2016・9・12入試関連,授業紹介
※2019年度入試からの入試内容変更により、現在この「音楽描写」入試は実施されておりません。しかしながら、この入試は音楽コースの教学方針を具体的に示したでもあるため、引き続き掲載しております。
京都精華大学の公募制推薦入試[学校推薦型]B日程(2016年11月13日実施)および一般入試前期B日程(2017年2月1日実施)において、音楽コースでは専門実技試験「音楽描写」を実施します(他の日程では学力試験等でも受験できます)。この試験では、入学後のカリキュラムで音楽を専門的に学ぶために求められる素養や、音楽と向き合うための姿勢を評価します。
この記事では前編に引き続き、「音楽描写」試験における答案の作り方や、練習の際に意識すべきポイントについて解説します。
下書きをもとに解答用シートを清書していきます。下書き用紙をもう一枚使って、パートを並べる順序を変えるなど、おおまかなレイアウトを決めておくのも良いでしょう。
ここでのポイントは、情報に優先順位をつけることです。下書きで書き取ったことをすべて詰め込んでも、曲の特徴を考える上でどの要素が重要なのか、かえって分かりづらくなってしまいます。「曲の印象を作っている主要な音」「展開にメリハリを与えている音の変化」「聴いていて面白いと感じさせる工夫」などを意識して、伝えたいことを整理しましょう。文章に書く事項も、この段階で箇条書きにしておくと、作文しやすくなります。
清書の際には、カラーペンなどを効果的に使って見やすい図を作ってください。ただし、派手にする必要はありません。目立たせたい箇所に色を乗せるくらいでも十分です。色だけではなく、線の形を使い分けて奏法の変化を表すといったやり方も考えられます。
文章に関しても、特に専門的な知識が求められるわけではありません。また、「描写」と言っても、ことさら表現に凝る必要もありません。むしろ、音楽にくわしくない人にも伝わるような、簡潔な言葉づかいを意識してください。
読みやすい文章を書くために求められる基本的な技術は、原稿用紙を用いる一般的な作文の場合と同じです。
といったことを、普段から心がけてください。
それでは、過去の課題曲で作成された解答例をもとに、改めて評価のポイントを確認しましょう。
※楽曲は動画の1:30頃から
【下書き】【解答用シート】 この曲の構成はイントロから始まり1A、2A、3A、アウトロで終わる。
使用されている楽器はボーカル、コーラス、ギター、ベース、打楽器、シンセサイザー。ボーカルとコーラスは20〜50代の男女なら出せそうな音域で似た音質だ。基本的に同じメロディを繰り返し歌っているが一部男声であろう低音が使われている。ギターはアコースティックギターに近いナチュラルな音で少なくともメロディとバッキングの2本はいる。ベースは曲のはじめの方はいないが曲全体の低音を補うようなコントラバスに近いふくよかな重みがある。打楽器はドラムのバスドラのような胴鳴りの低音、ボンゴ、コンガの皮を手でたたく音と指ではじく音、スネアをスティックでたたく音がある。シンセサイザーは小規模オーケストラのようなバイオリンのような弦楽器とトロンボーンのような金管楽器、鍵盤ハーモニカ、オルガンのような空気感のある音を使用している。
展開について。イントロはギターのみで1Aに入り、ボーカルとコーラスが入ってくる1Aの半分くらいで和音でのシンセサイザーが入ってきて厚みが出る。2Aではそれらに加え、バスドラのような低音、ボンゴ、コンガ、スネアの順で入り、低音コーラスが増え落ち着いたイメージが強くなるが、後半に打楽器の打つ回数が増え落ち着きをなくす。3Aに入り1Aと同じ入りをするが、楽器数が増え1Aとは違う高音が多めの印象を受ける。アウトロはVOとともに全楽器が終わり低音が少ない余韻が残る。
全体を通してボーカルとコーラスを中心に構成されている。楽器の抜き差しや歌い方で同じようなメロディの繰り返しに違う印象を感じさせ、最後に少し繰り返しを増やし残響で終わることで余韻に浸ることももう一度聴きたいとも思わせる飽きないつくりになっていると感じた。
