第一回公開研究会(5)

質疑応答

質問者1:まだ消化できてなくて浮かんだ質問……、浮かんだことしか聞けないんですけれど、えとタカツキ先生のこの……
タカツキ、安田:先生(笑)。
タカツキ:はい、ありがとうございます(笑)。
質問者1:……サンプリングのお話が今ちょうど興味があって気になってたところで、「あ、聞きたい」って事が浮かんだので聞かせてください。
タカツキ:はい。
質問者1:あの、気になってたキーワードがあって、漠然とした知識じゃない、なんか、現象のところで知ってたことを、言葉で……。この具体例ってこれが、孫引きでこうなってこうなって……っていうよりも、教えてもらって、ああそうゆう事だったのかと思ったんですけど、サンプリングミュージックを好きな人っていうのは多分いるのかなって思って、ジャンルとして、そうゆう……
タカツキ:はい。
荏開津:いるいる。います。笑
質問者1:……そうゆう人たちって、やっぱり――私なんかは例えばたまたま知ってたら、これはこれだなっていう風に楽しみだすっていう可能性はあるけれども――そうゆうジャンルが好きな人は、これとこれとこれがこう繋がってて、っていうような楽しみ方が、ベースであるのかなっていうような……。その、受け取り方の土台がどう違うのかっていうのに興味があって。
タカツキ:ああ。何種類かあると思いますけど、知識や情報として楽しむ――それこそ、ポケモンを集める、みたいな感じで――文脈で楽しめる人はいますね。わたしもけっこうそういうのは好きで――べつにそれは音楽だけのものではないですよね。この作家はここから影響受けて、あの人から影響受けて、この本を書いてとか、この漫画家はあの映画が好きで、こうゆう漫画を描いたとか――もしも自分が憧れるひとの真似をしたいって思ったら、その人を真似するんじゃなくて、その人が引用していたものを真似をするように心がけてます。だから、例えば、Black Sheepが好きだったとして、直接それを真似するんじゃなくて、一個上まで戻って、アイズレー・ブラザーズだったり、マーヴィン・ゲイだったり、で、アイズレー・ブラザーズはなにが好きだったんだろう、マービンゲ・ゲイはなにが好きだったんだろう、っていったらブルースの方まで遡ったり……。上流の方から、その人に対する憧れを、形にするみたいなのが好きですね。
質問者1:そういった場合、その、ゲームだったら攻略本とかあるじゃないですか、雑誌で。この人はこことすごい繋がってる、みたいなのもあるんですか? カルチャーとして。
タカツキ:ありましたよ。ね。
安田:うん。
タカツキ:『BMR(ブラック・ミュージック・レヴュー)』とか『ミュージックマガジン』で、ファミリー・ツリーみたいなんがよく描かれてたんですよね。それを調べていって、あ、こんな音楽があるとか。ファミリー・ツリーって樹状図になってるんですけど、それの上の方に遡っていくっていうのはほんと……
質問者1:へ〜おもしろい。
タカツキ:それをレコ屋に行って見つけて、「あ、探しだした!」っていうのは本当に楽しい(笑)。
安田:まぁ、『ポケモンGO』みたいなもんですよね。
タカツキ:ポケモン(笑)。
安田:その、ポケモン探すために街を歩くみたいに、元ネタを探してレコ屋を巡る。ま、面白いと思った曲があって、その元ネタの情報を探して、で、その元ネタを――そのレコードとかCDを――求めて街を徘徊する。それをなんか、レコード屋さんの、何軒かあるなかで一番安いところで買うとかさ、そうゆう、なんか、もう本当に、都市空間の読替え的な……。
荏開津:……そうですね。
タカツキ:ああ。
荏開津:それは九〇年代の若者のメインの楽しみですよね。
タカツキ:ああ。
荏開津:メインでもないけど、結構そうでした。
タカツキ:楽しいですよね。
安田:で、そこで友達に会っちゃって、
荏開津:そうですね。
安田:ご飯食べにいって、とか。そうゆう。
だけど、どんどん、あの、ワンクリックでできるようになってるから、それもなんかのその、経験の形骸化みたいなことにつながると思いますね。
