京都精華大学ポピュラーカルチャー学部

ファション

音楽

2015・2・10成果公表,授業紹介,読みもの

音楽学科

シビアな場、SoundCloudでの自分の見せ方 ―― tofubeatsさんインタビュー(2)

 音楽コース1回生の必修科目「基礎実習5Z」(担当:谷口文和、秋吉康晴、長門洋平)では、音楽や文化について情報発信するために必要なスキルや考え方を学びます。資料調査や取材のやり方、記事の書き方などを練習した上で、チームに分かれてフリーペーパーやウェブサイトの制作に取り組みました。
 この実習では2014年10月15日にミュージシャンのtofubeatsさんをゲスト講師に迎え、インタビュー形式でお話を伺いました。2時間以上に及んだインタビュー録音を素材として、学生一人ひとりが各自の関心にもとづいて発言を編集し、画像やリンクも含むブログ記事を作成しました。
 提出された記事から、テーマの異なる4本を選んで掲載します。話し言葉をウェブの読み物へと作り変える工夫にも注目して読み比べてみてください。

その1: ネットレーベルとメジャーレーベル
その2: シビアな場、SoundCloudでの自分の見せ方
その3: J-POPの曲作りはクラブ・ミュージックの10倍しんどい!
その4: 一瞬を引き延ばし全体へ繋げる 時間から見た作詞術


シビアな場、SoundCloudでの自分の見せ方

 1990年生まれ。24歳という若さで数々の作品を世に送り出し、業界から注目を集めるtufubeats。そんな彼が、2014年10月2日にメジャーレーベルのワーナーミュージックから最初のアルバムをリリースした。これまでも作品を発表してきた彼が、メジャー初のアルバムに付けたタイトルは『First Album』。これまでの作品よりもJ-POP色の強いアルバムだ。
 tofubeatsはこれまで、Maltine Recordsというネットレーベルで音源を発表してきた。また、最近ではSoundCloudbandcampなどに代表される様々な楽曲配信サイトが登場していて、tofubeatsもそれらを利用しているアーティストの一人だ。

 「今はSoundCloudなんて毎秒何時間という音楽がアップロードされていて、その中から自分の音源にリーチしてもらうのは並大抵の努力じゃ無理。その中でどういう風に戦っていくかが大事。」
 そんなtofubeatsが音楽配信サイトで勝ち抜く秘訣を教えてくれた。
 

 アルバム『First Album』について

――メジャーデビューしてから初めてリリースされる『First Album』というアルバムについて教えてください。

tofubeats: メジャーでやるということは、CDが売れなければクビになってしまうということです。J-POPは好きだったんですけど、これまでは作れませんでした。だから、メジャーデビューがJ-POPを作れるように勉強するいいキッカケになりました。「ディスコの神様」という曲は、一曲だけミックスのバランスとかも過剰にJ-POPです。この曲は、出音やミックスダウンも込みで、J-POPのソングライティングを勉強して実践するのが一つのテーマでした。なので、声もすごくでかいです。

――そういう風に曲を作った動機付けというのは、単に表現欲というよりは、ある種の必要性を感じたと言うことですか?

tofubeats: そうです。J-POPの仕事を受けられるように勉強したという感じです。Maltine Recordsの頃はサンプリングでしか曲を作れなかったんですけど、デビューする直前ぐらいからリミックスの仕事で、サンプリングしなくても曲が作れるようになりました。そして、デビューしてからは、J-POPが書けるようになりました。J-POPは勉強してできるようになりました。そこは全然普通の人と変わらなくて、練習して上手くなるみたいな感じです。

――これまで、サンプリングという手法で80年代の音を取ってきたりとかされていますけど、サウンドをそのまま流用している感じがあまりしません。過去のサウンドを再現するということや、そこに意味をもたせるということには、あまり固執していないのでしょうか。

tofubeats: そもそも、サンプリングをして曲を作るという行為自体が、2014年の今しかできない行為だと思っています。過去を参照しつつも、自分が出すものはあくまで今年に出るものなので、今年に出るものは今年の音にしないといけないと思っています。そして、新譜を作っているという気負いはすごくあります。
 もうちょっとして、YouTubeが有料の音楽サービスを始めたら、お金を払うのが面倒くさくなって、若い子がYouTubeを見なくなると思います。YouTubeを見なくなれば、新しい過去の参照の仕方ができたり、逆にレコードから参照する人が増えるのではないかと思っています。

――今だからやれるということは、他の周りにいるミュージシャンや海外のアーティストとシンクロしていると感じる部分もあるんですか。

tofubeats: 海外のアーティストもそうだと思います。SoundCloudに上げるために音楽を作っていること自体が、インターネット的だと思います。
 僕は、日本でCDを売るために音楽を作っているから、こういう内容になりますけど、SoundCloudにあげてアクセスをいっぱい稼ぐために音楽を作ってくださいと言われたら、また作るものも変わってくると思います。

――どのようにSoundCloudとパッケージで出す作品などを分けているのでしょうか。

tofubeats: 今のところは、仕事があんまりない時とかにぱーっと作って、SoundCloudに合いそうだなって思ったものをアップロードしたりしています。本当はだめなんですけどね。

