京都精華大学ポピュラーカルチャー学部

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2016・7・13読みもの

ファッション学科

ものづくりにおけるヒント ―― ポール・スミス展レポート

 京都国立近代美術館にて、展覧会「ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」が開催されています(7月18日まで、詳細は下記参照)。同展では、ファッションブランド「Paul Smith」のデザイナー、ポール・スミスのコレクションやコラボレーション作品が展示されるほか、彼のオフィスやデザインスタジオが再現されています。今回、ポール・スミス氏自身の発案により、展覧会のプレオープンにポピュラーカルチャー学部ファッションコースの学生が招待されました。参加者の一人である4回生の松吉美紀さんによるレポートを掲載します。


 現在、京都国立近代美術館で開催中の展覧会「ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」。ヨーロッパ各地を巡回してきたこの展覧会がついに日本に上陸した。その一箇所目がこの京都での開催である。
 おそらく、「Paul Smith」という名を知らない人は少ないだろう。しかし、ぼんやりとしたイメージでしかこのブランド、そしてポール・スミスという人物を知らない人は多いのではないかと思う。私も、その一人であった。「Paul Smith」といえば、鮮やかでストライプの柄が特徴的で…といったような軽いイメージしか持っていなかった私にとっても、この展覧会はとても刺激を受けるものになったのだ。

インスピレーションは無限大

 会場に入るとまず目に飛び込んでくるのは、壁一面に敷き詰められた大量の絵画や写真だ。有名な作家のものからファンから送られてきた無名の作家のものまでジャンルも様々なこれらは、ポール・スミスが10代の頃から集めてきたコレクションの一部だという。また、これらの写真や絵画の他にも、会場内に再現されている仕事場や作業場などから、たくさんの遊び心のあるアイテムやビジュアルを目にすることができた。

Paul's Office ポール・スミスは「どんなものにもアイデアを与える力が秘められている」といつも述べているそうだ。彼は、絵画や写真に限らず、生活していて自分の頭の中に入ってきたイメージやアイデアを常に大切にている。そして、一度頭の中に入ってきたものは忘れないように写真やスケッチにして記録してためているというのだ。
 彼自身のInstagramを見ていても、彼が常にアンテナを張り、様々なものに興味を持っていることが読み取れる。建物の一部分、街で見かけたオブジェ、また時には来日した際に立ち寄った回転寿司のメニューといった一風かわったものまで、何気なく日々を過ごしていると見落としてしまうようなところも、彼は見逃さず、また常に興味を持ち続けているのだ。そして、彼はたくさんのものに影響を受けながら、新しいものをデザインし続けているのである。

夢を見続けるということ

 本展示には、「Paul Smith」の一号店が再現されている。1970年にノッティンガムのバイヤード・レーン6番地にオープンしたお店の広さはなんとたった3平方メートルだったという。今では全世界にたくさんの店舗を持つ「Paul Smith」だが、最初の頃はこの店舗を週2日営業し、他の日はお金を稼ぐために様々な仕事をしていたそうだ。

The First Shop
 他にも、会場内には「Paul Smith」の初めてのショールームの様子も再現されていた。シャツが6枚に、セーターが2枚、そしてスーツが2着の合計10着。それらをベッドに広げたホテルの一室が彼の、そして「Paul Smith」として初めてのショールームになった。しかし、来る日も来る日もお客さんは0人。すっかり落ちこんで迎えた最終日にやっと一人の招待客が訪れ、注文が取れたそうだ。これが、彼のビジネスの始まりになったという。
 私自身、ポール・スミスがそのような経験をしてきたということは全く知らなかった為に、本当に驚いた。また驚きとともに、人生をとにかく服に全てを捧げ、たった3平方メートルだったお店から全世界に店舗のある大きなブランドにしてみせたポール・スミスの偉大さを実感した。彼の人生はファッションを学んでいる人々にとっても、憧れそのものではないだろうか。ポール・スミスのように夢を叶える熱意、誠意を持った人たちが増えることで、もっともっとファッション業界が盛り上がるのでは、また、そうであってほしいとこの展示を見て私ながらに考えた。

Design Studio 色鮮やかで、キャッチーな展示を見ていると、要所要所にとにかく気さくで明るいポール・スミスの人柄が見える。名前も知らない世界中のファンから届くたくさんの贈り物に溢れたオフィスや、会議中に場を和ませるために持ち歩いていたというおもちゃの列車のセット。彼の人柄が、ブランドにもにじみでていることが様々な箇所から読み取ることができたように感じた。全体を通して、「Paul Smith」が好きな人はもちろん、将来ものづくりをする人、また現在ものづくりをしている人にたくさん見てもらいたいと思う展示であった。もちろん、ファッションコースに属し、ファッションやデザインについて学んでいる私自身も、たくさんの刺激を受けた。ポール・スミスのインスピレーション源、また、彼のものづくりの姿勢など、「Paul Smith」の背景が見られる今回の展示は、たくさんの人々に様々影響を与えてくれるだろう。


「ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」
京都会場展示概要

【会期】 2016年6月4日(土)~7月18日(月・祝)
【会場】 京都国立近代美術館(京都市左京区)
【開館時間】 午前9時30分~午後5時(金曜日は午後8時まで)
【休館日】 月曜日(ただし、7月18日は開館)