる場の提供なのではないだろうか。

サンリオは新聞だけでなく、いちごハウス、サンリオショップ、ピューロランド等でも場を提供し続けている。それは一種理想的で、逃避できるような場所に思えるし、それも一種の役割だろう。だがそれだけではない、現実の事柄も吐き出せる。ある種の逃げ場としての場所。そしてその場所は可愛いが広がることにより、様々な層、に広がり、大きく多様なコミュニティを築いているのではないだろうか。ある時は避難場所に、ある時は楽しむ場所として、可愛いを軸にしたサンリオという居場所は機能しているのかもしれない。

サンリオ 公式サイト

サンリオピューロランド 公式サイト

サンリオ展 公式サイト(北海道立近代美術館にて2023年2月11日(土) 〜 2023年4月2日(日)まで。その後山口県等各地巡回予定)

( 文 / 丸橋)