第二回公開研究会(1)

音楽の一部となる言葉

安田:皆さんこんにちは。今日は暑い中ありがとうございます。前回学校でやったんですけど、なんか街に出たいという要望が強かったので、今回は祇園祭の宵山の真っ最中の木屋町で開催することになりました。立誠図書館の柏さんありがとうございます。図書館なので、完全にクローズドにはできないんですね。普通に本を読みにくるお客さんもいらっしゃると思いますので、お互い譲り合って進めていきましょう。ええと前回かなり時間がかかったので……
荏開津:ははははははは!
安田:……今回は、18時までの三時間みたいな感じで時間を取っておりますが、できるだけ面白い話を、休憩を取りながらしていきたいと思います。
 さて、ご紹介します。タカツキさん(拍手)。それから、荏開津さん(拍手)。それからわたくし安田でございます(拍手)。今日は、あの、割となんだろう、「声」、みたいな話に三人ともなっていくんですが、アプローチは割とバラバラで。配布資料がそこに置いてあります。あんまり刷ってないのでなくなっちゃうかもしれませんが……。
今日は、タカツキさん、それから僕、それから荏開津さんという順番で、お話をしていきたいと思います。その後また、意見交換とかできたらと思いますので、よろしくお願いします。じゃあタカツキさんお願いします。

タカツキ:立誠小学校でのポエトリーリーディング研究会。まずは始める前にふたつほど夏の詩を詠んでみましょう。

「青い夏」
くすのきの匂いのする頃には雨も上がり空は抜けるように青く
スプレーで書いたように昇り立つ憎い奴が我々を待つ

細い歩道橋、階段の入り口が今年の夏も秘密基地
アスファルト逃げ水の向こう続くひまわりと話す海への道
もう僕には時間がなく残された宿題を解くこともない
ほどくことのないつっかけた靴の紐さえも行方が知れない

しあわせな眠りのため午後の眠気を避け待った通り雨
だから今だけはもう少し風よ凪げ深くそして青く

そうあれは青い夏歩道橋から見た海と空をわかつ
入道雲は高くそびえたつ まごうことのなきあれは青い夏
暮らす日々は尽きるを知らず一瞬でさえも永遠に不滅
切り傷逃げ水の向こう逆光で待つあれは青い夏

「物忘れの神さま」
物忘れの神様がこの海のむこういたはんねんて
前田さんや中島さんに輪をかけたようなそらぁ大物やねん
んでえげつないことどんならんこと んがぁと飲み込まはんねんて
ほたら根の国底の国のどこかに全部置いてきてしまうらしい

もくもくもっくの入道雲にknock, knockノックで今日もサバイブ
送れ送れどんどんむこうに サンダラボッチ 邯鄲の夢に

うれしの子、うれしの子 しょうもないことほたえては
夏の太陽、夏の太陽 くすのきのねきでわろてけつかる

(でもねいいんだ……かめへんよ)

「音楽の一部になりたい」という欲求

 前回はなぜこういうラップのようなポエトリーリーディングのようなことをするに至ったか、ということを話していたのですが、時間切れで一章にたどり着かなかったので今日は、続きからお話をしていきます。

 前回の後半は「音楽の一部になりたい、という目的で詩を書いています。」という話でした。当時は1〜2小節のループをサンプリングで作って、それを部屋で延々と聴いていた。次第にこのループを発表したい、人に聴かせたい、という衝動にかられる。どうせ発表するなら、自分の創意工夫を加えたい、自分も音楽の一部になりたいという気持ちから、自作のラップを入れるということになりました。
 ループされたインストになにか、音を加えることで景色に広がりを出せる素材、というのは私の場合だとラップです。シンガーの人だと歌ですね。会話やセリフを入れる人もいます。これは異国語であったり自国語であったり。
 他には自然音とか生活音、環境音を入れる人もいるかと思います。よくあるのが空港の音とかをまぜたり。当然、プレイヤーだと楽器ですよね。これぐらいしか自分思いつかなかったんですけど、他にこんなの入れてる、みたいなのを思いついたら教えてください。
 様々な素材をまぜて曲を作っていくわけですが、自分は音楽の一部として、言葉を紡ぎだしたというのがありました。言葉は、ループ音源を補うために生み出しています。
 そういう風な詩の作り方をしていたので、「自分がどうだ」という積極的な衝動があって作っていたというよりは、どこか消極的で、ループ音源に対して、「なにか物足りないので言葉を足している」というのが始まりのような気がします。
 それで、ヒップホップが面白いのは、曲を作った後にトラックを抜いた状態で、声を裸にして聴いてみると、別の景色が立ち上ってくる。ア・カペラですね。それからトラックを全く別にして、声を重ねてみるとさらに別の景色が浮かんでくる。これがリミックスですけど、面白い意外性があります。
 特にラップっていうのは、メロディやコード、ハーモニーがないのでキーを合わせる必要がない。テンポとリズムさえあればリミックスとの相性がいい。原曲と差し替えるトラックのBPM(Beat Per Minutes)を合わせるだけで、リミックスになります。これがヒップホップやラップの面白かったところだと思います。今だと、メロディを歌いながらラップする人もいるんでキーは合った方がいいんですが、意外とキーが合わなくても面白かったりする。
 「音楽に溶け込んでいきたい」という時にどう工夫をしたかというとですね、ループ音源を延々かけていると、浮かんでくる景色がある。その景色を言葉にするんですが、ただ喋るだけでは、説得性が足りなく聞こえたので、ループ音源に呼応して、隙間に声を入れようとしました。

