京都精華大学ポピュラーカルチャー学部

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2015・2・21授業紹介

ファッション学科

みんなの「素敵」を形にする ―― ファッションコース実務研修(2)

 ファッションコースの「制作実務研修4」(担当:西谷真理子)は、大学卒業後に目指すべき仕事について理解し、将来の設計図を描くことを目的とする集中講義科目です。今年は2月4日から10日まで5日間かけて行われ、ファッションやその関連業界で活躍するプロを連日ゲストに招いて授業を受け、ワークショップを行いました。受講生の米田真理子さんによる各回のレポートを掲載します。

その1: 人とモノとをつなぐ場の作り方
     井辻康明さん(ジェイアール京都伊勢丹バイヤー、ヤング担当)
その2: みんなの「素敵」を形にする
     加藤智啓さん(ブランディングディレクター、EDING:POST主宰)
その3: 伝え方一つとってもブランディング
     植原亮輔さん(グラフィックデザイナー、AD、KIGI主宰)
その4: 「動き」を客観的に読む
     青野賢一さん(ビームス創造研究所/ビームスレコード各ディレクター)


 3日目は、EDING:POST代表でクリエイティブディレクター、デザイナーをされている加藤智啓さんから「相手のためにデザインをするという態度」について学びました。学生時代は文化服装学院アパレルデザイン科に所属していた加藤さんですが、現在は服飾の分野に限らず、「世の中を前向きに変えるため」にコンセプト立案・ブランド戦略立案などの根本的局面から携わり、業界・業種・個人・企業の垣根を越え、デザイン活動をされています。

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 1コマ目は、加藤さんの設立したブランドの由来や、このような仕事にたどり着くまでの道のり、今までに手がけてきた仕事についての説明を受けました。「EDING:POST」という名前は、英語の過去形に付く“-ed”と現在進行形に付く“-ing”、「すなわち」の意味を持つ“:”、「未来」の意味を持つ“post”からできています。つまり、服(モノ)を作る前・売る前、売られている今の服、服を手に入れてから後・使用した後のことまでを含めたデザインをするという思いが込められているそうです。また、“:”にはデジタル時計の時間と分の間にある“:”の意味も込められているとのことで、ロゴ全体を時間に見立てているさまが面白いなと思いました。

 2コマ目からは二人一組でペアになり、「もし自分が自伝を出すことになったら/人の自伝を装丁するという依頼を受けたら」という設定でワークショップを行いました。真っ白な紙で綴られた本の最後のページに、自分が最終的にはどうなりたいのかを書き込みました。それをもとにお互いにヒアリングをし、相手にその本のブックカバーを作成してもらいました。
kato2 まずお手本に加藤さんがヒアリングする様子を見せていただいたのですが、まるでカウンセリングのように相手の話を上手く整理し、さらにその先へ導いているという感じでした。そして、いざ自分が相手のヒアリングをする番になると、思っていた以上に相手の話を引き出せない、整理出来ない、その先に導けないということに愕然としました。人の話を聞きながら整理していくにも訓練が必要なんだなと痛感しました。
 お互いのヒアリングを20分ずつ行った後、各自で相手の自伝のブックカバーを作る作業に取りかかりました。パソコンを使ってデザインする人、手書きでデザインする人、ミシンを使って制作する人、皆様々なアプローチで「相手のなりたいと思っている自分像」を形にしていきました。
 私は、ヒアリングをした中で相手の人が言っていた「この本で重要なのは、支えてくれる人・モノに感謝しているということ。また、自分も誰かの支えになりたいということ」というのが印象的だったため、そこを拾い上げることにしました。また、「クリーンすぎるのもゴチャゴチャしすぎるのもイヤだ。小石につまずくみたいなちょっとした衝撃のあるもの、クスッと笑えるようなものがいい」という要望がありました。なので、ブックカバーの色は読み手の心に引っかかりを覚えるようなものにしたいなと考え、サンドペーパーのような少しザラッとした手触りを連想する色味のものを選びました。また、ワンポイントには、「支え」をテーマとして手を差し伸べるイメージから「人の手」を描きました。そしてタイトルは、相手の人間性が伝わるものがいいなと思い、彼女が好きだと言っていた画家のエゴン・シーレが絵の中に描いていたような書体をまねて作りました。

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 3コマ目の途中から発表が始まりました。今回はペアごとに前に出て、相手の書いた自伝の内容、それをヒアリングしていて感じたこと・思ったこと、なぜそのデザインに落ち着いたのかについての説明を、それぞれが現物を見せながらするというものでした。また、そのようにデザインしてもらって相手はどう感じたかコメントをもらい、加藤さんからはどうすればよりよいものになったのかなどのアドバイスをいただいて、なんだかほっこりとした気持ちになる授業でした。
 私の場合は「『支え』をテーマにするなら、もう少し手を受け止めるような形で表現するとかの方法もあったかな。それか、その『支え』を小石やイスとかで表現してもおもしろいかもね。ワンポイントではなく全面に配置するとか」というアドバイスをいただきました。そしてその時になって、相手のためにデザインするということは、相手の要望に何とか応えようとすることではなく、本当に必要なのは相手の考えているその先をこちら側から提案することなのだということに、やっと気づきました。デザインをする上で実は最も大切なことを改めて気づかされた貴重な授業でした。

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