京都精華大学ポピュラーカルチャー学部

ファション

音楽

2015・2・13成果公表,授業紹介,読みもの

音楽学科

J-POPの曲作りはクラブ・ミュージックの10倍しんどい! ―― tofubeatsさんインタビュー(3)

 音楽コース1回生の必修科目「基礎実習5Z」(担当:谷口文和、秋吉康晴、長門洋平)では、音楽や文化について情報発信するために必要なスキルや考え方を学びます。資料調査や取材のやり方、記事の書き方などを練習した上で、チームに分かれてフリーペーパーやウェブサイトの制作に取り組みました。
 この実習では2014年10月15日にミュージシャンのtofubeatsさんをゲスト講師に迎え、インタビュー形式でお話を伺いました。2時間以上に及んだインタビュー録音を素材として、学生一人ひとりが各自の関心にもとづいて発言を編集し、画像やリンクも含むブログ記事を作成しました。
 提出された記事から、テーマの異なる4本を選んで掲載します。話し言葉をウェブの読み物へと作り変える工夫にも注目して読み比べてみてください。

その1: ネットレーベルとメジャーレーベル
その2: シビアな場、SoundCloudでの自分の見せ方
その3: J-POPの曲作りはクラブ・ミュージックの10倍しんどい!
その4: 一瞬を引き延ばし全体へ繋げる 時間から見た作詞術


J-POPの曲作りはクラブ・ミュージックの10倍しんどい! 〜tofubeatsのJ-POPへの挑戦〜

tofubeats 2013年春に大学を卒業したばかりの若き音楽プロデューサー、tofubeatsさん。歌手やDJなど若くして幅広く活躍されている彼にインタビューをしました。クラブ・ミュージックから始まった彼が作り出すJ-POPとはどんなものなのか?? その魅力に迫ります!

「ディスコの神様」はJ-POPのソングライティングを勉強して実践するのが1つのテーマだった

――個々の曲についてお伺いします。「ディスコの神様」はポップスの王道の作り方だったと思うのですが、意識的に勉強されたのですか?

tofubeats: そうですね。やっぱりメジャーでやるにあったっては、CDが売れなければ結構マジな話クビになってしまいます。自分がJ-POPも実際に好きだけど、作れなかったんですよね。だからメジャーデビューが勉強するいいキッカケになりました。
 今回「ディスコの神様」は出音とか、ミックスダウンとかも込みですごいJ-POPをつくろうと思いました。「ディスコの神様」は本当にJ-POPのソングライティングを勉強して実践するっていうのが一つのテーマでした。ミックスのバランスとかもこの曲だけ過剰にJ-POPなんですよね。声すごい大きいし。この「ディスコの神様」という曲に関してはそういうところとかはすごい意識しましたね。

――それまでに人気のあった歌ものの曲「水星」と比べても、根本から明らかに作りが違いますよね。

tofubeats: 「ディスコの神様」にはプログレッションがあります。転調もあってコード進行がちゃんとしてるんですよね。

――そういう風に曲を作った動機付けというのは、単に表現欲というよりは、ある種の必要性を感じたということですか?

tofubeats: そうですね。「Don’t Stop The Music」を作って、ちゃんとプログレッションするものを作ろう、進行があるものを作ろうっていうのが、セカンドシングル(「ディスコの神様」)を作る時にもありました。
 藤井隆さんとやろうと初めに思った時は、本当はしみったれた曲をやろうと思ったんですよ。藤井さんがそういうのが好きで。吉本興業に菓子折りもって挨拶行って藤井さんとお会いして、一緒に曲やらしてくださいって言った時に、あまりの天真爛漫、って言ったら失礼かな、こう明るい感じに、この人に明るい曲を渡さなきゃ駄目だと思いました。
 そこからJ-POPにしようって決めて、プログレッションとかもしっかりある曲を作っていったって感じですね。しかも、この曲に関してはオケが結構最初にできて、歌詞を作るのに1ヶ月ぐらいかかりました。

J-POPの曲作りは勉強してできるようになった

――そういう曲がある種の決定打になったと思うのですが、それがうまく行って、今後そういう風にシフトしていくことも考えられているのですか?

tofubeats: まあ、そういう曲もあるだろうなと。例えば今回のアルバムだったら新井ひとみさんの曲(「Come On Honey!」)とかもそうだし、J-POPの仕事はJ-POPの仕事で受けれるようにっていう感じですね。Maltine Recordsの頃はサンプリングでしか曲を作れなかったけど、デビューする直前ぐらいからリミックスの仕事でサンプリングしないでも曲が作れるようになりました、デビューして今度はJ-POPが書けるようになりました、みたいな感じで自分の成長譚みたいなところも普通にあって。そこら辺は(履修している学生の)皆さんと一緒で、パラパラとかも勉強してできるようになりました。そこは全然普通の人と変わらなくて、練習して上手くなるみたいな感じですね。
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――ビートにしても流行り廃りがありますけど、今きてるビートなんかを取り入れたいと思った時の勉強は、感覚的に違うのですか?

