学生に見てほしい映画 / 映画・ドラマ / 記事

御草惣 映画部 対談

 今期の御草惣の集大成として、映画の対談を企画しました。私たち(丸橋・藤原・西村)は、映画が大好きでよく鑑賞しています。1人ずつ All-Time Best Film 30を決定した後、ランキングと、映画から学べること、映画でしか描けないこと、映画の魅力などについて話しています。近年動画配信サービスの普及に加え、私たちの生活圏である京都は映画館、ミニシアターがたくさんあります。映画という文化にはとても触れやすい場所です。しかし、倍速視聴やファスト映画等も流行り、映画そのものを視聴するというよりは、コミュニケーションツールとして映画を観ている方も多いのではないでしょうか?その中で、映画が好きな御草惣の編集部の3人は映画そのものを見る楽しさについて語り合いました。ネガティブなことからポジティブなことまで、映画というのは私たちに様々な物をもたらし、影響を与えてくれています。そんな映画、ここで取り上げられている中からでも、他でも、何か一つ気になるものを観てみては?映画LOVE溢れる対談をぜひご覧ください。


『気狂いピエロ』の洒脱さ

西村:まずは、それぞれのランキングの上位作品を見ていきましょうか。藤原さんのチョイスから見ていきたいと思います。

丸橋: 藤原さんは順位をつけてないですよね? filmarksの高評価順になっています。あえて、個人的なトップ3選ぶとしても、この順位と同じ?

藤原:うん、『トレインスポッティング』は個人で選んでも1位かな。で、その次は『パルプフィクション』。3位は『E.T.』……これは普通にもうトレーラーとか見ただけでめっちゃ泣ける。

ダニー・ボイル『トレイン・スポッティング』予告

丸橋:『E.T.』はストーリーがめちゃめちゃ好き?

藤原:そうね。私の性格を知っている人からはちょっと信じてもらえないかもしれないけど(笑)、こう見えて私は平和主義やから、この映画は全ての人類、世界中の人に観てほしい。これを観たら、「もう戦争終わるんちゃう?」くらい気持ちが暖かくなる。

丸橋:優しさを感じてほしい、みたいな?

藤原:そうそう、そういう意味で3位。

丸橋:藤原さんの上位作品を見ると、ちょっと『E.T.』だけ異質に感じる。『トレインスポッティング』、『パルプ・フィクション』、『クラッシュ』……で、『E.T.』。そこがちょっと面白いよね。ここに『E.T.』が入ってくるの。すげえ好きなんやろなってことがわかるけど、何か繋がる点があるのかな?

藤原:たしかにな。でも、『トレインスポッティング』も、実はヒューマニズムを感じる側面もある。主人公は最後普通の社会人に戻って更生するやんか。それがよかった。結局いい子ちゃんに戻るみたいなのが。私、平和主義やし(笑)。

丸橋:なるほどね。藤原さんの上位、確かにあんまり悲劇的な物語じゃないのが占めてるんやな、藤原さんの中で。 西村さんのランキングは?

西村:まずは1位の『乱』。これは、あの時代にあのスケール感で撮ってるっていうのがまずすごくて。武士とか馬、自然のスケールとかが、莫大すぎて、映画の大作っぽい感じがすごい好きでしたね。あと一人一人の登場人物、秀虎と楓とかが印象的だし……もう全部、大好き。衣装もかっこいいし。黒澤明監督って白黒(モノクロ)のイメージがあるじゃないですか。私も世間と同じく、黒澤明は白黒じゃないとダメでしょみたいに思ってたんですけど、この『乱』で初めて黒澤明のカラー作品を観て。「え、色もこんなに美しく撮れるの?!」みたいに感動して。

黒澤明『乱』予告

丸橋:カラーでもこれだけ上手いんやっていう。

西村:そうそう、緑とか赤とかの使い方がすごい上手いっていう印象ですね。2位に選んだ『気狂いピエロ』はとにかくもうおしゃれな映画なんだけど、それだけじゃなく、いつ観ても心に入ってきちゃう。

丸橋:ゴダール監督作品だけど技術的な感動とかではない?

西村:ではないかも(笑)。当時としては撮り方……カットとかもそりゃヌーヴェルヴァーグって言うぐらい最新だったんだろうけど、そういう技術的なところに引っ張られない良さがあると思う。服、行動、セリフ……どれもすごくおしゃれ。表面的な憧れなのかもしれないけど、巷に溢れてるオシャレじゃないんですよね。こんな粋な2人見たことないしっていうので。 3位の『スワロウテイル』は、円都(イェンタウン)の、日本に住み込んでる上海からの労働者、世間の隅の方で生きてる人たちの話なんですけど、映画の中の世界が本当にあるかのように、緻密に作られてるのが印象的ですね。あのアングラ感がずっと頭にこびりついちゃう。

丸橋:なるほどね。では私のランキング。まず『アジョシ』は韓国版『レオン』みたいな話で。ウォンビンっていう韓流四天王って呼ばれてた人が主演で、特殊部隊を引退して質屋をやってる男が仲良くなった女の子がいて……で、その娘が借金のカタにさらわれて、それを助けに行くっていうストーリー。シンプルにアクションがめちゃめちゃかっこよくて。ガンアクションもナイフアクションもすごい。韓国の映画ってすげえナイフアクション多いんだけど……二人は韓国映画あんまり観ない?

