京都精華大学ポピュラーカルチャー学部

ファション

音楽

2016・4・4授業紹介,読みもの

音楽学科

Naohiro Yakoさん講義レポート(前編)分解系レコーズの軌跡

 現在では音楽家の活動にインターネットは欠かせないものとなっています。しかし、誰でも手軽に使えるがゆえに、ただ自分の曲をネットで公開しても、ほとんど誰にも聴かれないまま埋もれてしまうことも少なくありません。そうした状況にあって注目されてきたのが、ウェブサイトのかたちで音楽を発信する「ネットレーベル」です。
 音楽に限らず、表現活動にインターネットをどう活かしていくか。この問題について考えを深めるため、音楽コースでは、ネットレーベル 分解系レコーズ(Bunkai-Kei records) を主宰する Naohiro Yako さんを迎えた特別講義「ネットレーベルとインターネットの表現活動」が開かれました。ネットレーベルの置かれた状況をめぐって議論が交わされた講義を、前後編に分けて報告します。
 前半のこの記事では、Yako さん自身によるリリースの解説を通じて、作品を発表するだけに留まらないネットレーベルのあり方について論じられた講義の模様を掲載します。

Naohiro Yakoさん講義レポート(後編)ネットレーベルは音楽活動の場所をもたらす


分解系レコーズの原点

yako1 Yakoと申します。flapper3 Inc. という会社をやっていて、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の映像を作ったり、アーティストのライブの映像を作ったりがメインの仕事です。DJとかVJとかイベントオーガナイズもしています。分解系というネットレーベルは完全に趣味で、仕事が終わった後、夜中に連絡を取り合ったりしてやっています。
 まずは「ネットレーベルとは何か」についてお話しします。ネットレーベルは基本的に固有のサイトを持っています。サイトに飛ぶとリリースが並んでいて、クリックするとジャケットが出て音源が聴けるようになっています。そして、大多数がデータを無料でダウンロードできるようになっています。3点目に、個人がDTMで制作してる電子音楽が多いです。そして4点目、多くのレーベルがクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを使用しています。
 クリエイティブ・コモンズは世界共通の著作権のライセンス機構みたいなものです。以前の日本では著作権は完全に放棄するか、もしくは完全に保護してもらうかという、二つの選択肢しかありませんでした。そこで「二次創作とかで自由に使っていいよ」とか「二次創作したものを売ってもいいよ」、もしくは「二次創作してもいいけど売らないでください」といった規定を作って間を補完しよう、というのがクリエイティブ・コモンズです。マークを入れておくと、「自由に配信していいですよ」「販売してもいいですよ」という表明になります。このライセンスをつけて配信してるレーベルが多いわけです。
Creative Commons ネットレーベルで有名なところだと Maltine Records があって、ここは結構、インターネットカルチャーというイメージが強いと思います。Maltine はクラブで聴く音楽とJ-POPの間を取りもっている音楽が多いんですけど、 分解系は音楽的には、部屋で聴くための音楽をメインに配信していこうというレーベルです。
 僕自身は音源は作らないのですが、もう一人の主宰の Go-qualia を見つけたことが、ネットレーベルをやる最初のきっかけでした。彼はニコニコ動画とかに初期から作品をアップしていて、例えば「つかさの声だけでエレクトロニカ」は、『らき☆すた』というアニメに出てくるつかさというキャラクターの声だけで曲を作っています。ビートもハイハットも全部つかさの声で、下のブツブツ言ってる音とかも全部、声を引き延ばしたりブーストをかけたりして作っています。

