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綿⽮りさイズムに振り回される・衝動と本能

京都精華大学で御草惣と同じ授業を受講している、前川さんに寄稿していただきました。前川さんは、「PYONG」という夢中になれることに出会えていない貴方へ向けた、音楽を演奏するプロセスを紹介したwebサイトの編集長です。今回は、本の紹介記事を寄稿していただきました。


 綿⽮りさは、1984 年京都⽣まれ。17 歳で⽣まれて初めて書いた⼩説作品『インストール』(2001年)で⽂藝賞受賞。早稲⽥⼤学在学中に書き上げた『蹴りたい背中』(2004年)で、最年少記録を塗り替えて第130回芥川賞を受賞した。その他にも『かわいそうだね?』(2012年)で⼤江健三郎賞、『⽣のみ⽣のままで』(2020年)で島清恋愛⽂学賞を受賞している。

 私が初めて読んだ綿⽮りさ作品は、2017 年に松岡茉優を主演に映画化もされた『勝⼿にふるえてろ』だった。あらすじは、中学時代の同級⽣への⽚思い以外恋愛経験がない主⼈公・江藤良⾹が、理想と現実の狭間で悩み、暴⾛しながら妄想⼒を爆発させ突き進む恋愛⼩説だ。映画を先に観ていたわけでもなかったし、そもそも新しい作品に出会う時に特別な理由なんていつも無いのだけど、でも綿⽮りさの作⾵に、筆致に、世の⾒つめ⽅にのめり込む忘れ難い第⼀歩になった。ありとあらゆる主⼈公の⼈⽣を追体験することによって、⾃分以外の視点を持てるようになること、視野が広くなることは読書で獲得できる要素の⼀つであると思ってきた。だから『勝⼿にふるえてろ』のド⾃分中⼼的で、主観と偏⾒と妄想でしか世界を⾒る気がない感じ、⾃分の世界なのだから⾃分の中に⽣まれた感情以外が正解であるわけないという潔さがとにかく爽快だった。

勝手にふるえてろ 綿⽮りさ

 

 綿⽮りさ作品の主⼈公たちは、⾃分の脳内を絶対的な⼀つの世界として、⾃分の脳内の中でだけ主役になれる。⼈間臭くてクレイジーで、でもきちんと社会の⼀部として⽣きていて、⽣きていく⼈たち。まじまじと⼈間が描かれすぎていて、⾒えていないものが⼀気に⾒えるし、⾒たくないところまで⾒えてくる。なのに⼈への愛おしさが増す感じ。この不思議な引⼒にどうしたって逆らえない。これでもかと⾔うほど⼈間の内側に潜り込む興味深さもあるし、だいたい予測出来ないアクションが起こるところが本当に⾯⽩い。いつも私は「やられた」と頭を抱えることしか出来なくなる。

 特に衝撃的だったのが『ひらいて』(2012年)華やかでモテる⼥⼦⾼⽣・愛が恋する相⼿は、哀しい眼をした地味男⼦。⾃分だけが彼の魅⼒に気づいているはずだったのに、彼には⼿紙のやり取りをする⼥の⼦がいた。⽚思いの苦しさ、もどかしさ、暴⼒的で無鉄砲で、欲望に勝る理性を知らないまま突き動かされる脆さと⾝軽さ。でも許されてしまう⼥⼦⾼⽣という時間が痛くて眩しかった。あらすじを⾔いたいけど、体験としてこの衝撃を残しておきたい。何⼀つ予測できなくて、読者の「ちょっと⼀息つかせて!?」という息遣いを気付いていながら無視する感じ。もう無茶苦茶にされてほしい。


ひらいて 綿⽮りさ

ぜひ、「PYONG」のサイトもご覧ください!

(文 / 前川)