イ・ジョンボム『アショジ』予告

西村:観ないですね。

藤原:私は観ますよ。自分のランキングにも『Witch / 魔女』を入れてるくらいには。

丸橋:韓国の映画ってバットを使う場面多いよね?攻撃する時の武器としてのバット。

藤原:多いな。しかもグロい。グロいっていうか、エグいな。

丸橋:そうそう。『アジョシ』もそんな感じですごい痛そうで。それでも、すごいアクションがかっこよくて、それが印象的で。あと、とにかくウォンビンがめちゃめちゃかっこよくて、こんな質屋おるん?ていう。とにかくかっこいい映画。これを中学生ぐらいに見て、すげえ、かっこいいと思って影響受けた。 次の『cure』は、もう黒沢清監督がとにかく好きで好きで。『牯嶺街少年殺人事件』も、撮り方とか彩度的には、結構台湾めちゃめちゃ暑いはずやのに黒沢清っぽいじゃないですか。すげえ寒そうな撮り方をしてる。そもそも作品全体の世界観もすごくいい。実際にあった事件を描いてるんだけど、ショットがすげえかっこいいし、印象的な場面も多い。長い作品なんやけど、全然ダレずに観れたなっていうのも含めて印象的ですね。

誰も救われない映画に救われる現実

丸橋:藤原さんのランキング、アニメが結構入ってるの面白いよね。上から『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『AKIRA』、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:Ⅱ』、『音楽』。しかもアニメの傾向がどれも違うというか。

藤原:エヴァは好きで、TVアニメから観てたけど。「もう終わってくれ!」みたいに思ってたから、終わってくれてありがとうっていう気持ちもあった。ただ、その終わり方……エヴァっぽいんやけど、これ観た周囲のみんながめっちゃ感動してたけど、そこは正直いまいちわからへん。ま、それがエヴァかな、みたいなのかもしれない。『音楽』って観ました?

西村:観ました観ました!

藤原:面白いよね。音楽、楽器経験ゼロのヤンキーがバンド組んで、演奏するバンドをやりますよっていうだけなんやけど。もう一組、主人公の方じゃないけど、演奏が上手な方の「古美術」って軽音部のバンドが出てくるでしょ。あの「古美術」が実際に京都メトロにライブしに来たことがあった。この映画の中のバンドとして演奏しに。それがめちゃくちゃ面白かったから思わずランキング入れた。彼らの音源ってサブスクとかにもある。 『AKIRA』はもう普通に衝撃。かっこいいし、この時代にあんな細かいアニメ、建物とかすごい普通にそっちに感動して。物語よりも作画に感動した。『クレヨンしんちゃん』は自分には『E.T.』的な要素やな。なんか毎回面白くて、クレヨンしんちゃんの映画好きで全部観てるけど、これが1番印象に残ってたから、入れた感じかな。

丸橋:『Witch / 魔女』もアニメっぽいよね。

藤原:もうあれは戦闘シーンが好き。

丸橋:みんな、自分のランキングの傾向がどういうとことにあると思う? 藤原さん自分でランキング見て気づいた点などありますか?

藤原:誰も救われへん映画に惹かれるのかな。それと、特に何も起こらない映画も結構好きなのかもしれないな。

丸橋:「誰も救われない映画」?

藤原:誰も救われへんってなんかリアルやなって結構思う。ランキングの一番最後に挙げた『レクイエム・フォー・ドリーム』とか、特にこの中でもトップクラスに救われへん映画。ドラッグとか恋愛とかセックスとかもあらゆる中毒の人たちに焦点当てた映画なんやけど、こういうのって、一人でも救われたら現実世界でも何かの中毒なったとしたって「もしかしたら大丈夫なんちゃうかな」っていう希望みたいなのを持ってしまいそう。でも、この映画ではマジで全員救われへん。もし自分がドラッグに興味持っても、この映画観てたら、ああいう風になるかもしれへん……って手を出すのをやめられそう(笑)。そういう意味では優しい映画やなとは思う。

ダーレン・アロノフスキー『レクイエム・フォー・ドリーム』予告

西村:面白いですね。現実的なように見えるけど、藤原さんのランキングをパッと見た感じでは、むしろ現実からは遠い気がしてて。暴力とかドラッグとかが出てくる作品が多いし。

藤原:まあ、確かにそういう側面はあるかも。

西村:だから救われないことで優しいって思うのはすごい面白いなと思った。

丸橋:うんうん、確かに。じゃあ、「何も起きない映画」の魅力はどういうところにあると思う?

藤原:自分のランキングの中やったらドキュメンタリーの『すばらしき映画音楽たち』。あと、『場所はいつも旅先だった』はドキュメンタリー“調”なんだけど、マジでなんも起こらない。アニメ映画の『音楽』もあんまり何も起こらん。『フィン』っていうショートフィルムも『夜の香り』っていう香港映画も何も起こらん(笑)。実際には起こっているんだけど、いかにもなメリハリはない。

丸橋:なんで何も起きない映画が好きなの?