 うん。なんか昨日、たまたま、えっと、博報堂のマーケティングをやってる方の講演会に行ったんですけど、あの、いま、ネット系の最新技術、例えばIoTっていって、物と物がインターネットで繋がっていて、そのある物がある状態になると別の物が作動するとか、つまり、暗くなったら電灯がつくとかそうゆうのは、もともと昔からありますけど、それがなんかその、暗くなったらっていうだけじゃなくて、時刻とか気温とか家主がどこにいるかと、そうゆう風な情報を総合して電灯が勝手に最適な状況で灯るというようなことができるようになっていて。で、アジアの中国と、タイと、アメリカと、日本で、一般的なユーザーを対象に、あなただったらこれをこれからどうゆう分野に使っていきたいですか、っていうアンケート調査をしたそうなんです。すると、中国とタイで多かった答えが、あの、社会を良くするために――街のインフラがまだしっかりしてないので、インフラのダメなところを克服するかたちで――そうゆう技術を使いたい、だったそうです。たとえば、Amazonみたいなネット通販が24時間注文受け付けていて、発注されたらその途端にドローンがそれを掴んで自分の居るところまで届けてくれるみたいなことが、何十年かしたら現実になるんですけど……
荏開津:うん、と思います。
安田:……タイとか中国だと、交通機関の合理化が進んでいなかったり、道路の整備が追いつかなくて事故や渋滞が多かったりするから、そうゆうところを新しい技術を使って補うことで、街を読み換えるって言ったらいいのかな。街のインフラの遅れているところをカバーするために、新しい技術を使いたいっていうふうな意見がものすごく多かったらしいんですね。で、アメリカは、今ほら、スマートスピーカーみたいなのありますけど、家族と一緒に住んでいる家の中をよくしたいっていうことが多いらしいんですよ。で、日本人だけ、社会のことも、家や家族のことも考えないで、VRのゲームがしたいとか(笑)、自分のことしか考えてない。自分の周りをよくすることしか考えてない。
荏開津:(笑)そう思えてしまうところもあります。
安田:(笑)だからその、街になにかを買いに行って、人と――まぁ、店員さんと――やり取りをして、どうこうするっていうふうなのは、どんどんどんどんなくなってきていて。もちろん、めんどくさいんですよ、店員さんの相手をするのって。ま、店員さんも客の相手するのめんどくさいと思ってるかもしれないけど。でも、それ言っちゃったらなんかちょっとなにかが終わってしまう気がするんですよね。僕のレジュメにも書いたけど、「動物化」みたいなこといってる東浩紀さんっていう人がいて、よく引き合いに出されるのは、あの、エッチな本を買いにいくっていう行為がどれくらい社会的な行為だったかっていうのを思い出そうよっていうたとえ話です。えっと、僕ぐらいの世代だとわかると思うんですけど、エッチな本を本屋に買いに行く時は、あのー、それ単体では買えないんですよ、恥ずかしくて。だから、こう、上にイーグルトンの『詩をどう読むか』とか置いとくわけですね(笑)。その下になんか、こう、エッチな本が入ってて。で、男の子も店員さんもお互いに目を伏せながらお釣りのやり取りをして、みたいな(笑)。
タカツキ:はっはっはっは
安田:そこでちょっとこう、無言の伏目がちな空間が生まれたりして。それは、でもなんか、道徳観みたいなものを踏まえた上で、社会的な行動をしてるから、そうゆうことになるんですよ。それが社会とのつながりを意識せずにワンクリックでできるようになったら、社会的な部分は失われていく。本当に動物になっちゃうよねっていう風なことを言ってるんですよ。
タカツキ:エロ本からすごい話なったんですね。
安田:(笑)で、たぶんなんかそうゆうのの方が便利だから良いっていう風なベクトルのほうが今の日本は強いんじゃないかなって気がしますね。だから、それをなんか、そうゆうのはけっこう僕ずっと持ってる問題意識なので、詩がそれについてなにができるかとかはわかんないですけど、そうゆうのも考えてみれたらいいなと思います。
質問者1:ありがとうございます。
安田:まぁ、レコードを買いに行けっていう話でした。
ほか、なにかいかがでしょう?――はい。
質問者2:音楽と詩の関係について伺いたいんですけど、今日、けっこうその、ラップであったりとか、その詩人の方にその音楽をつけてというかたちの話をされてと思うんですが、私はロックバンドにおいて詩を読むっていう行為にすごい興味があって、今の日本のバンドでも、割とその、作詞をする人が、その書いた詩を、歌うんじゃなくて、ラップでもなくて、ただ単純に音楽に乗せて読むっていうかたちの演奏をするバンドってのはあると思うんですけど、そうゆうので、先行例というか、その、今までの中でどうゆう試みがなされてきたのかっていうのがあったら、教えていただきたいです。
安田:ロックでっていうこと……。まぁ、生バンドっていうことですよね。
質問者2:そうです、はい。
安田:なら、パティ・スミスとか?
