第一回公開研究会(4)

淘汰される側のラップ論、またはヒップホップの年の取り方

タカツキ:「淘汰される側のラップ論、またはヒップホップの年の取り方」というまあ、すごく大げさなタイトルですけど、これから話をすることは、ラップやスポークンワーズ、ポエトリーリーディングの普遍的な定義ではなくて、あくまで「自分の方法論」みたいなものです。音楽や、軽音楽ってのは普遍的な答えってのはなくてですね、それぞれ自分で答を見出していくと。で、その答がたまたまどこか普遍的なものにリンクしていれば、それはそれで面白いんじゃないかなと思うのであんまり鵜呑みにせずにひとつの考え方として、聞いてください。四回に章立てて、お話が出来ればと思っています。

一章「音楽の一部となる言葉」
二章「おじいちゃんになってもパフォーマンスできるか」
三章「守る・破る・離れる」
四章「Youth Music, Youth Culture」

 一章は「音楽の一部となる言葉」これは私が音楽の一部になるにはどうしたらいいのかということについて……声の倍音の使い方とか、ビートへの乗せ方、スイングのさせ方、みたいなことをお話しできればと思います。
 二章は「おじいちゃんになってもパフォーマンスができるか」おじいちゃんになった時にどういうパフォーマンスをしているかというのを、まあ、考えながら私はちょっとやっているところがあります。
 三章は「守る破る離れる」。これはですね「Wu-tang Clan」っていうラップグループがいて、それを掘っている うちにまちがって「少林寺拳法」にたどり着いたんですね。で、少林寺拳法を調べていると、「守る破る離れる」という言葉があって、これはあの、世阿弥の『風姿花伝』の中にも書いてある言葉ですね。どうやって表現などに寄り添ってその人が変わっていくか、ということです。
 四章は「Youth Music, Youth Culture」。とはいえヒップホップってのは若い人たちの音楽、若い人たちの文化ですと。私のようなおじいちゃんはとっとと、退場して、京都でのんびり暮らしたほうがええんだと思うんですけどね(笑)。そういう、パフォーマーと社会の蜜月は五年ぐらいですよ、というのをお話しできればいいかと思っています。どこかのタイミングで、ゲストに小林大吾くんとかを招いて、別の角度から方法論を披露してもらったりできればと思います。
 では、一章に行く前に「なぜラップを始めたか」というすごい個人的なことから始めていきたいと思います。私がなぜラップを始めたかっていうのは、実は、ループ音楽をずっと聴いていたいっていう欲望があったんですね。当時九四年、サンプラーとMTR――MTRっていうのはレコーディング機材で、サンプラーってのは音を作る機材なんですけど――これを購入したばっかりの頃は、ループを組んでですね、ひたすらそれを聴いていました。
 どういうループを聴いていたか聴いてもらいましょう。音は出るかな? この音楽は実はループで同じパターンが 繰り返してるんですね。

Notorious B.I.G. (1994) “Big Poppa” Bad Boy Entertainment Arista

 こういう音楽を聴いてました。これ、サンプリングっていう手法で、当時はヒップホップの独特の手法で作られてんです。サンプリングというのをご存知の方は? あ、もうほとんどの方が知ってますね。極端に言ったら、よその歌から取ってきて、ループさせて曲を作る、という手法なんですが。これの元ネタを聴いてみましょう。アイズレー・ブラザーズっていうね、ソウルミュージックのグループです。

The Isley Brothers (1983) “Between the Sheets” in Between the Sheets. T-Neck

 いいですね、アイズレー・ブラザーズ。
荏開津、安田:ははははは!
荏開津:いいです!
タカツキ:アイズレー・ブラザーズっていうのは、ヒップホップのトラックメーカーにがんがんサンプリングされて使われていて、美しいメロディとコードを作るバンドで、よく使われてます。一応インストゥルメンタルも聴いてみますか。

Notorious Big (1994) “Big Poppa (Instrumental)” Bad Boy Entertainment Arista

 これはSean “Puffy” Combsというトラックメーカーが作りました。丸使いですね。こういうループ音楽をずっと家で流して聴いていたと。九四年ぐらいにフリーソウルのコンピが出たんですよ。『メロウ・アイズレーズ』っていう。これをとても聴いてましたね。アイズレー・ブラザースのサンプリングネタにもなった音源ばっかりをコンピレーションしたやつなんです。もう一個、一番好きなループミュージックが、次紹介するやつです。

