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学生よ、映画を観よ。『四月物語』

大学生が観るべき映画というテーマを決めた。どのような映画でどのような内容で書こうか悩んだが、私がひとり暮らしを始めた3年前に観た、春の映画を紹介しようと思う。私はこの映画から、大学生活をどう過ごしていくのかを学んだ気がしている。

 四月。北海道から上京した卯月は、東京の武蔵野大学に通うため、ひとり暮らしを始める。大学一年生から始める新生活の中には、友人やアパートの隣人など、個性の強い人々と触れ合いや憧れた出会いがある。『Love Letter』『スワロウテイル』の岩井俊二監督が、松たか子演じる卯月の春を描く。

 大学1年生の、あの、なんとも言えない未熟さを的確に描く。たくさんの映画を観ても尚、岩井俊二監督の映画に魅了されるのは、日常の人間くさい言動を丁寧に描いてくれるということがある。誰しも感じるであろう気まずさや、対人関係の難しさ、だからこそ映画になる人間の面白さを目の当たりにする。

 武蔵野での卯月の生活は、自転車で街中を冒険した後見つけたミニシアターで映画を観賞し、本屋の長髪イケメンに憧れる。私は鳥取県出身で、主人公と同じ田舎から都会に引っ越してひとり暮らしを始めた。そして、自転車を買って街中を巡っていた。その中で見つけたスポットに今でも訪れるが、新しく開拓できていない。その冒険心のようなものは、見慣れた街では発揮することができない。「大学生活を送るなら、いい本屋と映画館のある街がいい」どこかで聞いたことのあるような謳い文句だが、これは本当だと思う。多感な大学の4年間では、いい本を読んで、いい映画を観るこれに尽きるし、尽きたであろうと実体験からそう考える。

 ここで、私が3年間を過ごし、4年目を共にする予定の左京区を紹介させてほしい。私は、左京区の一乗寺に住んでいるのだが、恵文社が大好きで憧れて住むことを決定した。さらに最近では、アリバイブックスという古本屋ができ、そこで大学の歌の上手い親友が働き始め、家の下には古着屋ができ、一乗寺が賑やかになっている。目線を広げて左京区には、出町座というミニシアターが出町柳の商店街を賑わしている。3回生の今では、生活を楽しむことができているが、振り返ってみればひとり暮らしは静かでひんやりしていた。そこで自分の興味が傾く趣味を見つけることで、初めて信頼がおけるものを見つけたのを覚えている。

 作り込みすぎとも言える演出によって、美しいシーンが目立つ。特に冒頭の桜の雨が降るシーンでは、春や大学生活へのキラキラしたイメージを沸き立たせる。そのような映画の中にリアルを見た時、例えば冒頭の自己紹介シーンでは、ネタを披露する人や特技の英語で話す人がいる中で卯月は戸惑ってしまう、趣味と程遠い変なフィッシングサークルに加盟させられてしまうなど、その対比が大学生活に描くキラキラな理想と、(1回生の5月頃には気付く)必ずしも輝いていない現実への幻滅とも重なる。そんな現実を着実に、ゆっくりと生きていければいいのだ、と私は大学生に伝えたい。大学生活の初めに感じるであろう、美しい幻滅と共に自分らしい生活を送っていきたい。

映画についてメンバー3人で行った対談もお楽しみください。

(文 / 西村)