荏開津:そうですね。ラップの前は、さっき、いくつか名前が出ましたが、音楽の上で朗読してるというのはあります。ラップとは違うんだなぁってのは、聴けば分かりますが。ソウルとかその黒人音楽――さっきのブラックミュージックの話、タカツキさんもしてたけど、アイザック・ヘイズって人とか……。
安田:うん、うん。
荏開津:それから、ミリー・ジャクソンっていう女の人とか。それからジェイムス・ブラウンって人とか、そうゆう人たちが、延々――あの、曲自体が10分くらいで、延々と朗読というかナレーションが続くみたいな曲もあります。で、その前は安田さんがおっしゃってくれた、ロックだとパティ・スミスとか。それは、1970年代の終わりから、80年代の初めくらいで、ちょうどそのさっき、ロックの人たちが考えていた理想みたいなのが、一旦崩れかかった時に出てきますね。なんかロックの歌みたいなのを、なんかみんなでちょっともう一回作り直そうみたいな時に、あの、朗読が出てくると思いますね。で、さっき僕が言った、アイザック・ヘイズとか、ミリー・ジャクソンとか、ジェイムス・ブラウンは、その前なんですね。60年代。その人たちはアメリカの黒人の人たちだから、いろんな意味で、やっぱり、公民権運動っていうその、アメリカ黒人たちの地位向上の運動と関係があると思います。で、それより前だと、つってもロック自体が、まぁ、ビートルズからとして、大体。朗読レコードは、多分、ドラマの朗読レコードがいっぱいあるんですよね。レコードはいっぱいあるけど、ロックはまぁ、ビートルズであるかなぁ?
安田:ビートルズ……
荏開津:……とか。プレスリーとかそうゆうので、ある……かっていうと……。今すぐは思い浮かばないですねぇ。せいぜい多分、あの、ロックオペラっていう言葉があるんですけど(笑)、60年代70年代のロックグループが、なんかやっぱりね、あの、ドラマ仕立てのレコード作品をやろうとした時に、朗読みたいなのが入ってきた……ぐらいじゃないかなぁと思います。
安田:ん〜。なんかね、ポエトリーリーディングっていう、えーなんていうのかな、ま、伴奏があって、だれかがずっと詩を読んでいるっていう風なかたちはやっぱり……、それが一つのフォーマットみたいになったのは戦後だと思うんですよね。だけどなんかこう、節々に語りが入るとかさ……
荏開津:うんうん、そうですね。
安田:ね、それだったら加山雄三とかの……(笑)
タカツキ:ああ。
安田:ああのって、なんかこう独特の面白さがあって。歌を歌ってるんだけど急にその、「私」が、歌ってる人の「私」が前面にでて……。
荏開津:それこそジャズとかの50年代とかの、ロック以前の時からあるんですよね。
安田:シャンソンとかフランス……。
荏開津:そうそうそう、シャンソンとか語りだとか僕とか思ってしまうところはあります。
安田:うん。だから、メロディーが、まあ一応ついてるんだけど、その、旋律通りに時々歌わなくって、なんかシャバダバみたいに喋ってる(笑)。
タカツキ:うんうん。
安田:ふふ。そうゆうのは……
荏開津:そう。
安田:……結構あると思いますね。うん。やっぱり、あの、さっき僕の話でもちょっと言ったけど、その頃の歌ってやっぱり作詞家がちゃんと作ってるので、ポピュラーソングなんだけど、なんかこう、そんなに俗っぽく見られたくないみたいなつくりをしているような曲も。エディット・ピアフとかも……
荏開津:そうですね。
安田:……時々語りだしたりしますよね。エディット・ピアフって1940年代〜50年代のフランスのシャンソンの人ですけど。うん。
荏開津:ロックだとやっぱり70年代……
安田:ただその、詩を読みますみたいになっていくのは多分その割と荏開津さんがおっしゃったような……
荏開津:だと思いますね。
安田:……時間感覚だと思いますね。
質問者2:ありがとうございます。
タカツキ:話それるかもしれないんですけど、宮沢賢治は、もともと……。今、詩として残ってますけどほんとは歌として歌われてたのが、録音されてなかったから、文字として残ってるだけで……
安田:そうなんだ。
タカツキ:……みたいな話もありますね。
質問者2:へーそうなんですね。
タカツキ:だから宮沢賢治は歌を作りたかった、みたいな。たまたま録音の媒体がなかったから詩になってる、だそうです。
安田:あ、なるほど。
参加者:それはどうゆう曲になってたんですか?