藤原:例えば、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』みたいな、どうしようもなく救われない内容の作品って、自分がしんどい時に観たらマジでしんどくなる。でも、なんも起こらへん映画は、どんな時でも観れる。しんどい時でも、良くも悪くも影響がないというか、害がないというか。

丸橋:確かにね。なんで元気がない時に映画を観ようってなるんやろね。

藤原:元気ない時に映画観るのは、現実逃避でしょ。最近だとコロナにかかって外に出れへんとか、そういう時は時間的余裕もあるからやっぱ映画を観る。ずっと引きこもってるから、ちょっと精神状態が悪いみたいな感じだし、実際に私はそういう時は害のない映画を観てた。

丸橋:あー、逃避する感じでちょっと違う世界を覗きたい、みたいなのはあるね。これは「救いがない映画」、これは「何も起こらない映画」……そう思いながら観たら面白いな。

藤原:全部が全部そうじゃないけどね(笑)。

西村:そうやって見ると、このランキング、なるほどなって思いますね。

邦画のリアリティ

丸橋:西村さんのランキングの傾向はどうでしょう?

西村:私、邦画が多いんですよね。ランキング作ってる時も、ほとんど邦画しか出てこなくて、頑張って洋画を入れたくらい。なぜかって考えると、さっきの話とちょっと似てるけど、あからさまに身近っていうのが結構多い気がして。世界感が夫婦にしても、恋人とかでも、すごいリアルに言ってることもわかるし、「ああ、そういうのあるよね」みたいな感じで見てるから、自然と邦画が多くなるのかも。

丸橋:確かに。ホラー映画も邦画の方が怖いもんな。

藤原:確かに身近すぎて怖い。海外のホラーはあんまり怖くなくないな。海外ホラーは「怖い」っていうより「びっくり」みたいな方が多い。

丸橋:海外ホラーは世界が遠すぎて「なんかすごいことが起こってますね」って感じで観終わっちゃうことが多い。

西村:あと、私は映画から絶対何かを得たくて。1本見たらそこから絶対何かを得たいというか。だから、深く読んじゃいがちなんです。ちゃんとした物語にちゃんと結末があったり、何も起こらなくても、何かを感じとることができたりとか。そういう深読みしがちな性格が出てるかも。

丸橋:確かに西村さんのランキングはいい話系の作品が多い。

西村:ついでいうと、写真っぽいショットとかが出てくると嬉しい。

丸橋:「嬉しい」って(笑)。

西村:「あ、綺麗!」って単純に思うような映画。色彩とか絵が綺麗でさらにオシャレだと嬉しい。そんなセレクションになってるかな。

丸橋:海外作品でも綺麗なものは多いけど。

西村:昔は洋画をたくさん観てたんですよ。でも、それこそ黒澤明とか北野武辺りから自分の中で邦画ブーム。2022年はめっちゃ邦画観た。その記憶が新しくて、結構入れちゃった。でも、よくよく考えたら海外作品も前はたくさん観たなあって気づいて。

丸橋:アメリカでもマイナーなものを選ぶ傾向ですね。あと、洋画の大作が全然ないですよね?

西村:ああ、ないか。確かにです。

藤原:しかも、かなり前の映画がほとんど。最近のは1本しかないっていう。『リップヴァンウィンクルの花嫁』でも2016年やから。あと2008年があるけど、他はほとんど20年以上前。

丸橋:2020年代の映画が1本もないね。

西村:本当だ。そうですね。

藤原:最近の映画はあんまり?

西村:まずあんまり観てないからかもしれない。

丸橋:映画館にも行かない?

西村:ミニシアターとかでは昔のも観るんですけどね。最近だと……あ、スパイダーマンのシリーズ観ましたよ!

丸橋:『ノー・ウェイ・ホーム』?

西村:そうそう! 誘われて観に行ったら面白かった。スパイダーマンは結構シリーズで観てますね。私、綺麗な画面は好きなんですけど、最新技術とかCGとかはあんまり得意じゃないかもなんです。物語の内容を見てしまうので、だったら別に昔の作品で映像が古くても面白いものはあるなって。

丸橋:そういうところからも、映画から得れる「何か」がある?

西村:例えば、ランキングの中では河瀨直美監督は結構ダイレクトに伝えてくるタイプだと思うんです。『沙羅蒼樹』は奈良が舞台の家族の話なんですけど。出産シーンがあるんですよ。すごいリアルに出産のシーンがずっと10分くらい映って。しかも、本当に河瀬直美が出産するシーンを撮ったっていう。だから、監督が出演して、監督の本当の子供が生まれるシーンが出てくる映画です。それを見た時は、衝撃を受けましたね。そういう本当のリアルな顔つきで、命があるリアルさがわかって。『ぐるりのこと』は、奥さんが精神的に病んじゃって、それを支えあう夫婦の話なんですけど、あれを観た時は、「人と生きていきたいな」と思った。

丸橋:それって自分の人生でまだ得れてないものということでもある?

西村:そうですね。確かに!

丸橋:タルコフスキーの『ストーカー』も?(笑) あれ、僕も観たんす。面白かったけど何もないじゃないですか。それこそ、藤原さんがさっき言った、「何も起こらない映画」と言っても差し支えないぐらいマジで何もない。

藤原:私も『ストーカー』は観ました。確かに何もなかったよね。

西村:うん。確かに何もないけど、「ゾーン」が表すものとか、主人公が教祖的な人だったとしたら洗脳体験させられてるみたいな世界観だったなとか。深読みすると色々ね。あと「ゾーン」周辺の色も綺麗だったことがめっちゃ残ってますね。

丸橋:『ストーカー』ってゲームもあるんですよね。全然関係ないけど。

西村:あれ、ヒットしてます?