音楽に溶け込むための工夫1(ラッパーと倍音)

 「隙間に声を入れる」というのはリズムもそうですし、周波数もそうです。まず周波数の方で話をしていきたいと思います。「サラーム・レミ」のトラックを聴いてると、ここら辺の声を出せば、声が立つんじゃないかということを、色々と声色を自分で試しみて、あとあとわかったんですがそれが倍音というものだということがわかりました。倍音の話をしだすとですね……本当に倍音好きな人ってのは色んなところにいてですね(笑)、
 荏開津:ははは!
 タカツキ:きりがあるところで止めておきますけど、「音と文明」という本を書いた大橋力さんという方が主宰している「芸能山城組」っていうケチャやる人たちがいますよね。AKIRAのサントラとかで有名になりましたが。ケチャやガムランも倍音がすごく周波数の高いところ、可聴領域の上でも鳴っているそうです。ほんと掘り出すとですね、聞こえないものや見えないもの、宗教とかスピリチュアルの方まで、行ってしまうのが倍音なんで詳しいことは、研究するなり、専門の方に聞いてください。
 自分の経験的に「周波数が物足りない部分がちゃんと補われていると、内容は省略や飛躍が行いやすい」と。難しく言ってますけど、「声が良かったら、説得力があります」ということですね。
 音楽的にありだと言葉は作り手側の意図からも離れ、聞き手側の想像力に委ねることができる。逆に音楽的になしなら、どんなに意味や意義のあることを言ってもなしになってしまう。
 そういうことを宅録で録音しては聞き直して自分で「ありか、なしか」音楽として聞けるか聞けないかを当時の自分のセンスで判定して今のような声を探していました。
 デビューしてスタジオに入ってエンジニアの人とレコーディングできるようになった時に言われたんですけど、「倍音がよく出てますね」と。それで倍音というものを知るようになりました。さっき二種類詩を詠んだとき、2回目はちょっと声を立てて、倍音を強めに詠んでみました。
 ちょっとだけ倍音の説明を補足しておくと、必ず「倍音があるから心地よい声」とは限らないんですね。倍音っていうのはもう、人それぞれの好みの問題です。
 まず「整数次倍音」というのがあって、整数次倍音は綺麗な声であったり、えー、ホーリーな印象のものであったり、女性のシンガーに多いですね。綺麗な声で歌うというのがどういうのかというと、サイン波に近い声なんですが、弱かったり小さかったりしても歌声がよく届いてくる。そばにいる印象です。
 もう一方は、「非整数次倍音」。倍音が整数の形に揃ってない。これは雑音やノイズやブルージー、ブルースの感じですね。自分の好きなラッパーはこっちの方が多いです。さっきもやりましたが(濁った声で)「はー、はー、はー」「わー、わー」というちょっと濁った感じの声ですね。
 音源でこれが好きだ、あれが好きだ、っていうのを聴いているうちにですね、自分の好きなラッパーっていうのは、どういう工夫をしてるか……工夫というか、意識をしてたんでしょうね、当時のトラックや生楽器の中に埋もれない、音楽として聞きごこちの良い声っていうのを。

 彼らが意識してか、結果的になのかはそれぞれ本人に聞いてみないとわかりませんが、声を作ってたんだと思います。色々と例を見ていきましょう。上から、NAS、Q-tip (ATCQ)、Black Thought (The Roots)、C.L.Smooth、Snoop Dogと挙げています。めっちゃ有名どころですけど、ひとつずつ聴いていきましょうか。ラップする声に気を付けてみなさん聴いてください。

