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学生よ、映画を見よ。『ヘル・レイザー』〜一瞬の恍惚〜

学生時代の内に観て欲しい映画というテーマでコラムを書くことになった。

学生のうちに観てほしい映画とは何なのだろうか?学生時代にしか観られないものというのは特にないだろうと思う。ここで指す学生というのは多分、高校生〜大学生位だろうなと思っている。その年代というのはどちらかといえば暇を持て余している人が多いのではないだろうか。そんな折には様々なものを観て、自分以外の考えや、外の世界に触れ、知見を広げるのが一番良いだろう。だがそれは映画でなくても良いはずだ、じゃあ映画を見る意味とはなんなのだろうか。

私が学生時代に見てほしいというか、観て良かったなと思う映画はたくさんある。その中で今回選んだのは「ヘル・レイザー」だ。ピンヘッドの見た目ぐらいなら知っているという方も多いのではないだろうか?「ヘル・レイザー」はクライヴ・パーカーが監督する、1987年に一作目が公開されたホラー映画シリーズだ。何作かあるが、ここでは一作目の話をする。


パズルを解くと究極の性的官能が得られるらしいパズルボックスを解いたら、体が弾け飛んで肉体を失ってしまった兄。そしてそんな兄と不倫関係にある弟の妻は、兄の肉体が血で再生することを偶然発見してしまい。色々な男を連れ込んでは殺し兄の肉体の再生を試みる──


スプラッタホラーと言って差し支えないのだろうか、あらすじ通り本作は人体がどんどん破壊されていく。80年代の、今から見たら少しチープでありながらも強烈な印象を残す赤色をした血。何で作ったのかよく分からないその血をちょっとだけもらって再生した骨と臓器ぐらいしかない兄の肉体は、確かにリアルではないのだが、そのチープなところが逆に作用し妙に蠱惑的、魅力的に映る。そしてそれはリアルでないからこそ(当時はともかく、今だからこそグロくならず)美しく観られるところもあるだろう。

そしてなんと言ってもこの映画を代表するのはピンヘッド達4人の魔導師だ。彼らはパズルを解くと、究極の性的官能を与えるために出てきてくれる。究極の性的官能が人体破壊、そして魔導師がボンテージファッションに身を包みピンを顔に刺していたりするのだから、BDSMの伝道師なのだろう。その見た目は強烈で、めちゃくちゃかっこいい。「ベルセルク」の5人のゴッドハンドや「ドロヘドロ」のファッションにも影響はあるのではないだろうかと思う。その飛び抜けてイカした見た目は、そこまで登場シーンは多くはないのだがその中でも強い印象を残してくる。

私は「ヘル・レイザー」について好きなところがたくさんあるが、ラスト辺りの展開や、他にも少し笑いたくなってしまうようなシーンも結構ある。

だが「ヘル・レイザー」は印象に残るし面白い。勿論、よく出来ているものは面白いが、完璧でなくても面白いものは沢山ある。「ゼイリブ」なんかも妙に長い殴り合いとかが逆に面白くなってくるが、それはそれを補い余る程の魅力が作品に秘められているからではないだろうか。完璧でなくても突出した一瞬のカットなのか、ファッションなのか、何かがあればそれは自分にとってとても面白く、印象に残る良い映画になる。

映画は基本的に時間が短い、そこに合うように洗練され研ぎ澄まされていく内に、主張したいものがより鋭利な形で現れるのではないだろうか。そしてそれは時折思った以上に私に突き刺さってくる。極論、別に学生時代に映画を観なくても良いのかもしれない。だがその研ぎ澄まされた一作を見るために、色々な映画を観てみるのは楽しい体験だろう。そして何事についても必ずしも完璧である必要がない。その中で光るものがあればそれは強烈な印象を人に残すことがある。ということを知れるのは、決して意味がないことではなく映画でしか味わえない感覚なのではないだろうか。

映画についてメンバー3人で行った対談もお楽しみください。

(文 / 丸橋)