tofubeats: いや、それと結構一緒だと思いますね。ただJ-POPに関しては参照するものが多いので勉強しやすいですよね。

――勉強というのは具体的にどうやるんですか?

tofubeats: チュートリアルを見る、本を買ってみるとかですね。結構ちゃんと普通に。プログレッションに関しては普通に本を買いましたね。

――じゃあ、教科書に書いてあるようなコード進行を実際に鳴らしてみたり。

tofubeats: 鳴らしてみたり、自分の曲のハーモナイズをしてみたりとか、結構ベタなことです。ビートの勉強はマネしてみるか、楽譜に書くのが一番いいですけど。

――楽譜に書くということは、グルーヴというよりはパターンとして捉えるということですか?

tofubeats: そうですね、パターンを捉えてからグルーヴを後で。ピアノロールとかに、まずピッタリのグリッドで打ち込んでみると、同じにならない。なんで同じにならないのかを後から調べていくっていうことですね。どこがどうズレているのかとか。リズムに関しては多分人よりもやっている自信があって、特にハイハットとかはすごい研究しているので、そこら辺とかはしっかりやっていますね。

――感覚的に、例えばパッドを叩いて鳴らすような人もいると思うのですが、それよりは割と構造から入るということなのですね。

tofubeats: パッドを適当に鳴らしてみた後に、そこをどう直していくかということが一番大事なんですよね。最初はもちろん感覚的に作るんですけど。たとえるなら曲作りをするというのは、積み木ではなく、木から仏像みたいなのを切り出していく、熊を掘るみたいな方に近いですね。まず全体像をざっくり作ってから、ディテールを詰めていくっていう方が近いと思ってて。Aメロ→Bメロ→サビという流れとかをざっくり作った後に、例えば細かいフィルだったりとか、コード進行のちょっとした変更だったりとか、最後の転調足してみるとか、リズムパターンを変えてみる、ドラムを差し替える、ベースを生にしてみる、ハードのシンセにしてみるとか。そういうところが結構大事なんじゃないかなって僕は思ってますね。

――もともとリミックスワークでかなり活躍されていたのがJ-POPに向かう最初の展開でしたが、その頃はまず素材があるわけですよね。それ自体がすでに完成品としてあるような。そういう頃の感覚とはまた違うのですか。

tofubeats: そこから制作の手法を学んでいったっていうのも多いかもしれないですね。もともと完成されたJ-POPのデータがパラで届いて、そこから声だけ抜き出して、いかに自分の曲っぽくするかっていう。原曲を尊重しつつ、どういう風にするかみたいなところがあったので。リミックスとかは結構そういうのがありますよね。

――その辺りは根本的に同じ風に捉えられているのかもしれないですけれども、実際メジャーデビュー前はリミックスワークが非常にたくさんあって。

tofubeats: そうですね、大学時代はリミックスで飯を食べていたと言っても過言ではないくらい。

J-POPの曲を作るのはクラブミュージックの10倍しんどい!

――リミックスだけのアルバムももう作られているくらいですからね。でも今ではもう明らかに、「曲を書ける人」として今後評価されてくるだろうなと思います。そうすると曲を提供するとかいうような話もあり得ると思うのですが、そういうことへの関心はどれくらいあるのですか。

tofubeats: 実際あります。曲も書いています。J-POPを作るのはクラブミュージックを作る10倍くらいしんどいんですよね。カロリーのいる作業ですね、ポップスを書くということは。やっぱり間口を広げるということは、本当に難しいことで。100人に受けるものを作るのと違う、1000人に受けるものを作る難しさというのは本当にあると思います。これはメジャーに入って初めて分かったことですけど。
 あとはタイミングとかもあって。それは何かというと、メジャーレーベルの宣伝の都合とかがあるんです。例えば締め切り。「完パケ」と言いますが、僕が音源を完成させて、そこからその音源がリリースされるまで、メジャーだとだいたい1ヶ月半ぐらい見とくんですけども、その期間が短いと、レコード会社とかが営業する期間が短くなるわけです。そうなるとCD屋とかの発注する数が減るわけですよね。展開も小さくなる。そんなことで売り上げって変わってしまうんですよね。あとはちょっとした、テレビに出る出ないとかいうこともそうですけど。
 でも、間口を広げるにはすべてが噛み合わないといけないっていうことがあって。そういう意味では、まず曲単体として間口を広げる難しさがあって、それに加えてそれをいかに売るかみたいなところの難しさっていうのが乗っかってくると。しかもそれは僕自身で制御できないっていう。そういう難しさが本当にメジャーに行ってひしひしと日々一番感じることですかね。
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 tofubeatsさんのJ-POP曲について様々なお話を聞く事ができました。クラブ・ミュージックから始めた彼だからこそ作り出せるJ-POPはとても魅力的です。メジャーデビューしてからの様々な苦労、経験はtofubeatsさんが成長する良いきっかけになったようです。私たちが成長する上でもとても貴重な話が聞けたと思います。これからもtofubeatsさんが作り出す曲が楽しみですね。

インタビュー:谷口文和
構成:正廣奈桜
写真:中井殊音、村田茉以

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