丸橋:いや、ゲーム結構有名ですよ。全然でも映画のテイストと違うけど。西村さんのランキングに戻すと、上位と下位で割と印象違いますよね。『マルホランド・ドライブ』とか、『プッシャー』とか、『ブラックレイン』とか入ってくるんですね。ちょっと印象が違う。ちょっと暴力的になるというか、映画のテイストが。

西村:暴力的なのは……やっぱ北野武が好きなんで。

藤原:北野武好き……ちょっと意外よね。

北野武『3-4X10月』予告

西村:なんか武って、ずっと暴力ふるってる感じではないじゃないですか。ああいう渋い、かっこいい男の人が出てくる、そういう独特な世界観は好きですね。ヤクザの世界観というか。『プッシャー』はちょっと激しいけど、『マルホランド・ドライブ』とかは、暴力だけじゃない、ずっと変な怖さ。それこそ『CURE』とかもあると思うけど、ああいう怖さは好きです。『ストーカー』とかもそうですよね、ずっと奇妙。

丸橋:うん、確かにね。CGもなんもなくて、ずっと奇妙やから面白い。

西村:結局、誰が悪かったの?みたいな。

丸橋:何が起こったの?みたいな。

暴力シーンに惹かれる理由

藤原:3人に共通していること……みんなヤクザものが好きなんやなって(笑)。

丸橋:確かにヤク映画ザめちゃめちゃ入ってる。共通項、ウォン・カーウァイとヤクザ映画じゃない?みたいなレベル。意外と全員暴力的なのが好きやね。

藤原:だって、おもろいからシンプルに(笑)。

丸橋:え、人が殴られてる様が?(笑)

西村:怖い怖い(笑)。

藤原:いや、世界観が好き。それとヤクザのビジュアルがいい。

丸橋:わかる! パシってスーツ着て。

西村:私も結構日本のヤクザが好きかも。何も喋らないけど渋くて目線だけで怖い人。これもそうなんだけど、ヤクザものも日本映画の方がいい。逆に海外ヤクザ映画の魅力教えてほしいです。

丸橋:海外ヤクザっていうより、東アジアのヤクザなんやけど。『アショジ』もヤクザ出てくるし、『新しき世界』も韓国のヤクザの話やし。韓国とか東アジアのヤクザ映画って多分北野武の影響が強いと思う。すごい個人的な感覚なんですけど、じめっとしてる暴力とカラッとしてる暴力ってない?

藤原:それ、わかるわかる。

丸橋:北野武映画の暴力ってカラッとしてるやん。東アジアのヤクザものもカラっとしてる暴力が多い印象で。東アジアは尚且つそこに、より描写がえげつなくなってて、とにかく痛そうで。それが好きっていうのもあるっちゃあるし、暴力はカラっとしてるけど、キャラクター同士の関係性がもっとウェット。『名もなき野良犬のロンド』って映画は、ファンも韓国以外でもボーイズラブ的な受け方をされてて、実際監督もラブロマンスを描いたって言ってるぐらいっぽい作品になっている。そういうのが好きっていうのはやっぱあるかな。だから、僕のランキングも暴力とボーイズラブの目線で選んでるところは結構あって。人が無残な目にやってる方が好きなんやろうなあ。なんて言うと酷いけど、そういう意味では、藤原さんの意見にリンクするけど、救いがない映画が僕も好きなのかも。現実ではある程度、楽観主義的に生きていきたいところがあって。フィクションの中ではより酷いものが観たい、みたいな。ちょっと下劣な欲求と言えば下劣な欲求なんやけど、そういったところはあるかもしれない。

西村:確かに、丸橋さんのは男性主体の映画が多い。例えば、恋愛もので言うと、『君の名前で僕を呼んで』とかもあると思うけど、これは別にそんな救いようない作品じゃないですよね。

丸橋:え、そう? 救いない映画だと思うけど(笑)。

西村:確かに結末はそうだけど、普通の楽しんで恋愛してるシーンもあるでしょ。

丸橋:『君の名前で僕を呼んで』は、確かに西村さんが言うように、途中までは救いがあるというか、結構淡々と男性同士のラブストーリーを描いていく。だけど、ラストで振られて終わってしまうっていうところの、最後のカットでティモシー・シャラメの顔がずっとドアップになって、蝿が集ってる死体みたいなシーンがあったと思うんですけど。そこで一気に 印象として、凄まじく救いがない物語になった気がする。だから、類いとしては救いがない映画かなと思いながら観てましたね。

ルカ・グァダニーノ『君の名前で僕を呼んで』予告

BLとLGBTQ映画


西村:ボーイズラブ系は結構私も2作品くらい入ってます。アン・リーの『ウエディング・ヴァンケット』と、ウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』。普通に恋愛として見れるのが結構好きなので。だから救いがないボーイズラブ系とは印象違うかもしれない。丸橋さん、『ブエノスアイレス』的なボーイズラブはどうですか?