Black Sheep (1994) “Without a Doubt” Mercury

荏開津:一番好きなやつ(笑)?
タカツキ:Black Sheepの「Without a Doubt」。このトラックがすごく好きで毎日、夜中は聴いてました(笑)。これは、Black Sheepというグループのラップが入ってるんですけど、これはインストですね。トラックメーカーはサラーム・レミ。このサラーム・レミというのが、実はヒップホップの中の最重要人物じゃないかと(笑)。
安田:ふふふふ。
荏開津:はははははは! タカツキ氏が!
タカツキ:当時、DJ Premierと、Pete Rockっていうのがやっぱり日本のシーンでも人気があってクラブとかでもよくかかってたんですけど、自分はサラーム・レミ派で。
荏開津:はははははは! 確かに重要ですよね(笑)。
タカツキ:スネアの音、他のトラックメーカーに対してすごい弱いんですよね。ちょっと音圧が小さくて。当時これをかけても、そんなに盛り上がらない。
荏開津:はははははは!
タカツキ:人気なかったのかな?でも自分はこれが好きで、まあ家でしょっちゅう聴いてました。これの大元はやはり、アイズレー・ブラザーズ。

Isley Brothers (1973) “The Highway of My Life” T-Neck

 イントロがね、長いんですよね。でも、来ますよ、来ますよ、ここです[編集注:0’40″付近まで待つ]。最高ですね。
安田、荏開津:はははははははははははは!
タカツキ:最高です。トラックが好きで聴いてると、やっぱり原曲に戻っていくんですね、ヒップホップからソウルミュージックに。こういう「孫引きの楽しさ」ってすごいあると思うんですけど、今の曲から昔のソウルが大好きになっていくみたいな、そこがヒップホップの面白いとこやと思います。こういうのは、今はすごい便利になってですね、あの、「WhoSampled」というサイトがあってですね、昔は本を買ってわざわざ調べました。しました。なんか本がありましたよね、サンプリングの。
荏開津:うん、ありました。
タカツキ:なんでしたっけ。
参加者:『サンプリングディクショナリー』?
タカツキ:そうかな?
荏開津:ですかね。ですかね。
タカツキ:それで、WhoSampled、誰がこれをサンプルしたんだっていうか。これね、ここにいくと、今だったら、ヒップホップミュージックが、誰が、サンプリングしたかというのが大体分かってしまいます。で、自分気づいてなかったんですけど、この人たちのドラムがですね、これですね。

POWER OF ZEUS (1970) “The sorcerer of Isis (The Ritual Of The Mole)” in The Gospel According To Zeus. Rare Earth

荏開津:これかー。
タカツキ:ここですね。ここですよね。この、ダッドドンドンダッが使われてるのがそうでちなみにですね。このBlack Sheepの「Without a Doubt」の最後の方にメロディが出て来ます。これもWhoSampledのようなウェブサイト見たら書いてあるんすけど、「Get Up and Dance」という曲ですね。

Freedom (1979) “Get Up and Dance” in Farther Than Imagination. Malaco Records

という、小憎いメロディが使われてたりする。こういう引用文化というのが面白いなぁと思ったんすけど、このメロディ、日本でも使ってる人がいて……
参加者:『ポンキッキーズ』ですよね
タカツキ:そうそうそう。『ポンキッキーズ』でスチャダラパーが「Get Up and Dance」を丸づかいしてるんですよね。こういうの知っていくのがすごく面白くて、自分は、好んで聴いてました。
 こういうループ音楽をずっと聴いていると、浮かんでくる景色があるんですね。歌ものや変化や展開が多い音楽なら、その展開を楽しみたいって思ってたんですけど、その一方で、ループ音楽を夜中じゅうかけてるとですね、勝手に浮かんでくる景色があるんです。なんかそういうのを言葉にしたいと思ったのが、詩を書こうと思った始まりです。で、これはもしかしたらその、安田さんとかが最初にお話ししていた、個人から、普遍的なものへのリンクみたいなものに近いのかなぁと思っています。
安田:うんうんうんうん。
タカツキ:「共意識への接続の黎明」というか。こういう音楽が好きで、あれこれ生きてるうちに、また別の街で、おんなじ音楽が好きな人に出会ったり、外国でも、言葉通じないけど、あのトラックいいよねみたいな、一緒に踊ったりとか、そういうことが始まって。そこで不思議に思ったのが、「コード感が人の感情に与える影響ってのは世界中で共通的なものなのか」っていうことで。
 例えば、マイナーコードをポローンって弾いたら人は悲しくなる、メジャーの楽しげなコードを聴いたら人が嬉しくなるっていうのは、これ世界中で共通的なものなのか、誰が聴いてもそういう気分になるのか。もしかしたら宇宙人(笑)が聴いても、これ、おんなじなんだろうかと。そういうこと考え出したら、音楽やコードってなんなんだろうということを思うようになってきました。
 ちょっと『未知との遭遇』の映像を見てみましょう。もし宇宙人がいるとして、最初に宇宙人とコンタクトをする時、「我々は知的生命体です」というのは言語では伝えられないんすね。じゃあどうやって伝えるかというと、ふたつあって、ひとつは「数学」で伝える方法。それは、『Contact』って映画があるんですけど、映画の中では、素数の配列を、どんどん、どんどんどんって、二、三、五っていうパルス信号を送信し続けて、「我々は素数という概念を知っている知的生命体だ」っていうメッセージを送ったんです。もうひとつは音楽。ほかにもアートで訴えかける手段は色々ありますが、時間軸が伴っている代表の例が音楽で、UFOがこのメッセージを送ってくるんですね。