いっぱいあるゴミみたいな曲の中から聴かれるために、アートワークをきっちりしないといけない

tofubeats2tofubeats: SoundCloudでは、左側にジャケットが出て、波形が出ますよね。その中でアクセス数を稼ぐためには、いっぱいあるゴミみたいな曲の中から聴かれるために、アートワークをきっちりしなきゃいけないんです。一曲だけのためにアートワークを描くなど、従来とは違った視点がいりますよね。
 今は、iPhoneとかで音楽を聴く人も多いと思います。なので、ジャケットがiPhoneで見て、ベストなデザインに変わってこなきゃ本当はいけないと思っているんです。具体的には、SoundCloudはスキン(外観)がオレンジなんですよ。だったら「オレンジのページで目立つジャケットの色ってなんだ?」ってなってくる訳です。

――確かに言われてみれば、ちょっとどぎつい目の色調を使うケースが多い気がします。

tofubeats: 最近は、曲によって、背景は違うけど、自分のロゴが大きく入っているジャケットが多いですよね。自分の物に「タグ付け」をするということは、本当に大事で、ネットで音楽をやっていく上で、絶対にやらなくてはいけないことだと思っています。
 これからは、紙の方が二次的になるのではないかと思っています。日本の音楽業界はそういうところも含めて、過渡期なんだと思います。実際に日本は遅れていますし、CDがこんなに出ているのはもう日本だけです。海外のミュージシャンとかを見ていると、シンクロしているというよりかは、もう先にいってしまってる感じがします。

2013年 国別音楽売上げトップ10引用:「世界の音楽売上を数値で分析。日本は二桁減少、世界はデジタル音楽が主軸に移行 All Digital Music」より

――tofubeatsさんはメジャーデビューすることを選択する過程で、どういうメリット、デメリットがあるかということもかなり意識されたと思います。SoundCloudも作った曲を単純に上げればいいというものではないですよね?

tofubeats: ある程度の戦略は必要になると思います。
 逆に言うと、SoundCloudには、J-POPってあまり上がってないんですよね。だからこそ、そういうことをやった1stアルバムのフル視聴を行うなど、J-POPというタグを自分の曲に付けています。
 しかし、Bandcampだとクラブミュージックより生音系(バンド)の方が多かったりするので、そういう特性を見極めた上でどこに何を置くかを見極めることは重要だと思います。

良い曲かどうかってものの半分は今やタイミング

tofubeats: インターネットはCD発売よりも、タイミングが重要になってきます。Maltine Recordsのヘッドのtomadは、「良い曲かどうかってものの半分は今やタイミングだ」とよく言っています。良い曲を作ることは前提にあるのですけど、それをいつ出すかが良い曲を作ることと同じくらい大事になってきています。
tofubeats 例えば、Disclosureとかが出てきた時に、それより前にツーステップをやっていた人と、それより後にツーステップをやった人では、結果が全然違ってきます。SoundCloudやbandcampによっていつでも曲を出すことができるようになりましたが、前後の流れや大きいコンテクストが読めないと、ネットでは、長くやっていけないと思います。
 僕らがMaltine Recordsを始めた頃は、ネットレーベルも日本にちゃんとやっているとこは4つ5つくらいしかなくて、YouTubeにブートレグ(海賊版)があがってもすぐ見つかるようないい時代でした。今はSoundCloudなんて、毎秒何時間という音楽がアップロードされていて、その中から自分の音源にリーチしてもらうっていうのは並大抵の努力じゃ無理。その中でどういう風に戦っていくかがすごく大事ですね。
 僕の場合は、J-POPをやったことがSoundCloudにフィードバックされていくのかなという気はしています。最近は、実際に海外で、外国人にJ-POP的なものを説明する機会に恵まれているので、海外の人とJ-POP的なことをやってみるとか、そういうのはあるかもしれないですね。

――SoundCloudは、今、一番ホットなんですけど、同時に一番シビアな場になっていると思います。普通にアップしても、99%はなんにもならないと思います。tofubeatsさんは、メジャーデビューという結果だけを取り出してみれば成功した人という風に思われるかもしれませんが、そう簡単に成功したわけではないですよね。

tofubeats: まあ7年くらいかかってますからね。高校1年生の頃からtofubeats.comを自分で管理しているんですが、当時は大きい容量のmp3をおけるサーバーでフリーのものがありませんでした。SoundCloudみたいに音楽が5分間フルでアップロードできるサーバーなんて昔はなかったんです。自分でサーバーを借りるしかなくて仕方なく、サイトを作ったりしていました。Maltine Recordsもtomad社長がバイトをして、そのバイト代でサーバーを借りて、フリーで音源を配っていました。なので、利益がないっていう、すごいレーベルなんですよね。
 SoundCloudは今、メジャーレーベルと契約条件で揉めています。今あるサービスも、2、3年後にはどれが残ってるかなんて分かりません。そういうのも込みで、泳いでいってもらいたいです。

――そういう難しい局面があるからこそ、それを丹念に読んでいって、自分の立ち位置を探していくことの面白さも今日は伺えたのではないかと思います。

インタビュー:谷口文和
構成:吉田悠馬
写真:中井殊音、村田茉以

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