丸橋:普通に恋愛をしてるボーイズラブは嫌いじゃない。男性同士の恋愛、同性愛描いてる映画全然見観るし好きなんですけど、殺人とか死体みたいなシーンの方が強烈に印象に残ってしまう。生活からかけ離れてるイメージだからかな。怖い映画の方が好きなんで。どっちかっていうと同性愛的な映画が好きというより、ジャンルの多さをアングルにして選んだかも。『新しき世界』は韓国のヤクザ映画やけど、そこらへんにボーイズラブを見たりとかする方が好きっすね。

西村:そういうところで関係性がウェットな感じになると……。

丸橋:すごく好きになる。

藤原:LGBTQを扱う映画って評価や判断が難しい。この間『恋人はアンバー』っていう映画を観た。ゲイの男の子とレズビアンの女の子が、同性愛が浸透していない理解のない田舎の町で、でも、自分の境遇を明かすとめっちゃ馬鹿にされるから、みんなから馬鹿にされへんように恋人同士のふりをするって話。でも、最初は嫌やったけどだんだんと本当に仲良くなっていく。最後はめっちゃ心通じるんやけど……なんかそれも終わり方めっちゃ微妙やなあって思った。途中までは良かったんだけど……LGBTQを扱う映画の終わり方って、めっちゃ難しくない? こういうこと言ったらあかんのかもしれんけど、世の中的にあんまりバッドエンドにしん方が良さそうみたいな、希望も持たしとかなあかんみたいなのが働くのかな?って思ったりもする。

丸橋:わかるわかる。バッドエンドがまずいって空気あるのかも。映画からちょっと外れんねんけど、BL漫画の1つの魅力としてあるのも悲劇的な恋愛で。やっぱ同性愛者が社会的に認められてない時代って、今もまだもちろんそうやけど、昔はもっとそうだったわけでしょ。そもそも同性愛なんてありえない!って時代を舞台に、最後は成就せずに終わる物語っていうのが圧倒的に多い。BLでは、だからこそピュアであるべきみたいなファンの意見も結構根強くて、バッドな悲劇的な恋愛がいいっていうのがずっと続いてる感じ。最近の流れとして、藤原さんが言うように、そこまで禁断じゃなくていいじゃんっていう流れのが強くなってるけどね。同性愛者の映画に関しては未知な部分も多いけど、B L漫画でもそういう傾向はあるから、映画でも多分同じような流れは絶対あると思う。

藤原:うん。そのポイント、面白い。

丸橋:個人的な印象やとBL漫画は、そこで他の要素を加えて、他の禁断要素みたいなのも多い。そういう要素を加えて、他の禁断ものにしたりとか。まあ、それこそヤクザとかヤンキーとかを入れるとかね。そもそもホモソーシャル的な、男性社会的な舞台設定にして、だからこそ、近代寄りにできるみたいなところもあると思うし。

西村:近代寄りだと、禁断要素をわざわざ入れる感じはないかもしれない。どうだろう?

藤原:うん。でもみんな禁断好きよな。

丸橋:許されざる愛、みたいな好きやんな。教師と学生の関係とかね。あれ何で人気なんやろうな。

藤原:あれはあかんよな。あかんやろと思うけど、ずっとなんで人気あるんやろうなって思う。現実やったら逮捕もんやん。だからいいんか、現実でし得ないことをしてるのがいいってことかもね。

丸橋:多分、みんなも映画に関してそこを求めてるとこってあるやん。ある程度異界というか、自分の目じゃ見られへんものを見るみたいな。

監督から見る映画

藤原:丸橋くんのランキングに入っている『ゴッドファーザー』。なんで“Part Ⅱ”を選んだの?

丸橋:“Part Ⅰ”か“Part Ⅱ”か迷ってんけど、正直。最終的な結論だけ話すと、ロバート・デ・ニーロが好きだから。あと、パスタ食ってるシーンがめちゃめちゃうまそうとか(笑)。究極なんでⅠよりⅡかって言われたら、過去の栄光と現在の悲壮感みたいな対比が結構好きなんかもしれない。マイケルがどんどん苦しい状況になっていくのと、栄光的なゴッドファーザーの時代の対比が好きだからⅡなのかな。結局はデ・ニーロが好きやからって、すごいしょうもない理由になるんやけどね。 藤原さんはIの方が好き?

藤原:選ぶとしたらⅠかな。でも、『ゴッドファーザー』すごい。シリーズものって面白くなくなっていくのが結構多いやんか。『ゴッドファーザー』はⅢまでずっとおもろい。

西村:私はⅡかも。Ⅲは見てなくて、Ⅱで終わっちゃってるんで、確かに印象に残ってるのがⅡっていうのもあって。Ⅲも観なきゃですよね。

藤原:Ⅲは観た方がいいっすよ。

丸橋:西村さんは映画監督になりたいと思ったことないんですか?

西村:映画監督ってめちゃめちゃに頭いいな、すごいなーって思ってます。映画に関わりたいなみたいなのは思ってました。

丸橋:好きな映画監督は?

西村:難しいな。誰だろう。でも、今回のランキングでも結構出してる、岩井俊二とかゴダールですかね。ゴダール難しい時が多いんで。岩井俊二は、私たち日本人にも伝えてくれる、すごいわかりやすい映画が多くて。入口としてちょうどいいんだけど、でも微妙な空気感とか気まずさとかを伝えてくれる感じが最高ですね。ちょうど、この特集のコラムで「大学生におすすめの映画」として岩井俊二の『四月物語』を書いてます。

丸橋:トップ3なら? 岩井俊二が1位で……。

西村:河瀨直美も好きだし。

丸橋:はいはいはい。藤原さんは?

