銭湯という日本文化を残し続ける/サウナの梅湯番頭 湊三次郎さん(執筆:常川遥香)


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古くから続く日本の伝統文化が現在でも受け継がれ、色濃く残る京都。「銭湯」は、日本の古き良き文化の1つであり、京都にも数多く残り続けている。
みなさんは、銭湯という場にどのようなイメージを持っているだろうか。高齢の常連さんが通う場という印象が強く、壁を感じることがあるかもしれない。
しかし、本来銭湯は他の入浴施設よりも親しみやすく、まちなかの風景に溶け込む「身近さ」を持っている。そんな「銭湯の身近さ」を現代的に感じられる、一風変わった銭湯がある。
京都府五条、高瀬川のほとりにある「サウナの梅湯」だ。銭湯活動家であり、梅湯の番頭をしている湊三次郎さんにお話を伺った。

■梅湯の番頭をするきっかけと梅湯について
湊三次郎さんは静岡県浜松市出身。高校時代に旅行した横浜で銭湯に出会う。
京都での大学時代は銭湯サークルを作り、全国600箇所の銭湯に足を運んだ程の銭湯好き。大学卒業後はアパレルの仕事をされていたが、学生時代にアルバイトで番台を手伝っていた梅湯が廃業の危機にあることを聞き、経営を受け継ぐことを決意した。2015年5月にサウナの梅湯の経営者となる。銭湯文化の若き担い手である。
サウナの梅湯は、入浴料430円(サウナの料金を含む)。銭湯といえば、風情ある建築も魅力の1つだが、梅湯の歴史は非常に古く、開業は明治時代にまで遡る。現存する京都の銭湯で一番古いのではないかとも言われているそう。

■銭湯という場を楽しんでもらう
「自分自身が若いからこそ、柔軟な発想で銭湯を若者向けにしている」。そう語る湊さんは梅湯にて、デザイナーや映画関係者、陶芸家や落語家、DJやラッパー、ミュージシャンやスケーターといった様々な分野のアーティスト達が、銭湯という名の元に、「ストリート銭湯カルチャー」という新しいムーブメントを沸かすイベント「Get湯!」を主催したり、多様なアートイベントを行っている。他にも、銭湯に関する貴重な本を読むことが出来る本棚の設置、花の販売、整体を受けられるスペース(不定期)、フリーマーケットなどを取り入れている。お風呂屋さんとしての銭湯という一面だけではなく、一般的な銭湯とは異なり多方面な物事との出会いを作り出している場ともいえるだろう。
それらを行うきっかけとなったのは、「知人からの提案や協力」だという。湊さんにとって、「銭湯という場は、地域の人が集まり新しい出会いが生まれる場所」である。湊さん自身も銭湯を通して、新しい人と出会うことで、新しい物事と出会える銭湯を作り出しているのかもしれない。

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また、大晦日と元旦のオールナイト銭湯や、花見風呂などの季節の行事をイベントとして取り入れている。その最たる理由はずばり、「お客さんに楽しんでもらいたいから」だそうだ。家のお風呂ではみんなで湯船に浸かり楽しむということは出来ない。そして、それらは銭湯という場が日常生活に近い存在だからこそできる特別なイベントと言える。
他にも梅湯は、オリジナルタオルや無添加石鹸の販売、シャンプーやタオル、ドライヤーの無料貸出など、銭湯に関する物に対しても一般的な銭湯と違った視点の取り組みをしている。それは「銭湯に初めて来られる方のハードルを低くするため」だそう。確かに、銭湯を利用する際に、シャンプーやタオルを持参することは当然のようになっているが、それを手間に思う人もいるだろう。そして、常連さんではない外国人観光客やたまたま通りかかった人が利用する上でも、無料で借りられることで銭湯を利用しやすくなる。このような様々な工夫で、銭湯魅力の1つである「身近さ」をより引き立てているのだ。

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■銭湯という文化の継続
「大きいお風呂にはいりたいという要求はいつの時代も変わらない」と、銭湯に来る根本的な動機を語る湊さん。梅湯が行っているこれらの取り組みの共通点は「きっかけ」がないと入りづらいと感じる人に、銭湯という場の魅力に気づいてもらうための「きっかけづくり」なのかもしれない。
「梅湯のお客さんの割合は常連さんが7割で、外国人の観光客や一見さんは全体の3割」だという。他の銭湯では9割が常連さんのことも多いそうだ。一般的な銭湯よりも柔軟な発想が「若い層へのアプローチ」につながっている。
湊さんは将来的に「梅湯を残していきたいというよりは銭湯を残していきたい」と話す。それは、「文化としての銭湯」を残すことを考えているということである。梅湯だけとなれば、まちなかにある「身近さ」がなくなり、スーパー銭湯のようになってしまう。だから銭湯という「生活に根差した文化」を残すために、「銭湯の多店舗経営」を今後展開してみたいと話す。そして銭湯が、「京都だけでなく色んな地域に残し続けられるように」と語った。
そして、数多くの銭湯に足を運んだ湊さんにとっての究極の銭湯は「昔から何も変わらないのに、お客さんが常に溢れかえっている銭湯」だという。梅湯のこれからに注目し続けたい。

■インタビューを終えて
私が初めて銭湯に行ったとき、常連さんからの視線を感じた。しかし、ボディソープを忘れてしまった私に石鹸を貸してくれたのも常連さんだった。家族でも友達でもない人に石鹸を借りるなんて、よく考えれば不思議な話だ。第三者とのコミュニケーション、それが銭湯の魅力のひとつであり、私が銭湯に興味を持ったきっかけだ。
湊さんの、「きっかけがないと入りにくい」、「銭湯初心者のハードル」という視点は、私も感じた銭湯の壁であった。梅湯は、銭湯に気軽に訪れる「きっかけ」を作る仕組みが多くある。梅湯から銭湯を知る、銭湯を知ってから梅湯を知る、別のアーティストが銭湯を使っていて、イベントに興味をもったから、など銭湯に行くきっかけのケースを増やすことで、お風呂屋さんとしての銭湯よりも多くの出会いを作り出す場となる。
若い世代の人々の中には、毎日お風呂に入りたいけど沸かすことを手間に感じたり、シャワーで済ませたりと、お風呂に入ることが作業のようになっている人もいると思う。銭湯に行くために、外に出るときのわくわくとした気持ちや、身体の芯から温まった感覚に出会ったとき、お風呂に入るという何気ない日常の行動から幸せを感じることが出来たりする。1人ではなく友達と一緒に話しながら湯船に浸かったり、銭湯で出会った人との会話が生まれることもある。銭湯へ行くという行動には、ただお風呂に入る以上の充実感がある。入浴料が430円ということもあり、学生にとって毎日通うのは厳しいかもしれないが、日々の贅沢として銭湯をとりいれると、きっともっと生活を心豊かに楽しめるのではないだろうか。