スティーブン・スピルバーグ監督(1977)『未知との遭遇』コロンビア映画

 例えばUFOがこういうメッセージを送ってきたとしたらみなさんは、どういう風に解釈しますか?「よくわかんないけどこの人たちは音楽を持ってるんだなぁ」……ということは分かると思います。音楽があるくらい知的生命なんだなぁと、思うことでしょう。
 音楽やコードはなんなんだろうか、そういうことを思い始めて、まあ、将来的にはあの「ヒップホップってのは、宇宙人と一緒にマイクリレーできるんじゃないだろうか」、というところまで思いが至ってですね、ループに対して、色んなラップ、宇宙人のラッパーが言葉を交わし合うみたいな……。
 で、言葉の意味は分かんなくてもなんか、ああ、なんか音楽として何かになってるんだよと。そうなればいいなと思って自分は二〇〇一年に、宇宙人のマイクリレーみたいなのを、作ったんです。「M.Ceez from another planets」というスキットで、アルバム『hiphop music』のなかに入っています。


Takatsuki (2001) “M.Ceez from another planets” in hiphop music. nrecords (AppleMusic)

荏開津:あっはははは!日本語じゃないんだ!宇宙人だから!ははは!
タカツキ:っとね、この……宇宙人は私がやっています(笑)
荏開津:かっこいい。……そうだよね、宇宙人だもんね。……この人はいびきの人?
タカツキ:この宇宙人は、寝ながらラップをしている。
安田:ふふっ。
荏開津:すごい。かっこいいよね、これ。
安田:これ宅録ですか?
タカツキ:ああそう、宅録です。
安田:ふふっ、自分んちでやってたんですね(笑)?
タカツキ:自分でやってました(笑)
安田:ははは!
荏開津:これ……いいですね。すごいいいと思います。
タカツキ:しかも、最後に、『peace unity love & funk』 の引用を宇宙人MCがやっている。
荏開津:バンバータ直系の、いいですね〜。
タカツキ:いずれ音楽を通してこういう風になればいいなと、思って……。そういうスキットを作っていました。
 ちなみに「music,」っていう曲があってですね、先ほど紹介しましたが、サラーム・レミのトラックをずっと聴いてたら浮かんできた景色みたいなのは、さっきも読んだ詩ですけど、この曲です。


Takatsuki (2009) “music,” nrecords (AppleMusic)

君を連れ出しにきたんだmusic,  行き着く先はそうさ白夜の休日
ピクニック 博徒 七色の友人。イスタンブール ジャマイカ NY
しがみつくバックトラック ふらついてハイジャック
足音がタップタップ 道打ち鳴らす
旅人のリズムと誰かが呼んだ
ここからどこへも行かなくていいんだ
Norf Side から風が吹いてる
今日も出発hip-hopでトリップしてる
地下鉄 ひといきれ くもる窓拭いて
海が見える ここからどこだっていける
かわり続ける景色眺めてる
かわり続ける景色眺めてく
わからない事あまりに 時々立ち止りたくなるけれど
まるで子供から大人の宇宙飛行士
花見小路から駒沢通り
忘れることからも逃げ出すように
目と目を交わしてはWe still keep blowing
いつも気づく闇夜に切り抜く乗り継ぐビークルやみつきのリズム
とけて広がる心は自由 君を連れ出しにきたんだmusic, 

ループを聞いているとこういう景色が浮かんできたので、言葉としてとどめてみました。なぜリスナーから演者になっていったかっていうことなんですけど、なぜこういう風にやってみたいって思ったかっていうと、意外とできそうだったから、というのがあります。
荏開津、安田:うん。
タカツキ:なんですよね。やってみたら意外と簡単にそれっぽくなったぞ、っていうのがあってですね。それはヒップホップのいいところだと思います。MTRっていう録音する機械の上にヒップホップのインストや、レゲェのバージョンというものを録音しておいて、その上に声を乗せればなんかかたちになるぞ、と。
 声を乗せたものを聴くと自分も、すごくその世界の中に入れた気がしたんですよね。それで、どんどんやっていこうと思うようになって、色々やっていくうちに、自分のこうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかというルールが見つかってきました。今日はもう時間が時間なってきたんでここ迄にしたいと思います。


つづき
(1)イントロダクション
(2)詩の立ち位置
(5)質疑応答