タカツキ:うんと、当時流行ってた、何時代なんですかね、宮沢賢治は。大正時代なのかな――の演奏。その頃って、ロシアとか、そこらへんがヒップな時代だったのかな?
安田・荏開津:あー。
安田:大正になってからですかね。多分なんか、そ、ロシアは革命を起こすか、起こした後くらいですかね。
タカツキ:当時その日本でヒップだった音楽に曲をつけたかった。(註:宮沢賢治はクラシック音楽のSP盤を蒐集して聞いていたようです。)
安田:うん。
荏開津:あと、ごめんなさい。さっきの語りの話ね、あの、それこそブルースとかジャズとか、それからあの、フォークソングまでいくともうね、ぜんぜん語りが入ってきたりとかね、結構ありました。だからそうなるとあの、ブルースだって、ギター弾きながら歌いながら、あの、目の前にいる人に向かってお話しもするみたいな。
タカツキ:トーキングブルースですよね。
荏開津:語り自体はものすごい古いですよ。やっぱりポピュラーミュージックの中での語りってなこと考えると。あの、それからその、あの、プロテストフォークって、政治的主張をするために、フォーク音楽のせてなんかゆうとかっていうのも、語りとか入ってくるし、ウディー・ガスリーとか。語り自体は古いですよね。せ、戦前からある。
安田:割とでもこの、あの、何回も言うけど、あの、日本のその新体詩とか、今日僕がお話した時代に出てきた詩人が作詞をした歌っていっぱいあるんですよね。あの……
荏開津:あ、日本のポピュラーソングでね。
安田:そうそうそう。「荒城の月」とか。
質問者1:あー。
安田:えー。
荏開津:そっかそっか。
安田:土井晩翠か。あと、同じ山田耕筰作曲だと、三木露風の「赤とんぼ」とか?
質問者2:あー。
荏開津:詩人だと、そう。
安田:えっとー。あと、あれなんだっけ、あ、全然思い出せない(笑)。えーと。島崎藤村の「椰子の実」とかね。
荏開津:うん。そうですね。
安田:だから、そう、でもまぁ、朗読っていう形じゃないですよね。
質問者2:うん。ありがとうございます。
安田:はい。あと、一個ぐらい、あれば。
荏開津:なんでも。
安田:なければ。長引きましたけど……
荏開津:すいません、本当に……
安田:終わりにしましょうかね。
荏開津:ありがとうございました、本当に(笑)
タカツキ:一時間……
安田:今日はどうもありがとうございました。
荏開津:ありがとうございました、ほんとに。
タカツキ:最後まで残ってくれてありがとうございます。
(拍手)
安田:ええと、次回は7月14日を予定しておりますので。よろしくお願いします。
タカツキ:お。
安田:次は時間配分をちゃんと……(笑)。あと、大学の外に出ようかなと考えてます。
荏開津:そうですよね。
安田:街の中のどっか。ま、本屋さんか図書館か……。
荏開津:そうですね。
安田:なんかそうゆうところを探してみようと思ってます。
タカツキ:はい。
安田:ありがとうございました。
荏開津:ありがとうございました。


つづき
(1)イントロダクション
(2)詩の立ち位置
(4)淘汰される側のラップ論、またはヒップホップの年の取り方