【講評】 一つひとつの音の質感をとてもていねいに描写しています。最後の段落にある曲全体の特徴についても、明瞭にまとまっています。一方、「2A」としている箇所の後半部分には、単なる音の増減にとどまらない曲調の大きな変化を丹念にたどっていれば、より充実した描写になっていたと思われます。例えば、曲の1分43秒(動画では3分13秒)辺りでの変化が、その後の盛り上がりをどのように引き出しているかに注意してみると良いでしょう。
ところで、この解答で「シンセサイザー」とされている音は、実際には本物の楽器で演奏された音です。とはいえ、この試験では、実際とは異なることを書いているという理由で減点することは基本的にありません。評価のポイントはあくまで、「曲を構成している音の違いや変化を聴き分けているか」と「自分がとらえた曲の特徴を、他人に伝わるよう説明できているか」の2点です。この解答の場合は、下書きの段階でよく聴き取っていた楽器群を清書で一まとめにしたことで情報が省略されてしまっているのが惜しまれます。
【下書き】【解答用シート】 この曲は、イントロ、A、間奏、A’、サビ、A”からなり立っている。
エレキギターのストロークからイントロが始まるのだが、ストロークにアルペジオを混ぜているため、フレーズに厚みがあり、メロディアスに聴こえる。そこにヴォーカル、コーラス、ホーンセクションと加わる雄大なホーンセクションが、ギターのテンポとあわさって独特な雰囲気を作り出している。
次に間奏に入る。ホーンとギターのゆったりとしたテンポを味わえる。
A’は上記で解説したAパートにドラムが小説の頭にバスドラムを鳴らし、そのあとにタムを弾いているのがわかる。他にもAよりも早めにホーンが入ってきている。
サビではドラムが8ビートになり、ベースが入ってくることによって、ノリが良くなる。また、ホーンが、一音を長くのばして重ねたフレーズではなく、ひんぱんに音程が動くメロディーラインを奏でていることが主な特徴である。ギターもエレキギターとアコースティックギターの2本に増え、アコースティックギターがストロークによるバッキング、エレキギターがスライドバーを使ったメロディラインを弾いている。
A”では、楽器の音の数が減り、アコースティックギターとヴォーカルから始まる。エレキギターのスライド、ホーン、ストリングスと音の数が増えていき、最後はストリングス、アコースティックギター、ヴォーカルが鳴って、この曲は終了する。
【講評】 解答1と同じ曲を選んでいますが、とらえ方に異なるところがあります。楽器編成やセクションの分け方に関しては、この解答の方が実際に近いと言えます。文章では楽曲の展開に焦点を当てて描写しています。「サビ」としている箇所で各パートがどのように曲を盛り上げていくかについては、特にくわしく説明されています。
一方、図の見やすさに関しては改善の余地があります。原因は、枠組の方を目立たせることで、伝えるべき情報がかえって見えにくくなっていることにあります。文章を一通り書いた後で、それと連動するように色分けで強調するくらいが丁度良いかもしれません。
【下書き】【解答用シート】 この曲は、ピアノとボーカルが印象的である。ピアノは曲全体を通してずっと鳴っており、弾き方のパターンや音の高さ、強弱など様々な変化がつけられている。また、曲全体を通してみても、聴き手を飽きさせないように様々な工夫が見られる。
例えば、随所にみられるコーラスはハミングであったりはもりであったり多様である。後半、女性の声が複数重なり、空間でひびいているように聴こえる所は、他の音の数が減っていることもあり、とてもきれいで、聴き手の耳を惹きつける。後半から増えていく弦楽器や管楽器の音もピアノやボーカルの生演奏らしい音をさらに生きいきとしたものにしている。
