2015・2・7成果公表,授業紹介,読みもの
音楽コース1回生の必修科目「基礎実習5Z」(担当:谷口文和、秋吉康晴、長門洋平)では、音楽や文化について情報発信するために必要なスキルや考え方を学びます。資料調査や取材のやり方、記事の書き方などを練習した上で、チームに分かれてフリーペーパーやウェブサイトの制作に取り組みました。
この実習では2014年10月15日にミュージシャンのtofubeatsさんをゲスト講師に迎え、インタビュー形式でお話を伺いました。2時間以上に及んだインタビュー録音を素材として、学生一人ひとりが各自の関心にもとづいて発言を編集し、画像やリンクも含むブログ記事を作成しました。
提出された記事から、テーマの異なる4本を選んで掲載します。話し言葉をウェブの読み物へと作り変える工夫にも注目して読み比べてみてください。
その1: ネットレーベルとメジャーレーベル
その2: シビアな場、SoundCloudでの自分の見せ方
その3: J-POPの曲作りはクラブ・ミュージックの10倍しんどい!
その4: 一瞬を引き延ばし全体へ繋げる 時間から見た作詞術
中学時代から音楽活動をされており、新しい形で音楽を届けるネットレーベルMaltine Recordsを中心に活動していたtofubeatsさん。しかしメジャーレーベルへと移った。なぜメジャーレーベルに移ったのか。ネットレーベルとメジャーレーベルとの違いを伺いました。
――つい先日メジャーからの最初のアルバムをリリースされましたが、それまでにも作品を発表されているわけですよね。しかも最初の頃は特定のレコード会社からリリースするのではなくて、インターネットでの音源の発表がメインだったわけですが。
tofubeats: 僕が最初にそこからリリースしたのは2008年になりますが、2005年に設立されて、2006年ぐらいから連絡は取り合っていたという感じですかね。
――その時はどちらからコンタクトをとられたのですか?
tofubeats: Maltine Recordsですでにimdkmという名前で活動していたイトウ君がいらっしゃいまして。その彼のブログで僕の音源が紹介され、そこで彼にアプローチをとりまして、つながっていった感じですね。
――ではその時点で割ともう知っている人が多いというところから始まったのですか?
tofubeats: いや、全然知っている人はいないのに、彼がブログでなんかこんな変なやつがいるぞと紹介してくれたので、ありがたい感じで。メールをベースにやりとりして、この曲はいいねとかmp3を一日かけて送り合ったりとか、当時は今みたいに5分くらいでは落とせなかったので、ゆっくり時間をかけてデータをやりとりしたりっていうところからスタートですね。
――それまでも自発的に音源を発表されていたわけですが、それとどのような違いがあったのですか?
tofubeats: インターネットで自分の曲をアップするって、今だとsoundcloudとかbandcampとか、そういうツールがあって、ジャケットをつけて作品として配信するということが行われています。けれども、当時ってまだ今みたいに画像と音を紐付けてアップするシステムがあんまりなくて。mp3も長い曲を今みたいに高いビットレートで配信することができなかったので、Maltine Recordsみたいにジャケットをつけて何曲かのものをまとまった感じで配信していました。ネット上でアルバムみたいな体裁をとるみたいなことがそもそも新鮮で、だから一つの作品をつくるっていうことをネット上でやるということがまだ当時真新しかったんですよね。
――体裁を整えるというほかに、自分が作ったものを他人の手に委ねるという部分もあったと思うのですが。
tofubeats: そうですね。つまり第三者からのオファーで音源を作るということですよね。Maltine Recordsをやっているtomadさんは音楽をほぼ作れない人なのですが、そんな彼がインターネットで見つけた音楽を作っている人に「お金も何にも払わないけど5曲作ってくれ」と言うわけです。そしたらデザイナーとかと繋げてあげるからみたいな。そして音源が出て嬉しい、みたいな感じでした。今考えたらおかしな話なんですけど、当時は刺激的だったわけで。というのが2008年ぐらいのMaltine Recordsですかね。
――実際にMaltine Recordsでリリースが行われた後で、影響はあったんですか?
tofubeats: 特にはなかったですね。Maltine Recordsのリリースに関してはそっちのファンが増えていったって感じで。仕事に関してはまた別の名義でした。グレーゾーンな音源、勝手にリミックスしたものだったりを当時YouTubeとかにアップしていて。YouTubeもまだ今ほど厳しい時代ではなかったので、そういうのをアップして、本人が検索したら自分の曲のリミックスが出てきて「なんだこいつ」みたいな。そういうところから話がくるようになって、そこからある大手メジャーレーベルの育成部門から声が掛かって、仕事するようになったのが2008、9年くらいって感じですかね。
――そのYouTubeなどで発表したものが、仕事に繋がっていったという一方で、Maltine Recordsに所属するということは実際になにか変化を及ぼしたりしたのですか?
tofubeats: Maltineでやりだした時は、ちょうど今の(履修している学生の)皆さんくらいの時で、普通の大学に行っていたので、同世代で音楽をやっている人たちっていうのがいなくて。打ち込みの音楽をやっている友達、知人、それと繋がっているということだけで大きな価値がありました。自分の同世代の人が作った音楽が聴ける、そういう人たちに対して自分の作品を聴いてもらえるっていう、そのメリットが何よりもあったっていうことですかね。
――特にtofubeatsさんとtomadさんの関係などは非常に深い影響関係を感じます。以前のバンドを中心とした音楽文化の場合、友達とバンドを作ってそれが続いていくというように、もちろん音楽的にも影響し合うけれども、ある程度は人間関係の中で音楽の方向性が決まっていくような面もありますよね。そういった人間関係の代わりになっているということでしょうか?
