京都精華大学ポピュラーカルチャー学部

ファション

音楽

2015・2・16成果公表,授業紹介,読みもの

音楽学科

一瞬を引き延ばし全体へ繋げる 時間から見た作詞術 ―― tofubeatsさんインタビュー(4)

 音楽コース1回生の必修科目「基礎実習5Z」担当:谷口文和、秋吉康晴、長門洋平)では、音楽や文化について情報発信するために必要なスキルや考え方を学びます。資料調査や取材のやり方、記事の書き方などを練習した上で、チームに分かれてフリーペーパーやウェブサイトの制作に取り組みました。
 この実習では2014年10月15日にミュージシャンのtofubeatsさんをゲスト講師に迎え、インタビュー形式でお話を伺いました。2時間以上に及んだインタビュー録音を素材として、学生一人ひとりが各自の関心にもとづいて発言を編集し、画像やリンクも含むブログ記事を作成しました。
 提出された記事から、テーマの異なる4本を選んで掲載します。話し言葉をウェブの読み物へと作り変える工夫にも注目して読み比べてみてください。

その1: ネットレーベルとメジャーレーベル
その2: シビアな場、SoundCloudでの自分の見せ方
その3: J-POPの曲作りはクラブ・ミュージックの10倍しんどい!
その4: 一瞬を引き延ばし全体へ繋げる 時間から見た作詞術


一瞬を引き延ばし全体へ繋げる 時間から見た作詞術

lSKe03zDTW_ytlX1415713631_1415714138 1990年生まれの24歳、神戸で活動を続けるトラックメイカー/DJ。学生時代からインターネットで活動を行い、 ジャンルを問わずリミックスを手掛ける。ソングライターとしてもアイドルを始めとする様々なアーティストに楽曲を提供。ソロのアーティストとして2012年「水星 feat.オノマトペ大臣」で大ブレイク。翌2013年にアルバム『Lost Decade』を発表。同年、「Don’t Stop The Music feat. 森高千里」でWARNER MUSIC JAPAN内レーベルunBORDEからメジャー・デビュー。昨年メジャー1stフルアルバム『First Album』をリリース。

tofubeats.com / itunes / bandcamp / twitter

 現在、J-POPシーンにおいてもはや最も見逃す事のできない新進気鋭の若手クリエイターの旗手となったtofubeats。そんな快進撃を続けるtofubeatsの独自の言葉のチョイスや詞の世界観に注目し、知られざる作詞の発想法を取り上げたい。

何かを言っているようで本当はあんまり何も言っていない方が曲としては受け皿になる

――今回は歌詞についてお伺いしたいと思います。1980年代の歌謡曲に影響を受けたということは明確にこれまでのインタビュー等でも示されていますが、一昔前に流行した音楽を想像できるような歌詞になっていますよね。そういうことをテーマとして設定するこだわりがあるんですか?

tofubeats: 歌詞に関してはすごく意識して書いているというわけではないんですけど、音楽以外のことについて触れたくないという基本姿勢はあります。何かを言っているようで本当はあんまり何も言っていない方が曲としては受け皿になると思うんです。
 Seihosugar’s campaign)という知人がいまして、彼の「I Feel Rave」という曲があるんですが、彼のその曲はセックスをテーマに作ったんですよ。でも展開が増え過ぎてしまってまとまりがなくなった。どうすればスッキリするか考えていたら、「キスする前の一瞬の0.5秒ぐらいを5分の曲にしよう」と思いついて作ったら曲になったみたいで。その話がすごい好きなんですよ。でもJ−POPっていうのはそういうことですよね。
 今回のアルバムの「衣替え」でも、衣替えをしようと思う瞬間は一瞬で、それを引き延ばすことによっていろんな解釈が生まれてくる。衣替えの曲とも恋愛の曲とも読み取れるみたいな。歌詞に関してはそういう姿勢がありますね。だから逆に言うと、0.5秒くらいを切り取ることによって大きな思想が生まれないし、それがいろんな人の何かの受け皿になる感じはします。「ディスコの神様」も何か言っているようで何も言ってないし、どこにも行ってない。それがJ−POPではないかと思います。

一瞬の気持ちが音楽全体に繋がっていくのが作詞の面白さですね

――tofubeatsさんの過去の描き方は乾いてる感じがするんですよね。ノスタルジーとか思い入れの対象としての過去というよりは、ちょっと距離を置いた見方がある。例えば「オートリバース」という言葉が入っているとか。「ディスコの神様」の良いところで出てきますけど、あと「ALL I WANNA DO」という曲にも。

tofubeats: インディーズの方のアルバム『Lost Decade』の曲ですね。

――今tofubeatsさんの曲をよく聴いてる世代は「オートリバース」って言われても何か分からないと思うんです。

tofubeats: 僕の世代でもたぶん分からないですよ。

 ──その意味で、過去へのノスタルジーを言葉にしているのではなくて、自分の中でもリアリティのないことを言葉として選んでいるなという感じがしたんですよ。ちなみに何で「オートリバース」なんですか?

 tofubeats: 単純にギミック(仕掛け)だったりするんですけどね。「ディスコの神様」を作るにあたって、「デスク」っていう言葉が出てくるんですけど、「デスク」っていう言葉は角松敏生の曲にすごいよく出てくるワードで。あとは「オフィス」とか。その単語で過去を参照してます。「オートリバース」もそういうことで、日本の昔の音楽が好きだというのが好きな人には分かるようにできているんですよね。だから、どちらかというと言葉遊び的な部分が大きい。「オートリバース」って言うことによって、今の人にカセットテープを知ってもらいたいっていう気持ちもありますね。そういう意味で「ディスコの神様」のシングル盤にカセットテープを付けたりしましたし。

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 ──「Don’t Stop The Music」の歌詞に「円盤やテープから流れ出した誰かのメロディを聴いている」という詞がありますよね。そこが次のコーラスでは「パソコンの中から溢れ出した」となっている。そのように今あるリアリティと過去を対峙させる。でもそれ自体にさほど深い意味はないというか、すごく淡白になっている。

tofubeats: それを森高さんが歌って「いくつになっても変わらない」っていうね。さっき言ったように、一瞬を見ることで全体に到達したいという欲がずっとあります。
 実は「Don’t Stop The Music」は本当に締め切りギリギリまで作れなかった曲なんですよ。もうこれ以上遅れたら森高さんのレコーディングのスケジュール変えないといけないし、締め切りの日の12時を過ぎても曲ができないとメジャーのファーストシングルにしてレコーディングがバラしになるという地獄みたいな状況になっていたんです。その時に「このままでは契約が止まってしまう……。止まって……止ま……あ!」って「Don’t Stop The Music」ができたんです(笑)。

――(笑)。

tofubeats: そういう一瞬の気持ちが音楽全体に繋がっていくのが作詞の面白さですね。自分が「あ!」と思う感覚を引き延ばしていくからこそ、いろんな人がどう解釈してもいいし自分がどう思われてもいい。あんまり思い入れがあることを歌詞にしてしまうと、違う解釈をされた時辛いんですよ。
 それで言うと、「朝が来るまで終わる事のないダンスを」は思い入れのあるメッセージソングとして作ったんです。でも実際は風営法の運動に使われてしまったりして、すごく不本意だったという経験をして、そこで勉強しましたね。そういうのはもうやめようと思いました。J-POPを本格的に作り始めたのもそれが大きいかもしれないです。これからは自分の手を離れてもいい音楽を作っていきたいですね。

インタビュー:谷口文和
構成:堀江元気
写真:中井殊音、村田茉以

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