Nas – The World Is Yours

 こういう感じ引きずった声で歌っています。これがNAS。NASってまぁ本当にラッパーの中のキングみたいな人ですけど。次、Q-tip聴いてみましょう。ちょっと共通した印象に気がつくかもしれないんで、どこが似てるんだろうというのを気にしながら、聴いてください。

Q-tip (ATCQ) – Lyrics to Go

 ア・トライブ・コールド・クエストの、Q-tipというラッパー……かっこいいですねぇ。もうひとつぐらい聴いてみたら共通点が……見えてくると思います。次はThe RootsのBlack Thoughtというラッパーです。

The Roots – Mellow My Man

 ヒップホップっていうのは、生楽器でもこうやってドラムが従来の楽曲よりもばっちばち鳴っててですね、低音もブンブンうなってる。その中で「自分の声をどんだけ特徴付けられるか」っていうとこがあると思うんです。
 ひとつはリズムをうまくonなタイミングからかいくぐって、声を際立たせるという方法。もうひとつはこのように、声をドラムとかベースの音と当たらないところを探してきて声を出す、という方法。それで非整数時倍音、雑音やノイズが混じったような声になっていると。もうちょっと進みます。

Pete Rock & CL Smooth – Carmel City

 今、紹介してるのは結構みんな古いタイプのラッパー。当時のトラックには傾向があって、自分はこういうトラックの中でこういうラップの声を出してる人が、わりかし好きでしたね。黒人音楽のルーツとなるブルーズもそうです、ひきずったガラガラの声とか、連綿とそういう声を作るのが続いてるのかもしれません。
 ヒップホップと同時にレゲエの方でもがらがら声を出すのがすごく流行ってて、今日は紹介しないんですけど、Buju Bantonやタイガーとか、やたら声がガラガラしてるのがすごくダンスホールレゲエのほうで流行しました。もうひとつ、別の例を見てみましょう。Snoop Dog、この人はちょっと声の質が違うんです。

Snoop Dogg – Gin And Juice

 この人は、ドクター・ドレの鳴りのいいトラックの中で、声はかき消えてしまいそうな印象のペタペタした感じの声ですよね。でもこの人がなんでこんなによくラップが聴こえてくるのか、ひとつは、録音技術が上がったっていうのもおそらくあるんですけど、この人はリズムの取り方が工夫されていて。キックやスネアの強いアタック音の部分をかいくぐって発声してるんじゃないかなぁと、思います。その話は次節以降しますが、リズムを潜っている。「リズムのくぐり方」がきっと上手なんでしょう。
 こうやってラッパーは自分の声に関して様々な工夫をしながら自分のキャラクターを立たせています。他にもちょっと名前をあげてますが、Method Man、GURU、Common、この辺りが私は好きでした。更にちょっと対極的な別の例を挙げていきましょう。Cypress Hillっていうグループですね。

Cypress Hill – Insane In The Brain

 ペタペタな声ですね。声をブルージーにしたり、非整数次倍音を増やすんじゃなくって、このように様々な風な声の作り方をしています。日本語ラップでもそうです、印象的なのはNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのDELIさんですよね。すっごいたっかい声のラッパー、あとTwigyさんの鼻のあたりの骨や、口蓋が響いてるような声色とか。

 ビートやループに対して自分の声を確立させる、声を作るっていうのは、まず言葉の内容云々よりも先に、ラップとかパフォーマンスをする人には大切にされている、優先されている、と思うところがあります。ラップの用語で「フロウ」というのがありますが、声は「フロウ」の一部だと思います。
 もしラッパーの人とか、詩を詠む、もしくは歌う人がいて、自分の声を音の中に溶け込ませようと思うなら、好きな音に対して自分の声をあれこれ試していくといいかと思います。この頃は録音やミックス技術がさらに向上して、トラックも色んな傾向があります。実験して自分が思う「いい声」を模索するといいでしょう。

 もうそろそろ時間なので、次節はさわりだけ……。まぁ次回以降になると思いますが、紹介しておきましょう、音楽に溶け込むための工夫っていうのでもうひとつ、ビートに載せる、リズムの取り方、っていうのがあります。
 この後ですねGreg Niceというラッパーを紹介しますが、この人はほとんど韻を踏んでないんですね。お尻しか踏んでない。でもすごくリズムが出て、かっこいいと。これはなんなんだろう?
 自分も、韻というのはリズムを出す為にあるものだと考えています。つまりリズムがでれば、取り立てて韻を踏むことは重視してません。むしろ「韻を韻として意識させる」ことは、失敗になるんじゃないかと自分は考えています。これは次回以降に紹介したいと思います。自分の発表はここまでにしたいと思います。

 ありがとうございました。