京都精華大学ポピュラーカルチャー学部

ファション

音楽

2015・3・1授業紹介

音楽学科

プロフェッショナルでありつづけるために —— 音楽コース制作実務研修

 音楽コースの「制作実務研修2」(担当:永田純)は、目指すべき仕事について理解し、将来の設計図を描くことを目的とする集中講義科目です。今年は2月4日から10日まで5日間かけて行われ、音楽やその関連業界で活躍するプロを連日ゲストに招いてお話を伺ったり、ワークショップを行って講評を受けたりしました。受講生の熊沢紗世さんによる初日と2日目のレポートを掲載します。


 集中講義1日目は、永田さんからこの授業を開講した目的についてのお話を伺いました。私が印象に残ったことは主に二つありました。
 まず、ここ数十年で社会における音楽のあり方が、大きく変わってきているということです。60年代半ば頃から「新しい」音楽が生まれてきましたが、70年代は、ミュージシャンがライブやレコードの売り上げで食べていくにはまだまだ大変な時代でした。80年代になると、音楽産業がミュージシャンをプッシュするようになり、デビューしやすくなった一方で、それによって技術的音楽的なクオリティが下がり、長続きしないミュージシャンが増えた一面もあるそうです。90年代にはいわゆる「J-POP」が生まれ、CDが大量に売れていきました。何百万枚という数字は、今ではとても考えられないです。これはレコード100年、CD30年という歴史の中で極めて特異なことだったと捉えた方がよいのかもしれません。そしてこれからの数年で、音楽は再び大きなターニングポイントを迎えます。音楽を大量生産・消費・私有する時代から、共有する時代へと移ろうとしている現在、世界的にはSpotifyというストリーミング配信のサービスも登場しています。
 次に、社会に出て自分の足で立ち、人とつながるためには、まず「自分がなにものであるか」を明確にし、その上で「自分はここにいる!」ということをわかりやすく示すことが必要になるということです。永田さんはそれを「のれん」とおっしゃっていました。自分の肩書きを付けたり、プロフィールを作ったり、長所や短所を見つめ直したりすることで、「のれん」は作られます。ちなみに永田さんは、「音楽エージェント/ プロデューサー(有限会社スタマック代表取締役)」「ミュージシャンを支援する一般社団法人(一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント)の代表理事」「京都精華大学特任教授」という、三つの「のれん」を掲げています。

numazawa1 2日目は、ドラマーの沼澤尚さんをゲストにお迎えして、お話を伺いました。沼澤さんは日本の大学を卒業した後、アメリカの音楽学校でドラムを学び始めました。卒業時には、コミュニケーション能力が高かった人に贈られる“Human Relation of the Year”を受賞しました。現在は、数々のミュージシャンのサポートドラマーとして活躍されています。
 永田さんは2000年、大貫妙子、奥田民生、鈴木慶一、宮沢和史、矢野顕子によるツアー「Beautiful Songs」を制作した際に、サポートドラマーとして参加した沼澤さんと出会いました。セットリストには「ほぼ日刊イトイ新聞」代表の糸井重里さんが作詞した詞に5人がそれぞれ曲を付けて歌うコーナーがあり、永田さんはそこで、沼澤さんが1曲毎にスネアやシンバルを使い分けていたことに驚いたそうです。
 授業のはじめに『The Sure Shot –NO ROOTS, NO GROOVE-』というDVDを観ました。これは、沼澤さんと、沼澤さんが師と仰ぐジェームス・ギャドソンさんとのドラムコラボライブと、本番までの練習の様子を収録したものです。ギャドソンさんは75歳となった今でも、様々な有名ミュージシャンのサポートドラマーとして、現役バリバリで演奏をこなしています。そんな世界的に有名なドラマーと一緒に練習し、語り、共に音楽をつくり続ける沼澤さんの姿を見て、「本当にすごい方なのだ」と実感しました。
numazawa2 2 沼澤さんのお話からは、プロフェッショナルな音楽家になるとはどういうことかを学びました。沼澤さんは音楽学校の先生に、「楽器の演奏ができるようになったからといって、音楽家にはなれない」と言われたそうです。音楽として表現し、会場全体を魅了することができるようになって初めて、「音楽家」になれると言われた、とおっしゃっていました。
 また、「プロフェッショナル」とはとても曖昧な言葉です。沼澤さん自身、いつからプロになったという感覚はないそうです。シンガーを立たせるためにサポートミュージシャンやスタッフがいる、それがプロフェッショナルな人の持つべき意識であり責任であると教えていただきました。
 私は沼澤さんのお話を聞いて、「やりたいことがあるなら適当な理由をつけてやってみればいい」という言葉が心に響きました。やっているうちにやりたいことが変わることも、それが成功しないこともあります。大切なのは、なぜ出来なかったのか考えることです。「失敗の数=経験」は当たり前のことですが、最近の私はそれを忘れて、失敗することに臆病になっていた気がします。上手くいかなかったとしても、必ず何かを見つけることは出来ると思うので、「やりたいことはやってみる」という意識を持っていきたいです。