2015・2・18授業紹介
ファッションコースの「制作実務研修4」(担当:西谷真理子)は、大学卒業後に目指すべき仕事について理解し、将来の設計図を描くことを目的とする集中講義科目です。今年は2月4日から10日まで5日間かけて行われ、ファッションやその関連業界で活躍するプロを連日ゲストに招いて授業を受け、ワークショップを行いました。受講生の米田真理子さんによる各回のレポートを掲載します。
その1: 人とモノとをつなぐ場の作り方
井辻康明さん(ジェイアール京都伊勢丹バイヤー、ヤング担当)
その2: みんなの「素敵」を形にする
加藤智啓さん(ブランディングディレクター、EDING:POST主宰)
その3: 伝え方一つとってもブランディング
植原亮輔さん(グラフィックデザイナー、AD、KIGI主宰)
その4: 「動き」を客観的に読む
青野賢一さん(ビームス創造研究所/ビームスレコード各ディレクター)
制作実務研修は、将来関わりたい仕事について考えるとき、少しでもその指針になるよう、クリエイティブな現場の様々なジャンルで現役で活動している方々の声を間近で聞き、その様子を肌で感じるためものとして開講されました。初日は、長年『装苑』『ハイファッション』などの編集に携わってきた西谷真理子先生自身による講義でした。講義とは言うものの、そんなに堅苦しい感じではなく、授業は終始和やかな雰囲気の中で進められました。
まずは西谷先生の持ってこられた、文化服装学院が発行している『装苑presents ファッション業界お仕事BOOKまるごと一冊 文化服装学院の卒業生!』という冊子を各自で読み込み、気になる職業を紙に書き出してみました。ファッション関係の仕事だけでなくてもよく、今自分が気になっている、興味を持っている仕事・職業を書き出してみるというものでした。そして、書き出した仕事・職業について一人ずつ発表し、西谷先生からのコメント、アドバイスをもらいました。日々同じ教室の中で顔を合わせている級友たちがこの2年間大学で学んできてこんなにも様々なことを考えていたのかという驚きと発見が多々ありました。
2日目は、10年以上にわたり株式会社伊勢丹に勤め、主にバイヤーとして活躍されている井辻康明さんをゲスト講師としてお招きし、「売ることで人とつながる」ということについて学びました。井辻さんのハキハキとした話し振り、キビキビとした身振りから「デキる社会人」という印象を強く受けました。
1コマ目は井辻さんの経歴や百貨店の歴史、そして現状についての講義を受けました。私たち学生側からすれば「百貨店=高級感があって近づきがたい」というイメージだったのに対し、井辻さんや西谷さんから「百貨店=ファミリー向けで様々なものが置いてある場所」という印象で、特別「百貨店=高級感のある場所」ではなかったというお話を聞き、衝撃を受けました。また、井辻さんは現在ジェイアール京都伊勢丹に勤務なさっているということで、関西では少々なじみが薄いように感じられる伊勢丹の魅力をたっぷりと教えていただきました。
具体的には、カルバン・クライン、アナスイなどのブランドをいち早く取り入れるなど、つねにファッションやブランドを通して「新しい試み」を行うことをお聞きしました。また、買ってもらえなくても見に来てもらえるだけでもいい、百貨店をミュージアムのようなものにしようという試みもあったそうです。このような試みは本来、百貨店にとってはタブーとされていることであって、そのようなところも伊勢丹が他の百貨店と一線を画しているのだそうです。
百貨店の戦略というようなリアルなお話も聞いた後に、2コマ目はいよいよグループでワークショップを行いました。その内容は、年々増加する観光客に向けたショップというテーマで、お店の売りや代表となる商品を提案するというものでした。キーワードは「伊勢丹×京都×ファッション」。3人一組になり、それぞれ会議を始めました。考え方のコツについては事前に教えていただいていたのですが、思っていた以上に3人の意見を合わせるのが困難でした。そして、時々それぞれの班の様子を見ながら井辻さんも会議に参加し、アドバイスをくださいました。
発表は前に置いてあるホワイトボードの横にグループ全員が立って行いました。グループごとにプレゼンの内容は全く異なり、同じテーマを与えられてもこうまでに解釈が違うものなんだなということに驚きました。そして、それぞれのグループの発表後に井辻さんからビジネスのプロらしい鋭いツッコミが入り、またそれに質疑応答をするという形になりました。
例として私たちのグループは、京都に来る人にはアジア圏の旅行客が多いということで、顧客設定を「日本の文化に興味を持ち家族5人(祖父母、両親、子)で京都に観光に来たアジア圏の旅行客」とし、ならばコンセプトは「日本の文化をお裾分け」にしようということになりました。代表商品についてはなかなか決まらず、「ここでしか買えないというオリジナル感のある商品を提案するのもあり」という井辻さんの助言も受けて、手ぬぐい、駒・けん玉などの昔ながらの日本のおもちゃ、抹茶、和菓子(干菓子)にしようと決めました。手ぬぐいと和菓子は、日本のファッションブランドのデザイナーにデザインをしてもらう京都伊勢丹オリジナル商品(柄はひらがななどの日本独特の文字)を提案しました。それに対して井辻さんからは、「じゃあ、そもそも日本の文化ってなんなんだ」「その商品と設定した顧客が本当に結びつくのか」などの指摘を受けることとなりました。
プレゼンはこのような空気の中で進められたため、やや緊張感のあるものとなりました。実際に企業に勤めてプレゼンをするとはこういうことなのかと、普段授業ではあまり感じることのない現場の雰囲気を感じることができ、貴重な体験となりました。
→ その2: みんなの「素敵」を形にする