オリジナルの音源は当時 myspace というサイトに上げていて、それを聴いて一緒にやりましょうという話になりました。

「勝手に二次創作しない」というスタンス

 分解系を2010年に立ち上げて最初に認知度を得たのは、2011年に出した『Elect-LO-nica』という、成人向け漫画雑誌をイメージしたコンピレーション・アルバムです。サイトでちょっとしたギミックをやっていて、下にスクロールしていくと途中で曲がって、文字が出てきて上がっていきます。最近だとこういうギミックってもう普通なんですけど、当時はほぼ初めてくらいだったので、これきっかけにスクロールアクションのサイトが増えたりしました。
 それで今度は初音ミクをフューチャーしてみようという話になってリリースしたのが『Dissolve Miku Slowly In Waveform』です。kzという Google のCM曲とかで有名な初音ミクのプロデューサーがニコニコ動画に最後にアップした「Last night, Good night」という曲のパラデータ(ミックスされていないパートごとのデータ)をいただいて、Go-qualia がリミックスしました。これも全部初音ミクの声を切り刻んで作っています。これは音源を使った二次創作です。
 その後に企画もので出したのが『鷲宮Feel Recordings』で、「フィールドレコーディング」と呼ばれる、環境音を録音したものです。たまにCDショップの端っこの方に森の音とか海の音とかいうのが出ていたりしますね。
BK-K_016washimiyaFeelRecordings_main 何がしたかったかというと……ニコニコ動画やYouTubeでは、アニメを勝手に使用した二次創作がいっぱい流れるじゃないですか。でもあれは基本的にグレーゾーンというか、訴えられたらアウトです。ネットレーベルって勝手にアニメをサンプリングしていることが多くて、実際アニメのリミックスを出して権利者に訴えられて削除されるレーベルもありました。それに対して「うちは勝手に使うことは絶対しない」というのを最初から決めていました。だけど、僕も Go-qualia もアニメが好きなので、何かしらアニメを絡めたものが作りたいと思っていたんです。それで、『らき☆すた』に鷲宮神社の子たちが出てくるので、その鷲宮神社で音を録ってそれをリリースしようと。そうすると、権利には触れないけど二次創作だということは、多分『らき☆すた』が好きな人には分かるわけです。
 音は Go-qualia が録っていて、僕が撮った映像とあわせてリリースしています。一応神社に前日に電話して「撮影していいですか?」と聴いたら「あっぜひぜひ」みたいな感じで、さらに「音を録って配信していいですか?」って話をしたら「は?」って言われたりしました。完全にただの環境音で、音自体の加工はあまりしてないです。
 2012年の『Creative Commands Compilation Data』というコンピレーション・アルバムは、文化庁メディア芸術祭の審査員特別推薦賞をいただきました。先に説明したクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに着目した作品を作ろうと進めたものです。「日本でクリエイティブ・コモンズ・ライセンスにて公開されているネットレーベル楽曲を2レーベル以上3曲以上セレクトし、分解・継承して新たな作品を生み出す」というテーマで、各アーティストに楽曲制作をお願いしたんです。右側が元の曲、左側が新しい曲で、元になった曲のリリースページに飛んで聴けるようになっています。
CCCD
 クリエイティブ・コモンズ自体がまだ浸透していないので「こういうことができるよ」と提示したいというねらいがありました。また、当時クリエイティブ・コモンズ・ライセンスをつけているのにそれが何なのか分かってない人が結構多くて、リリースした音源が YouTube で使われてるのを見て怒っている人がいたりしたので、「いやいや、自分で二次創作オッケーってマークつけてんのにそれ怒っちゃだめでしょ」という意味も込めています。あと『Creative Commands Compilation Data』は略すと「CCCD」、つまりコピーコントロールCDのことにもなるという皮肉を入れて遊んだりもしています。

コラボレーションから広がる展開

s_ss_jacket 『Summerscape Compilation』というアルバムは、一般のユーザーと交流できるものがいいなと考えて、instagram を使って作りました。ユーザーに #my_summerscape というハッシュタグをつけた写真を instagram で公開してもらい、集まった中から厳選しました。アーティストには時間と場所の設定を曲のテーマにしてもらって、それを時系列に並べています。そして、曲ごとに公募で集まった写真をジャケットにしてリリースしました。ダウンロードすると音楽と一緒にジャケットで選考した写真も入っています。リリースページには載せきれなかった写真も表示されて、そこから instagram に飛べるようになっています。
 2014年に出した『City Lights Reflection』は、さくらゆらというアダルトビデオの女優さんの販売元から話があって、 分解系と Maltine の2レベールから、それぞれさくらゆらが歌う楽曲をリリースしました。「Under18」を選ぶと「Yahoo!きっず」に飛んで、「Over18」を選ぶと楽曲が聴けるという風になっています。この企画に関しては、クリエイティブ・コモンズのマークと18禁のマークをここで並べたかっただけなんですけど。
 この時期から、ネットレーベルとコラボしようという人がどんどん増えてきて、メジャーとのコラボレーションも出てきました。それまでネットレーベルでリリースしてきた人がアニメの楽曲制作の依頼を受けたりとか、メジャーからデビューしてるアーティストの楽曲のプロデュースを頼まれたりということが一気に増えた時期ですね。
dendelvoile
 でも、うちはそれと逆行して、完全にマイノリティでやってこうと思っていまして。『dendel voile』をリリースした Hizmi は、X68000という1987年にシャープから発売されたパソコンの内部音源を鳴らしてる方です。つまりX68000をハックしたチップチューンです。チップチューンといえばゲーム音楽みたいなイメージがありますが、実際にはチップチューンという言葉は、ハードウェアから音を出すことを指します。リリースページで曲を聴くと、右側にソースコードが出ますが、このコードを書くことで曲を作ってます。ダウンロードしてもらうと中にソースコードも入っていて、X68000を同じ環境にしてこのソースをぶち込むと、この音が鳴ります。
BK-K_044Emboss_omt これ以外にもチップチューンは出していて、Saitone さんの 『Emboss』はゲームボーイで作っているので、いわゆるチップチューンのイメージに近いかな、いやそんなことないかな。ちなみにゲームボーイって筐体によって音が違って、最初に出た白黒の分厚いやつで作ると、音が太いらしいんですよ。個々の筐体でもちょっと違ったりするらしく、チップチューンやってる人たちは、ひたすら中古を買い漁って音を試したりしているみたいです。ジャケットは僕がやったんですけど、中古のゲームボーイを買って全部分解して、パートごとに写真を撮って Photoshop で加工しています。だいだいこんなところが最近のリリースです。ありがとうございました。


 後編では、音楽家にとってのネットレーベルの役割や、ライヴやクラブといった「現場」とレーベルの関係について交わされた議論の様子をお届けします。

Naohiro Yakoさん講義レポート(後編)ネットレーベルは音楽活動の場所をもたらす