本研究は、京都精華大学全学研究センターの個人研究奨励費から助成を受けています。以下は同奨励費研究計画書からの抜粋です(文責:安田昌弘)
研究の背景
私はこれまでヒップホップが日本に輸入され、定着するプロセスを研究してきたが、それと並行して注目を集めている「ポエトリーリーディング」という表現実践がある。直訳すると「詩の朗読」になるが、英語の音訳が使われているのには従来の「詩の朗読」には還元できない要素があるからであろう。日本に「ポエトリーリーディング」が入ってきたのはビート世代を経由した6〜70年代と考えられるが、その運動は小規模かつ断続的であり、記録も散逸している。2017年度に、旧知の実践者に声をかけてワークショップを行ったところ、学内外から参加者があり関心の高さがうかがい知れたため、まとまった入り口を用意する必要を感じた。
研究目的
本研究の目的は、これから日本で「ポエトリーリーディング」の実践を始めたいと思う者にわかりやすい入り口を示すことである。そのためには、欧米におけるその歴史を紐解くとともに、従来の日本の詩の朗読との接点と断絶を見極め、実際に日本で「ポエトリーリーディング」を実践する詩人たちの話を交えながら、日本における「ポエトリーリーディング」の現状を俯瞰する必要がある。詩としての存在論(なにを持って「ポエトリーリーディング」とするのか)と、詩としての美学(どうしたらよい「ポエトリーリーディング」になるのか)というふたつの問題に目を配りながら、現代日本における「ポエトリーリーディング」のあり方を見極めたい。
研究の独創性
前述のように、「ポエトリーリーディング」についてわかりやすく日本語で書かれた資料は非常に少なく、同時代的にこれを実践している人々をまとめた資料もほとんどない。また、「ポエトリーリーディング」を単なる歴史上の文学運動としてではなく、現在進行形の表現実践として捉え、(日本語の)詩の形式の問題や発声・発音の仕方、リズムやイントネーションの問題など、実践に必要な知識や技術をまとめた研究はほかになく、完成できれば社会的に大きな注目を浴びると思われる。また、詩のもつ言葉や文字と音といった要素を通して、学部・学科・コースを横断する取り組みに発展することも期待できる。
研究計画及び方法
定期的な公開研究会を実施し、知識を蓄積してゆく。研究会は私が中心となって準備し、年に4回(5月、7月、11月、1月を予定)実施する。公開研究会では、私の他にレギュラーメンバーとして、黎明期から日本語ラップの発展を見てきた荏開津広氏(本学ポピュラーカルチャー学部非常勤教員)と、ラップ経由で「ポエトリーリーディング」を日本に持ち込んだ最初のグループの一つであるSUIKAのタカツキタツキ氏に参加していただく。荏開津氏には、アメリカ及び日本における「ポエトリーリーディング」の歴史的背景についてお話しいただき、タカツキ氏には日本語で「ポエトリーリーディング」する上での実践面のテクニックについてお話しいただく。私は、お二人のお話を踏まえながら、欧米と日本、理論と実践、歴史とこれからのあいだの橋渡しをする「ポエトリーリーディング」についての知識のあり方を模索し、不足する要素を明らかにし、可能な限りでその部分の知識を補充してゆく。