藤原:タランティーノ。日本人監督やったら誰やろ、西川美和。西川美和は最近やったら『すばらしき世界』とか、『永い言い訳』とか撮ってる人。どうしようもないやつ、寂しい感じのが好き……あ、でもやっぱりウォン・カーウァイかな。一番好きな監督って。

丸橋:僕はやっぱ黒沢清かな。なんかずっと淡々としてるやん。あのテンション感が好きで。画面の彩度も好き。インタビューでは大体「そんな考えてないっすよ」って言ってるけど、その割には示唆的な映画が多いじゃないですか。例えば木を取り合う映画『カリスマ』、あれ個人的にすごい好きで。その木の名前がカリスマで、なんか妙に無力っぽい男とか色々出てきて、木を巡って争い続けるっていう。その木が、何かのメタファーなのかなと思いながら見てしまうような感じが好きやね。

西村:私は、両親にいろいろな映画を教えてもらったのが大きいかな。それこそクリストファー・ドイルもお父さんに教えてもらった。

丸橋:京都でも「KYOTOGRAPHIE」でやってましたね。

西村:そうそう。それも展示見に行ったし。そういう意味では、どっちかというと、ウォン・カーウァイよりクリストファー・ドイルはから入ったかもしれないです。で、最初は『恋する惑星』から観たんですけど。

藤原:『恋する惑星』はいいよな。

丸橋:めっちゃいいけど、劇中、トニー・レオンが白ブリーフ姿で、あれはちょっと面白い(笑)。時代を感じると思って。

藤原:あれで主題歌(「夢中夢」)のクランベリーズめっちゃ好きになった。

丸橋:ウォン・カーウァイの映画はいいよな。映像も綺麗やし、話も面白いし、切ない感じもあるし。ウォン・カーウァイ見てたらめっちゃ香港行きたくならない?

西村:ああ、わかる。いいカメラ持って行きたい。

藤原:でもなんか香港の映画、そんなたくさん見たことあるわけじゃないけど、みんな影響受けてんねやろな。もろ、あやもこれも影響受けてんねやろみたいな感じるやつ多いよな。

丸橋:香港で生まれて、映画監督目指そうと思ったら、ウォン・カーウァイの影響から逃れるの無理なんじゃないか?

藤原:うん、無理やろな。なんか、それがめっちゃ見えんのが結構面白い。

ウォン・カーウァイ『恋する惑星』

映画の魅力、の前に・・・

西村:コラムで「大学生に観てほしい映画」について書くから、映画から学べることとか、 映画の魅力とか話したい。私たちの年代ってあまり映画見ないですよね?

丸橋:そういう印象ですね。私たちの芸大生っていう環境やから、周りに観てる人が多いだけで実は・・・みたいな。

藤原:ファスト映画とかあるよな、流行ってるらしい。

丸橋:映画を倍速?短縮?で観る。

藤原:ファスト映画は普通に逮捕案件。YouTubeとかで映画を要約して、5分くらいでめっちゃ早口で機械が喋るっていう。全部5分に要約してる。

西村:じゃあ、映画は観てないんだ。

藤原:確かに観てはないけど、内容も結末とかも全部知ってるから、一応「見たよ」って言って内容を答えたり話ができる状態になるみたいな感じやと思う。 他にもNetflixとかで映画を倍速で観る人が多いらしい。

西村:忙しいのかな。

藤原:なんでやろな、忙しいんかな。

西村:私もなかなか映画を観れてない時は、忙しいを理由にしがちだけど、忙しい時にこそ観たら「良い!」ってなる映画が多くないですか? 私だけ?

藤原:めっちゃわかる。

西村:だから、「時間ないけど、見ちゃおう」みたいな。何もかも忘れて観ちゃった時が1番いいっていう説があって。だから、みんなもそうじゃないかなっていう。

丸橋:忙しい以外にも、コンテンツの選択肢が多いのもあるんじゃないかな。テレビも一応あるし、YouTubeもあり、ラジオもあり、ABEMAなんかもありで。映画とドラマもありで。情報も観るものもめちゃめちゃ多いから、そうなってるんじゃないの? 多分要約することや倍速で観ることに関して、ここの3人は肯定的な感覚は持ち合わせてないじゃないですか。

西村:うん。それでは観たくないな。

丸橋:でも、情報が多いから難しさはあるなと思ってて、Netflixとか開いて、何見たらいいかわかんない時ってないですか? TSUTAYAでレンタルとかやと、何かしら候補を決めて棚に向かうし、金も払ってるから1週間、ビデオワンだと2週間? で観ようって意識が少なからずあるはずで。Netflixとかも月額料金も払ってるけど、借りる時に比べて薄いのかなっていう。情報は膨大やから観たい映画はやくさんあるけど、「今日何見よう」ってなったら、すげえ悩む時は結構あって。ここで倍速に行く人と行かない人の差が多分あると思うんすけど。

藤原:わかる。Netflixとか、何を観よっかなって迷って、ひたすら映画をマイリストにめっちゃ登録していって満足して見いひん日あるかも。だからと言って、倍速で観ようともならへんけど。

丸橋:藤原さんの言ってた、何も起こらない映画観る時があるっていうのとか、西村さんの何かを得ようとするってのもリンクするけど、映画見るのって体力使うやん。そう考えると、倍速は全く理解できんっていうレベルではないけど、ファスト映画がマジでわからんくて。そこまでして、映画を観る必要があるんですかっていう。あれは、なんで5分の要約をわざわざ観るのって疑問があるんやけど、なんでなん?