もう一つ、この曲で印象的なのは、リズムをとっている音である。何か箱を手のひらでたたいたような、かわいた音は拍をとっており、音自体は大きくないが、存在感がある。曲のリズムの大半はこの音がとっており、ハイハットやライドシンバルも入っているが、少しである。なめらかでありながらもリズムがしっかりしているのは、このリズムを鳴らす音が支えているからであると言える。
全体を通して、ピアノとボーカルが生きるように他の音が鳴っている。打ち込みというよりは生演奏に近い音であるといえる。強弱や音の数、パターンなども不規則に変化しており、聴き手を飽きさせないような工夫がされている。細かい音の変化が多く見られ、曲全体を通して展開のおもしろい曲となっている。
【講評】 下書きではかなりくわしく書き取っていた情報を、清書ではかなりすっきりとまとめてあります。ただし、ピアノが伴奏の中心となっていることを考慮するなら、その奏法の使い分けについては残しておいた方が、展開の特徴がより明確になったのではないでしょうか。
各パートが鳴っている箇所を示した図を見るだけでも、Bのセクションが曲の山場となっていることが伝わってきます。さらに、Bがもう一度現れる際にパート編成が少し変わっていることも分かります。こうした工夫が曲の展開にどう活かされているかにまで踏み込んで説明を試みれば、曲の構造についての理解もさらに高まっていくはずです。
【下書き】【解答用シート】 この曲は色々な楽器を用いて作られていて、ドラムや声はもちろん、シンセサイザーだけでも6つもあります。シンセサイザー1はエレクトリック・ピアノのような音で、2はリズミカルな音、3は音を重ねたような分厚い音です。4は音が散らばって広がりを感じさせる音で、5は「ブワッ」という波みたいな音で、6は小さく動くような音です。
私がこの曲の構成で重要だと思った点は、曲の冒頭からあるパーカッションのリズムと、1:00を境に曲がガラリと変わるところだと思いました。1:00よりも前では低い男性の声が多く使われていて、シンセサイザーの音も少ないです。しかし1:00を過ぎるとシンセサイザーが前面に出てきます。声も女性の声に変わり、曲が大きく変化します。
ここで重要なのがパーカッションのリズムです(図中の◯)。◯してある所は冒頭と同じか、そこから少し変化したものです。図を見てわかるとおり、最初からあるリズムを度々使っています。さらにシンセサイザー2をそれと同じリズムで演奏させています。最初からあるリズムを使うことによって、曲が大きく変わる展開でも、曲の流れは同じに感じさせる構成になっていると思います。
【講評】 メロディがある歌ものの曲とは根本的に異なり、電子音を中心に構成された曲です。この解答では、楽器名では表せないようなさまざまな音の特徴を、平易な言葉で描写しています。
また、図と文章の役割分担が効果的です。音量の変化を矢印で表すなど、曲の展開における音の変化を目で追いやすくなっています。図の中に目印を入れ、その箇所について文章で説明するなど、両者の関連づけも工夫されています。
曲の展開に関しても、1:00を境に曲調が大きく変わるところを中心にまとめています。欲を言えば、それ以降についても説明がほしいところです。明確な展開が見られないところでも、個々の音の変化で流れに抑揚が生じていることが、図からも何となく見えてきます。そうした点についても指摘できれば、さらに完成度は高くなるでしょう。
以上のように、この「音楽描写」試験は、受験時点での専門知識の量を評価するものではありません。それよりも、音楽の構造を理解しようとする姿勢や、それを身につけるための努力を評価対象とします。この姿勢があれば、入学後に学ぶ専門的な内容もおのずと自分のものにできるようになります。さらにこの力は、音楽と長く付き合っていくための基盤にもなるでしょう。受験対策としてはもちろん、音楽と向き合うための基礎訓練として、ぜひ取り組んでみてください。
→ 音楽コース入試実技試験「音楽描写」はこう取り組もう(前編)