tofubeats: まあ、インターネット版の『まんが道』みたいなことなんですよね。トキワ荘みたいな感じです。だから、全国各地でそれぞれがんばっています。Maltine Recordsというものに対して帰属意識みたいなものがみんなありますね。所属というのは実はなくてMaltine Recordsはリリース経験があって自分が所属していると言えば所属なんですよ。だから一回リリースした限りでもう関わりのない人もいるし、逆に帰属意識のある人は集まっていって互いに影響を与え合っていく。そして、ますます関係を深めていっているって感じですかね。まだ初音ミクが出ていなくて前のカイトとかがで出ていた時は、今よりも打ち込みで音楽をやっている若者が本当に少なかったですね。そういうクラブミュージックをやっている同世代と連絡が取れるっていう貴重さは何にも代え難い喜びがありましたね。
――そこから現在のメジャーレーベルとの契約というところまでステップがあるわけですが、そのネットレーベルでの活動とメジャーでの活動というのは、単に発信の形態の違いというよりは、どちらかと言うと身の置き場とか音楽を捉える時のスタンスに関わっているということでしょうか。
tofubeats: そうですね。あとはお金の出る、出ないとか、サンプリングできる、できないとか、お金をかけられる、かけられないとか。そういう話であって、結構やりたいこととか作風に関してすごく区別しているとか、実は全然意識してなくて。だから作るものとしてそこまで大きい差はない感じですかね。
――今ネットレーベルというのが何で大きな存在になっているのかと考えた時に、レコード産業の売り上げが落ちてきているということが一般に言われています。極端に言えば、メジャーデビューというのが以前は非常に大きな目標だったわけですよね。けれども今はインターネットがその代わりにあるし、売り上げ面でもそこまで期待できないから、必ずしもそれが一番の目標になっていないという面もある。その中でネットレーベルというのが、きちんと自分の伝えたい人達に発信していくための手段として受け継がれているという面もあると思うんですよ。
結果的にtofubeatsさんはメジャーデビューをされているわけですが、その目標の位置づけとして、例えばtofubeatsさんが影響を受けているようなJ-POPの黄金期のミュージシャンとは多少考え方が違う部分もあると思うんですよね。そのあたりは意識されましたか?
tofubeats: メジャーデビューについてってことですか?
――つまり、あらかじめ目標になっているわけではなかったのではないかと思うのですけれども。
tofubeats: でも実は、早い時点でメジャーデビューしたいみたいなのはありまして。例えば、Maltine Recordsを続けることによってEXILEファンにこの曲の良さを伝えることができるのかと。「Choo Choo TRAIN」を聴いている女子高生が「Maltineって良いよね」というのは、インターネットでやっている以上は不可能だなっていう風に思ったんですよね。
ネットレーベルって最近むやみやたらに賞賛されがちですが、いい点と悪い点が物事にはありまして、それは試してみないと分からないっていうところが一番大きいところですね。だったら飛び込んでみて、それで初めて見えるものもあるだろうと。ただメジャーデビューすると及ぼす影響ってやっぱり大きくて、そういう意味では差があると思います。
あと、昔と今でも大きく変わらないところで、メジャーデビューの一つの利点は「免許がおりる」というということなんですよね。例えば僕だったら家を借りる時に大家さんに「ミュージシャンです」って言えるか言えないかというところなんですよ。今は言えますけど。
――では以前はどのように説明されたんですか?
tofubeats: 10月にデビューする予定ですと言いました(笑)。で、大家さん疑いますよね? それで僕入らなくていい家賃保証会社とかに入らされて(笑)。急に払えなくなるかもしれないから。払わなかったことは一回もないんですよ。でも、そういう感じでやっぱ世の中の見られ方って、意外とそういう肩書きで見られるっていうのはある。だから、就職とか会社とか大学でもそうですけど、意外と世の中のそういう部分があるのは肌身で感じていまして、やっぱりここまでやっていたんだったら一回メジャーデビューしたいなっていうのはすごくありました。実際してみて、プロとしての肩書きがついたっていうだけで変わったということはいっぱいあるという風に思いますね。
――一般的にネットレーベルは、メジャーによって培われた文化を引き継ぐようなものだとも考えられるところもありますが、今後どうなっていくと思われますか?
tofubeats: メジャーのやり方でやった後に、それを引き継いでみているというのが正しいですね。全曲視聴可能にしたり、自分たちが培ってきたことは最終的に間違いではないと思っているので。オルタナティブではなく均衡点。ネットレーベルの人間がメジャーレーベルに行くという意味では、しっかり明確にできたら良いと思っています。僕以外のネットレーベルの人も声がかかるようになってきているので、メジャーとの関係を見守っていきたいです。
――なるほど。今回のお話で、ネットレーベルとメジャーレーベルというものを単に対立で見るわけではなくて、その合間のところでいろんな要素を見ていらっしゃるんだということが分かりました。
tofubeats公式webサイト
tofubeats公式YouTube
インタビュー:谷口文和
構成:佐藤南見
写真:中井殊音、村田茉以
→ その2: シビアな場、SoundCloudでの自分の見せ方