藤原:ファスト映画観たことあって。観たことある映画を、ファスト映画でっていうのをしたことがあるんやけど。あんな、面白い。普通に。私が見た人がすごかったんかもしれんけど、めっちゃ要約とか上手いねん。見た映画を要約してくださいって言われても、こんなうまくできひんってなる。普通に映画の映像も流れるし。

丸橋:流れるんや。

藤原:流れるねん。だから逮捕案件。ネタバレとか、映画を見んでよくなるから、映画の売り上げ下がるみたいなとか色々あると思うけど。ちゃんとわかんねんな。要約できてるし、話し方とかも、結構聞き入ってしまう感じなのはわかる。めっちゃよくできてると思う。正直。

丸橋:ちゃんとファスト映画っていうコンテンツができてるんや。

藤原:そうそう、多分YouTubeとかでファスト映画って調べたら結構出てくると思う。ファスト映画のYouTubeって、タイトルとサムネが押したくなる感じになってる。

丸橋:へえ。そんなによくできてるんや。ファスト映画を観たいから観に来る人もおるんかな?

西村:じゃあ映画を観るより、ファスト映画を観たいってなることも無きにしもあらずということ?

丸橋:5分で面白けりゃ、ファスト映画でいいじゃんってなってしまいそう。

藤原:ファスト映画のタイトルは、例えば『パルプ・フィクション』だったら、「ヒットマン ボクサー ギャング 若妻 4つの暴力と贖いの物語」。他にも、「見た目はおっさん中 身は10歳 子供の主人公の成長の物語」、「天才vs鬼才 あなたはこのトリックを見破ることができますか?」こういう感じで押したくなるタイトルを付けてる。

丸橋:確かにすごいね。ファスト映画観てる人から話聞いてみたいね。

藤原:めっちゃ映画が好きな友達は、ファスト映画で次観る映画を決めるって言ってた。結末とかは全部知ってるけど、ファスト映画で映画が面白そうと思って、観るみたい。

丸橋:おもろいんかな?この人が最後に死ぬみたいなのがわかってるの。

藤原:どうなんやろうね。楽しみ方が別になってくる。この人後で死ぬと思いながら映画観るわけじゃないやん?例えば、同じ映画は何回も観れるとか。

西村:確かに全然観れます。

丸橋:観れるな。それはそれで面白いわけで。 なんで見れるんやろう?

西村:ストーリー以外のとこに神経を集中できる。だから、より映画全体を知れるのはありますね。死ぬ、死なないのハラハラよりも、死ぬ時のカメラワークと色使いを観ることができますよね。

私たちは、映画を観続けたい!

丸橋:藤原さんはなんで映画観んの?

藤原:昔から結構めっちゃ観てて、なんで観出したんやろ。暇やったからかな。昔ジブリの映画とか、クレヨンしんちゃんとか、ドラえもんとか。小学校低学年とかでよく見てて、それで映画見るのは苦痛じゃなかいってか好きやったから。それが年齢上がっていって、 観る種類が変わっていったみたいな感じなんかな。

藤原:丸橋くんはどうですか。

丸橋:それこそさっき言ってたジブリとか、ライダーの映画とかをやったら親が連れてってくれたし、そこから映画見る習慣が ついてたのと、藤原さんと被るけど、暇やったから。 引きこもってたから、すげえ暇で。そんな時に娯楽といえば、本読むか、映画観るかって感じでしたね。映画観てたら、「映画観るのやめなさい」などと文句も言われへんかった。本とか映画って、ちょっと高尚なことしてるやんって思われがちというか。現実逃避+暇やったからかな。

丸橋:映画から学べることってある? みんなの言うように、もし現実逃避だけだったら、あんまないですよね。映画から影響受けたりとか、映画から学べたこととかってある?

藤原:『E.T.』とかさ、ちょっと優しくなろうって思うやん。『トレインスポッティング』見て、めっちゃピチピチのTシャツ着ようかなとか。

丸橋:あれかっこいいすね。マジで。ピチピチのTシャツにマーチン履いて、ビッタビタのデニムかっこいいよな。西村さんは何か学べるものあった?

西村:それぞれの映画毎であるんですけど、共通してるなって思ったのは、相手の気持ちがわからない時に、助けになる映画ってある。大人が作ってるわけじゃないですか、私よりもすごい人が。だから親の気持ちとか、家族のあり方は映画から学べる気がしてます。「これがいい」とかは断定できないし、「映画に倣って」みたく頭硬くはしたくないんですけど、こう思ってる場合もあるな程度に参考にしたら、視点が広がるかな。だから、いろんな人の目線で語られてるとありがたいです。

丸橋:なるほど、人生を先取りできる。

西村:自分以外の目線からの捉え方みたいな。

丸橋:この小津、『東京物語』じゃないですね

西村:じゃないんですよ。でも、『東京物語』だったら親の気持ちがわかる。『東京暮色』は救われないけど、よかったので。もし私が親になって、子供に気持ちがわかってもらえない時に、小津勧めたらいいんかなみたいな、雰囲気ありません?

丸橋:えーでも自分の親から小津勧められるの嫌じゃないですか?

西村:まあ、確かに。自然見るのが良いですね。

丸橋:棚に置いとくぐらいが1番いいんじゃないかな。 確かに視点広がるのは、ある気はするな。そうね、自分も割とそういうとこはある。あと藤原さんがさっき言ってた、ファッション的な気持ちを作られるのはやっぱり確かにめちゃめちゃあって。

藤原:あるよな。

丸橋:最近、『ライトハウス』を観た。重そうなコート着てさ、髭生やして。労働者っていう感じの、あのファッションが死ぬほどかっこよく見えたりとか。あと、大島渚の『御法度』は、新選組のファッションめちゃめちゃかっこいいやんか。黒の紋付がめちゃくちゃかっこいいとか、そういうとこは確かにある。違う世界への興味・関心をそそられる。映画を観始めてから東アジアに興味を示すようになった。中国とか香港とかって、小学生の頃はそんな興味なかったけど、映画観始めてからかっこよすぎることに気づいて、すごい好きになった。外に向けての興味関心が広がるっていうのは大きいかもな。


西村:映画でしか描けないことってなんだと思います?

丸橋:映画と近い媒体には、ドラマとかアニメーションがあります。そことの違い。映画でしか描けないことって難しいけど、すごいニッチなことをやり易いんやろうなって気はしてんねんけど。映画とドラマとの違いという意味では、すごく大きいと思っていて。基本的にドラマは、テレビで放映するものだから、映画より客層を広めに取らないといけない。映画って、誰に向けてやってるんやろみたいなのもあるやん。ああいうことをやれるのって映画でしかないのかなと思う。さっき出てきたLGBTQの話も、多分1番最初にやりやすかったのって、映画なんじゃないかなと思いますね。

西村:確かに、誰に向けてるのみたいな映画多いですよね。あと、名もない監督とかいっぱいいるわけだし。LGBTQの話だと、ヒッチコックの『レベッカ』は1940年くらいの古い映画ですけど、実はレズビアンを描いてるって、ジェンダー論で習って、歴史があるなと思っていたところです。

映画に惹かれる

西村:自分たちを通して若い人へ伝えたい、映画の魅力って何かありますか?

藤原:丸橋くんやったらファッションとかじゃない?私もファッション、音楽とかの影響を受けられることやな。

丸橋:確かに。ドラマでも可能ではあるけど、より映画らしいところではある。実写やから、映像と音楽とがあってこそより感じやすい。 あと、自分の興味の枠外に連れて行ってくれる感覚はあって。働き始めたりするとだんだん時間がなくなっていくから、大学生、高校生くらいの時間が余ってる内に、自分の枠外に連れて行ってくれるような体験をするのが重要だよね。それの一端を映画が担ってくれてる部分は結構あると思う。ヤンキーとか東アジアへの興味もそうやし。邦画やけど、『下妻物語』とかもロリータファッションとヤンキーファッションもリンクするけど。一昔前の文化って、そんなに目にする機会もないし。興味の枠外にあった所に、「パッ」ってフォーカスを当ててくれるのが映画で。それを観て学んで、やっぱりすげえ面白いなとか、ファッションオシャレやなとか、芳年の原宿文化に興味を示したりとかもあるっていうのは大きい。ファッションデザインにめちゃめちゃ憧れたんは、やっぱマックイーンの影響も大きいっていうのが個人的にはあるのかなっていう気はしてます。藤原さんは?

藤原:まさにその感じやな。やっぱりファファッションと音楽、映像とかもそうやけどいいよな。それが映画の魅力やなと思うやっぱり。ファッションとか音楽は、元々好きやったけど、映画ほぼ毎日見てた時があって、そこでより好きになった気がする。 あと、やっぱ「これ絶対観とかな!」みたいな映画あるやん。ファッション好きなら、音楽好きなら、この映画見と観とけやみたいな。そういうのを自分が好きになった時に、イキりの材料の1つとしても(笑)。

丸橋:それわかる(笑)。

藤原:「いや、あれは観なあかんやろ」みたいな。遊んでる人とか、先輩とかにも、「あれ観とかな、お前始まらへんから」みたいな言われる。

丸橋:はいはいはいはい(笑)。

藤原:そういうのもあるよな。

丸橋:イキる材料の1つはめちゃめちゃある。

西村:かっこいいですもんね。映画観てるの。オマセさん。

丸橋:確かにな、西村さんは?

西村:人と関わる時に参考にしてる。人と関わるのが円滑になるかもってのがある。人生経験として持ってるかのように、映画を参考にしながら生きてます。

 あと最近だったら、例えばイベントを企画しますっていう時の空間デザインをどうしようかみたいな時に、『乱』みたいに生花を飾りたいみたいなのを考えてた。花があったら素敵になるよねとか、結構映画のシーンが浮かんでくることが多いですね。さっき言ってたファッションとかもそうなんですけど、写真とか言葉、文章書く時に伝え方とかね、広く参考にしてます。

藤原:うん、確かに確かに。

西村:それは多分ドラマも0じゃないと思うけど、ドラマより映画の方が参考にできる、良いと思うものが多いのってなんででしょうね。短いから?

丸橋:短い方が研ぎ澄ましていくからじゃないですかね。別にドラマが無駄に長いという訳ではないですけど、映画はドラマの全話よりも短いから、削っていくのがやっぱり多いわけで。やっぱり、鮮列に印象に残るシーンを用意する。映画にはたくさん魅力があるね。

西村:映画にしか出せない魅力が多かったですね。話していてたくさん気づきがありました。


 映画の楽しみは、映画を観る人の数だけ存在することがわかります。映画を通して音楽やファッションを知る。つまり、自分の興味や時代の枠外に連れて行ってもらうというこの芸術の楽しみ方と共に、3人の趣味趣向を確認し合えた対談になったと感じています。ぜひ、ランキング内や対談に登場した映画をチェックしてみてください。忙しい時ほど、あなたのbest filmに出会えるはずです。映画を見ながら、あなただけの楽しみ方を見つけてみれば?

 また、映画特集として「大学生に見てほしい映画」というテーマのコラムもそれぞれ公開しますので、合わせてご覧ください。

(文 / 西村、対談 / 丸橋・藤原・西村)